表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/104

第四十二話 お札が、ない


 ***


 その頃。参道ルート。

 奏は、祠に手を合わせていた。


 ――どうか、力をお貸しください。


 心の中で、祈る。

 

 そんな奏の背後には、


「奏ちゃーん。そろそろお弁当食べていいー?」


 ソワソワしながら尋ねる伊吹がいた。


「……伊吹さん」


 祈り終えた奏が振り返る。


「それ、五分おきに聞くの、やめてくれますか?」


「だってぇ……お腹すいたぁ……」


 しゅんと肩を落とす伊吹に、奏は腕時計を突き出して見せた。


「まだ九時ですよ!?

 ていうか、バスの中でずっとお菓子とかパンとか食べてましたよね!?」


「そ、そうだよ。伊吹ちゃん……。

 今食べたら、もたなくなって後で倒れるよ……」


 福も、消え入りそうな声で奏に続く。


「ぐぬぬ……」


 伊吹は苦悶の表情を浮かべた。


「せめてあと二時間!耐えてください!!」


「に……二時間……!?!?

 福ちゃん!奏ちゃんは鬼だ!これは拷問だよ!!」


 奏は、はぁっと深いため息を吐いた。

 どっちが年上なんだかわからない。


 思いのままに質問を投げる。


「……伊吹さんは、どうして狛さんと紫苑さんとチームを?」


 狛と紫苑は同じ久世派。けれど、伊吹は違う。

 それなのに、どうして二人と行動を共にしているのか――単純に疑問だった。


「……気になる?」


 伊吹は上目遣いで奏を見た。

 その瞳が、少しだけ潤んでいる。


「はい。それなりには」


「お弁当食べてもいいなら、教えてあげる」


「……」


 奏の瞳が、光を失った。


 カァ……カァ……。


 カラスが鳴きながら、頭上を通り過ぎていく。

 そして、


「……わかりました。

 ただし、半分だけです」


 奏なりの折衷案だった。


「やったー!!福ちゃん!お弁当ちょうだい!」


「い、伊吹ちゃん、落ち着いて!崩れちゃうよ!」


 奏の返事を聞いたが早いか、伊吹は福のリュックサックに手をかけていた。

 地面に座り、食事モードに入る。


「半分だけですよ!?」


「わかってるわかってる〜!

 おわー!おいしそ〜!!」


 お弁当箱の蓋を開き、伊吹は瞳を輝かせた。

 古我さんの準備してくれたお弁当は、和食中心の、どこか懐かしい献立だ。


「いただきまーす!」


「……急いで食べると喉に詰まりますよ」


 奏は、水筒のお茶を伊吹の側にそっと置く。

 なんだかんだ世話をしてしまう性分である。


「んで?

 どうして、ボクが狛くんたちとチーム組んでるのかって?」

 

 伊吹は咀嚼しながら奏の方を見た。

 ごくんと飲み込んで、続ける。


「狛くんが誘ってくれたの!」


「狛さんが?」


「そう!ボクね、施設育ちなの。

 小さい頃ね……ご飯の時間、よく飛ばされてたんだ〜」


「え……?」


 思わぬ言葉に、奏は動きを止めた。

 その言葉の軽さと、内容の重さが噛み合わなかった。

 

 伊吹はお構いなく、箸を動かしながら続きを話す。


「しかも霊が見えるでしょ〜?

 “変な子”だから、誰も近寄ってくれなくてさ。

 ……ずっと、福ちゃんしか友達がいなかったの」


「……」


 福は何も言わず、目を伏せて伊吹の話を聞いていた。


「でね!高校に入学して、狛くんに会ったんだ!」


 伊吹は満面の笑みを見せる。


「狛くんが、“仲間になろう”って言ってくれたの!

 狛くんって、すごーく優しいんだよ!」


「……そうなんですね」


 伊吹につられて、奏の口元が緩む。


「だからボク、狛くんがだーい好き!」


 伊吹は頬を赤らめて言った。


「あ!もちろん、紫苑くんもね!」


 慌てて付け加える。

 だけど、奏にはもう、伊吹の“特別な感情”が伝わっていた。


「福ちゃんと狛くんには、とっても感謝してるんだ〜!」


「そう言えば伊吹さんも、皇陽高校なんですよね?

 かなりお勉強されたのでは……?」


「あ、ボクは食物科だから!」


「そういうことでしたか……。

 食物科、伊吹さんらしいですね」


「お菓子職人になりたいんだ〜!」


 奏と伊吹が、和やかに話をしていると……


 バシュッ!!


 突然、二人の目前を黒い影が横切った。

 おそらく、生き物ではない。


「ほえ?」


 伊吹は目を疑った。

 お弁当が、なくなっている。


「い、伊吹ちゃん……!」


 福の青白い顔から、さらに血の気が引く。

 伊吹の身体は、わなわなと震えていた。


「ボクの……お弁当……」


 参道を逸れた林の中から、ガサガサと何かが動く音がしている。


「返せ……!ボクのお弁当……っ!」


 震える拳を握りしめ、伊吹が立ち上がる。

 その目の奥で、怒りの炎が燃えていた。


「い、伊吹さん。落ち着いて――」


「許さないっ!!」


 奏が言い終わる前に、伊吹は林の中へと駆け出していた。


「そっちは道じゃないですよ!?」


「伊吹ちゃーん!」


 奏と福も急いで追いかける。

 すると――


 バババッ!!


 木々の間から滲み出てきた複数の黒い影――霊害だ。

 一つ一つは小さい。だが、数が異常だった。


 奏は急いでブレザーの内側に手を入れる。


 しかし――ない。


「!?」


 忘れるはずがない。


 ――『お札、ダッサ⭐︎』


 紫苑の笑顔と声が、脳内に再生される。


「やられた……!」


 奏は手で顔を覆った。


「伊吹ちゃーん!霊力ちょうだいー!」


 奏の隣で福が叫ぶ。

 しかし、その叫びも虚しく、伊吹は弁当を奪った霊害を追って林の奥へと消えて行った。


 福くんは、伊吹さんの霊力がなければ戦えない。

 でも――私は、違う戦い方ができる。

 逃げるわけには、いかない。


 ザワッ……。


 霊害の群れが、気配を変える。

 一斉にこちらへ牙を向けた。


 この数の霊害を放置すれば、参道に被害が出る。

 先を行く伊吹は、一人だ。


「……本当に、やってくれましたね」


 奏は、背負っていた藍色のソフトケースに手を伸ばした。

 中から取り出したのは――新しい、“武器”。

 ケースの金具が、乾いた音を立てた。

 

 それは、奏がこれまで頼ってきた戦い方とは、まるで違うものだった。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新 2月15日15時

第四十三話 お札が、なくても

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ