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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第三十九話 山へ向かう朝


 土曜日。午前六時過ぎ。

 眠気が抜け切らないまま、僕たちはマイクロバスに揺られていた。


 ハンドルを握るのは、斎賀先生……ではなく。


「みんな、朝早くからすまないね。仕事の兼ね合いで、どうしてもこの時間しか送れなくて」


 東雲警部だった。


「斎賀先生の運転で事故るより百倍良いです!」


「何で事故る前提なんですか!?」


 元気よく答える光流くんに、助手席から斎賀先生がツッコむ。

 朝から元気だな……。


 五時起きなんて久しぶりだった。

 僕はまだ開き切らない瞼を擦りながら、周りを見渡す。

 

 僕の隣では、座った瞬間に寝落ちした颯が、規則正しい寝息を立てている。

 

 前では奏さんが本を読み、狛さんはダンベルで筋トレ中。

 最後部座席では、フードを被った紫苑さんが眠る。

 伊吹さんと福くんはお菓子を広げ、光流くんは朝から自撮りだ。


 そして、通路を挟んだ横の座席に座るのは、


「だ、誰?」


「……アタシよォ〜」


 かすれた低音が返ってきた。

 すっぴんの麗子さんだ。

 

「朝早かったからね〜」


 光流くんがスマホをスワイプしながら言った。


「……見てはいけないものを見てしまったような……」


 誰にも聞こえないように、小さく呟いた。


「目的地まで、一時間弱かな」


 運転席の東雲警部が、腕時計をチラリと見る。

 僕は、猿置山に行くのが初めてだった。


「山……か」

 

 登るよね?大丈夫だろうか。


 ふぅっと息を吐く。


 前方の奏さんが振り返って、背もたれの横から顔を出した。


「猿置山は、初心者向けの、登りやすい山ですよ」


「!そうなんだ!」


 その言葉に、思わず声のトーンが上がった。


「それに、メインは霊害の浄化であって、山頂を目指すことではありません。ですよね、斎賀先生?」


 奏さんは、斎賀先生に質問を投げる。


「はい。範囲が広いので、チームに分かれて祓いましょう」


 信号待ちで、バスが停車した。


「奏さん、ちょっと来れますか?」


「はい」


 奏さんがサッと立ち上がり、助手席の斎賀先生から何か受け取って戻ってくる。


 筒に入った、三本の割り箸。


「チームはくじ引きで決めましょう。

 割り箸の先に色がついています。

 

 黒なら狛くんと、紫なら紫苑くんと、

 オレンジなら伊吹さん・福くんと組んでください」


 特訓とは別のチームを組むらしい。

 ドキッと心臓が音を立てた。

 

 できれば、狛さんが良い。

 僕は内心、そう思っていた。


「どうぞ」


「うぇーい!」


 奏さんが通路側に筒を差し出すと、光流くんは迷いなく選んで割り箸を掴んだ。

 僕も慌てて一本掴み、余った割り箸を奏さんが握る。


「せーので見よ!いくよ〜!」


 割り箸握る手に、ぎゅっと力がこもった。


「せーの!」


 バッ。


 一斉に、割り箸が引き抜かれた。


「……私は、オレンジなので伊吹さんたちとですね」


「俺黒!狛さんと〜!」


 ということは。


 自分の割り箸に視線を落とす。

 ――紫色。


「……紫苑さんだ」


 最後部座席。

 フードの奥の目が、もう開いていた。


「柊くん。気をつけてくださいね」


 奏さんが、チラッと後ろを振り返る。


「……あの人、容赦ないですから」


「う、うん」


 紫苑さんは仲間だ。

 だけど、どうにも不安になる存在。


 鼓動が落ち着かない僕の横で、

 やっぱり颯は爆睡していた。


 そのまま、バスは走り続け、

 目的地にはあっという間に辿り着いた。

 僕の中に、ざわつきを乗せたまま。

 

「さあ、着きましたよ」


 斎賀先生の声掛けで、僕たちは順番にバスから降りた。

 東雲警部がバスの側面にあるトランクルームを開けて、荷物を下ろしてくれる。


「ありがとうございます」


 荷物を受け取り、振り返る。

 そこには――古い民家があった。

 

 色褪せた外壁。

 軒下には蜘蛛の巣が張り付き、

 歪んだ瓦屋根が、時間の重さを物語っている。


 斜めに傾く看板には、かろうじて

 【民宿 古我壮】

 と読める文字が残っていた。


「こわれ……そう?」


 僕が文字を読み上げた直後、


 ガコッ!


 その看板が、音を立てて落ちた。


「“こわれそう”って言うか、壊れてる〜!」


「しーっ!光流くん!

 今日お世話になるところなんですから!」


「え!?

 も、もしかして……今日泊まる宿って……」


 僕は、斎賀先生を見た。


「はい。ここです」


「霊害の巣じゃないんですか!?」


「柊くん!君、時々失礼です!!」


 斎賀先生は、人差し指をぴしっと立てて言った。

 その時。


 ガタガタガタ。


 おかしな音を立て、玄関の戸が開いた。

 中から現れたのは、初老の男性。


「みなさん。よくいらっしゃいましたね」


 にっこりと、穏やかな笑顔を見せる。


古我こがさん。お世話になります」


 東雲警部が男性に会釈した。


 “こわれそう”じゃなくて、“こがそう”だったのか。


「みんな。この方は、区長の古我さんだ。

 この民宿の経営と……猿置山の管理もしてくれている」


 東雲警部が、僕たちに古我さんを紹介してくれる。

 古我さんは軽く頭を下げた後、困ったように笑った。


「この辺は人も少なくてね。

 気づいたら区のことも山のことも、僕が見ることになってしまってねぇ。

 ところで……」


 古我さんの目線が、僕たちを順番になぞる。


「君たちが、警部さんが言ってた“研究チーム”なんだね。

 随分若くてびっくりしたよ」


「研究チーム?」


 僕は首を傾げた。


「はい。今回、山で不審な事故が続いている件。

 我々が調査をさせて頂きますね」


 斎賀先生が僕の一歩前に出て答える。

 そういうことに、なっているのか。


「幸い、今のところは大きな事故はないんだけれどねぇ。

 突風が吹いたり、石が動いたり、

 登山者の荷物がなくなったり……。

 どうにもここ最近、変なことが続いてるんだよ」


 古我さんが、眉を顰めて言う。


「今日と明日は、一般の方の入山は禁止してある。

 みなさんで、原因を見つけて貰えると助かるよ」


「承知しました」


 そう言って、斎賀先生は深々とお辞儀をした。

 僕たちも続いて頭を下げた。


「荷物を置いたら、猿置山まで案内するね」


 僕たちは荷物を預け、再びバスに乗り込んだ。

 

 猿置山は、黙ったままそこにあった。

 僕のざわつきだけを、静かに受け止めながら。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新 2月14日15時

第四十話 三つの道、その先へ

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