第四十話 三つの道、その先へ
猿置山、駐車場。
「では、私は仕事があるのでこれで。
斎賀先生、あとはよろしくお願いします」
東雲警部とは、ここでお別れのようだ。
去っていくマイクロバスの後ろ姿を見送る。
「さて」
斎賀先生が、振り返ってこちらを見た。
「どのチームがどこから行きますか?」
この山には、登山ルートが三つあるという。
整備された観光向けの道、
地元の人が使う古い参道、
そして、管理者たちが使う作業道。
「僕は観光ルートで⭐︎」
迷いなく、紫苑さんが言い切った。
「え〜!紫苑くんずるい〜!」
伊吹さんが頬を膨らませて言う。
「お前はたくさん歩いて痩せろ⭐︎」
「ひどい〜!!」
「それもあるけどさ……」
紫苑さんは、すっと奏さんを指さした。
奏さんの背に、細長い布製のケース。
あの荷物、初めて見るけど何だろう。
「参道は奏みたいな信仰ガチ勢向きでしょ⭐︎」
それから、指先を狛さんに向ける。
「荒れ道は筋肉バカ向き⭐︎」
紫苑さん。ただ楽をしたくて選んだわけではないらしい。
「なるほど。みなさん、それで良いですか?」
「まあ、女子チームに登りにくい道行かせるのはナシだよね〜!」
斎賀先生の確認に、光流くんが指で丸を作って答える。
「柊は体力ないし、それで良いんじゃね?」
颯は頭上で浮遊しながら、僕を見下ろした。
「私も構いません。祠を巡るのは、好きですし……」
奏さんが小さく呟く。
「それがベストな選択かもしれないわねェ」
皆、異論はなかった。
「参道の入り口まで、古我さんが案内してくれます。
作業道の方は、僕が案内しましょう。
観光用の登山口は、駐車場からすぐですので……
紫苑くん、柊くんと颯くんを頼みますね」
「……よろしくお願いします」
「はーい⭐︎」
遠慮がちにこうべを垂れる。
紫苑さんは此方を見ていなかった。
「入り口まで送った後、僕と古我さんは駐車場で待機していますので。何かあったら連絡を下さい」
斎賀先生のボリュームを少し下げて言う。
「低級ですが、異様に数が多いのが気になります。常夜が絡んでいる可能性もありますので、油断は禁物ですよ」
「……はい」
“常夜”。
その言葉に、胸の奥がキュッと締めつけられた。
――赤い霊力が、脳裏にちらつく。
この二週間、霊害の発生は変わらずあったものの、常夜が動くことはなかった。
常夜のメンバーと思われる人間には、あれ以降遭遇していない。
「みんな、これを持っていきなさい」
古我さんがチームに一つずつ、リュックサックを配る。
それぞれのチームの後輩が率先して受け取った。
「登山に役立つ道具が入ってるからね。
雨具とか……。ほら、山の天気は変わりやすいし」
重すぎない荷物。
古我さんの心遣いが感じられる。
「あと、お弁当も」
「お弁当〜!?」
伊吹さんが目を輝かせた。
「では、行きましょうか」
斎賀先生の声かけに、静かに頷く。
こうして、僕たちは猿置山に足を踏み入れた。
「……」
登山口で、紫苑さんがぴたりと足を止める。
紫苑さんの目が、足元をなぞる。数えるみたいに。
「紫苑さん?」
「いや?……登るのだるいなと思って⭐︎」
「こいつと同じチームって、大丈夫なのかよ」
颯の呟きを、紫苑さんは聞き漏らさない。
「お前は歩かないからいいよね、雑魚霊⭐︎」
「は!?雑魚!?」
足元の土に、くっきりと新しい足跡。
僕たち以外の、誰かの。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新 2月14日21時
第四十一話 期待と布石




