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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第三十八話 回らないまま


 ***


 Side:柊


 先輩たちの特訓が始まってから、二週間ほど過ぎた。

 誰もが、確実に変わり始めていた。

 

 ――そのはずだった。


 霊力が、回らない。

 何度繰り返しても、止まる。


 この二週間で、颯は僕の身体を安定して使えるようになってきた。

 それなのに、僕だけが置いていかれている気がする。


 放課後。化学準備室。


「遠征、ですか?」


 僕たち五人は、斎賀先生に呼ばれて集まっていた。

 パイプ椅子に腰掛け、斎賀先生を見上げる。


 ガガガガガーッ。


 背後で、謎の音が響いていた。


「そう。狛くんたちのチームと一緒にね」


 そう言って、斎賀先生はにっこりと微笑む。


「……細かいこと説明する前に、

 ひとつ、いいかな?」


 背後で、まだ何かが唸っている。

 斎賀先生の眉毛が、ぴくりと動いた。

 

「うるっっっさい!!何の音ですかコレ!?

 光流くんそこで何してますか!?!?」


「えー!?何ってーー!?」


 ヴーン……。


 音が鳴り止む。


「はい!できた!」


 光流くんの手元には――ミキサーボトル。

 中に、茶色い飲み物。いや、飲み物か?


 光流くんがカポッと蓋を開けると、強烈な臭いが化学準備室に充満した。


「クサ!!」


 思わず斎賀先生が叫ぶ。

 僕と颯は、咄嗟に鼻をつまんだ。

 奏さんも急いで口元を押さえたが、顔は青ざめている。

 ……間に合わなかったのかもしれない。

 

 光流くんは平然と、ボトルの中身をカップに注いでいた。

 どろっとした液体が、ボトボトと音を立てて落ちる。

 その横で麗子さんは……


「身体に良いものばっかり、集めたのよねェ〜」


 楽しそうだった。


「先生、いつもお疲れ様〜!

 光流特性!元気が出るスムージー!」


 光流くんは、罰ゲームみたいな飲み物を、笑顔で斎賀先生に差し出した。

 身体を反らせて逃げる斎賀先生に、ぐいぐい押し付けている。


「いらないです!!何入ってんのコレ!?」


「ニンニクとか、ウコンとか、納豆とか色々!」


 斎賀先生は、必死にカップの中身を見ないようにしていた。


「っつか、臭いやべーって!

 何でお前ら平気なんだよ!?」


 颯は鼻をつまみながら、空いた手で光流くんと麗子さんを交互に指差す。


「何か最近こういう臭いに慣れちゃってさ〜」


「わかるわァ、光流。

 三日に一回はあるものねェ」


「意味わかんねぇ!!」

 

 その時。


 ガラッ!!


 化学準備室の窓が、勢いよく開かれた。

 奏さんだ。


 奏さんは、口元を押さえたまま、

 ずんずん光流くんに近づくと、手からカップを取り上げる。

 そして、


 ドンッ!


 化学準備室の流しへ置く。

 そのまま蛇口を一気に捻った。


 ジャバァーッ!!


「あああ!!奏ちゃーん!もったいないー!!」


「奏さーん!!詰まる!詰まるから!

 そこに流すのやめてえええ!!」


 光流くんと斎賀先生の叫びが響く。


 ジャアアァーッ!!


 奏さんの手は、止まらなかった。

 そして光流くんの方を見て、低い声で言う。


「……光流くん。

 いい加減にして下さい。

 そして麗子さん。

 止めるのが、役目なのでは?」


 ――奏さんの目は、明らかに殺気を放っていた。


「……はい」


「……はァい」


 二人の、小さな返事が重なった。


 窓から入ってきた風が、化学準備室のカーテンを揺らす。

 室内の空気が、ようやく落ち着いてきた。

 僕はそっと鼻から手を離して、尋ねる。


「あの、先生。

 さっき言ってた、“遠征”って?」


「ああ、そうでした。肝心な話を忘れるところでしたよ……」


 斎賀先生は、こほんと咳払いを一つして続ける。


「県内ではありますが、少し遠いところから依頼がありましてね。今週の土日で、みなさんに行ってもらいたいんです。もちろん、宿代などすべてこちらが持ちます」


「……少し遠いところとは?」


 ハンカチで手を拭きながら、奏さんが尋ねる。


豊谷市とよたにし猿置町さおきちょうです」


 豊谷市は、僕たちの市――籠屋市かごやしに次いで、県内で二番目に大きな都市だ。

 しかし、猿置町は数十年前に合併された町で、豊かな自然がまだ多く残っていると聞く。


「なるほど。山と信仰の地域ですね」


 そう言って、奏さんはハンカチを仕舞う。


 ――また、山か。

 ……あの日も、山だった。


「……山と信仰……か」


 颯の声が、わずかにかすれた。

 僕は何も言わず、視線を伏せる。


「そう。君たちには、猿置山に行ってもらいます」


「うぇーい!ハイキング!!」


「確かあそこは温泉もあるわよねェ!」


 まるで旅行気分の光流くんと麗子さん。

 奏さんが、ぎろりと二人を睨みつけた。


「おい!お前ら、まだ反省しとけ!」


 颯が小声で注意する。

 斎賀先生は続けた。


「聞いた話によると、低級霊害が多数発生しているようです。大きな事故は今のところ起こっていませんが、複合霊害になる前に対処した方が良いでしょう」


「なるほど」


 逃げられない。


「狛くんたちには、既に了解を得ています。

 皆さんも、行けますね?」


「……はい」


 それ以外の答えは、なかった。


「では、親御さんたちには僕から連絡しておきます。

 出発は――土曜日の朝です」


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新 2月14日12時

第三十九話 山へ向かう朝

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