第三十六話 それぞれの“支え方”
***
――その頃。河川敷の対岸では。
「はぁ……はぁ……」
「……光流ゥ……ハァ……」
光流と麗子の息が、上がっていた。
「おうおう!随分バテてんなぁ!お前らぁ!」
対照的に、福は元気だ。
「……殴っても殴っても、アイツの霊力、一向に削れないわァ……!」
麗子の額には、じっとりと汗が滲む。
麗子と福の実力は、ほぼ互角。
だが、福は削れない。
殴るたびに、麗子だけが消耗していく。
「……チートかよ……」
光流が、福の背後――伊吹に目をやる。
「……もぐもぐ……ごくん」
伊吹は、最後の菓子パンを食べ終えたところだった。
「!麗子!伊吹さん、食べきったっぽい!」
「霊力ループ終わりね!?」
光流と麗子の瞳が、輝きを取り戻す。
しかし。
ガサガサッ。
伊吹のリュックの中から――
「いただきまーす!」
お弁当。
「まだ食うの!?」
咄嗟に光流がツッコんだ。
その直後、
「よそ見してんじゃねぇぞー!!」
福がまた、突っ込んでくる。
ドガァンッ!
麗子が攻撃を受け止める。
福の打撃の重みに、麗子が表情を歪めた。
「……硬いわァ……!」
福と拳を交えるたび、麗子には違和感があった。
霊力を纏った福の拳が、硬い。
まるで鉄のグローブに包まれているような。
「オラァ!!」
麗子のカウンター。
福が後ろに飛んで避ける。
「……アンタ、霊力を硬化してるわねェ」
「おー!さすが、麗子ちゃん!よく気づいたねぇ!」
答えたのは、食事中の伊吹だった。
口元に、米粒をくっつけたまま、続ける。
「福ちゃんは、狛くんにいっぱい鍛えてもらってるからね〜!」
「……なるほど」
光流は、ちらりと麗子を見た。
「麗子ってさ……霊力操作――」
“確か苦手だったよね?”
そう言い終える前に、麗子が。
「めちゃくちゃ下手よォ!!」
自信満々に、言い切った。
“どーん!”と、効果音が聞こえるくらいに。
「だよね!!」
光流が両手で顔を覆う。
「アタシはね、不器用なのよ!そんな細かいことできないわァ!!」
何故か誇らし気だった。
「俺ならできるかもしんないけど、それ、俺がやっても意味ないんだよな〜……」
光流は、こめかみに人差し指を当て、眉を寄せる。
「それより、光流ゥ!霊力ちょうだァい!」
「はいはい」
光流は、麗子に手を翳して霊力を届けた。
「伊吹ちゃん、あの金髪、なかなかやるぜ。
これだけやり合ってるのに、まだ霊力持ってやがる……!」
福が光流を見据えたまま、後方の伊吹に言う。
「紫苑くんが、“光流は凡才レベルの天才”って言ってた〜!」
「凡才の……天才!?意味がわからねぇぜ!!」
「さァ!こっちから行くわよォ!!」
ドゴォォォン!
麗子の突進。
福は腕を交差させて受け止めるが、耐えきれず後方に押される。
「福ちゃん!」
すぐさま伊吹の霊力が注がれる。
「ナイス伊吹ちゃん!!」
福の反撃。
麗子は身を捻ってかわす。
二人がやり合う中、光流は考えていた。
どうしたら麗子の、複雑な霊力操作を可能にできるか。
「……あ」
閃いた。
「麗子!もしかしたら――」
光流が麗子を呼ぼうとした、その時。
ドガァン!!
麗子の拳が、福のこめかみに入った。
「……うぐっ……!」
ドサァッ!!
福が伊吹の目前に倒れ込む。
「油断した!伊吹ちゃん、霊力頼む!」
しかし。
「ゔっ……気持ち悪い……。
……うぷっ……」
伊吹の顔は、青ざめていた。
福に降り注いだのは、
霊力ではなく――
……ぴちゃっ。
「……あ」
やらかした。
「!?伊吹ちゃん!?」
「……ごめん、福ちゃん。ボク、食べすぎた……」
バタッ。
伊吹が、倒れた。
「あああ!伊吹ちゃーん!!」
「あらあら……そっちは“天井”あったのねェ」
「一旦、休憩だね……」
光流は、思わず口元を押さえた。
チートすぎる二人の能力にも、“弱点”があるようだ。
「そういえば、光流。
さっき何か言おうとしてたわよねェ?」
麗子は光流に歩み寄り、落ち着いた声で尋ねる。
「あっ、そうだった。
俺がさ、霊力硬くしたりできるようになれば、
そのまま麗子に付与しちゃえばいーじゃん?って思って」
「……なるほどねぇ……」
麗子は腕を組んで考え込む。
「でも光流。それってすごーく難しいことなんじゃないかしらァ……?」
確かに。
そもそも、光流が複雑な霊力操作を、どれくらいかかって身につけられるかはわからない。
「俺もさ」
光流は、対岸の柊に目をやった。
そこには、狛の攻撃で地面に叩きつけられ、立ち上がる柊の姿があった。
「“努力”、したいんだよね」
今までにない、光流の真剣な顔つき。
麗子は、その横顔から目が離せなかった。
そしてその様子を――
橋の上から、じっと見下ろしている影があった。
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※次回更新 2月13日7時
第三十七話 準備段階




