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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第三十五話 凡才の戦い方【前編】


 ***

 

 少し離れた場所で、奏と紫苑は向き合っていた。

 ――空気が、明らかに違った。


 柊たちが“訓練”と呼ばれるものをしている間、

 ここでは、もっと剥き出しのやり方が始まろうとしていた。

 

 ここは、“訓練”ではない。


「奏とやるの久しぶりだよね〜⭐︎懐かし〜⭐︎」


 紫苑が、ニコニコと微笑む。


「……十年以上、前の話ですよ」


 かつて、三流派の子供たちは、

 “特訓”という名目で、年に数回、力比べをさせられていた。

 ――実際は、次世代の値踏みだ。

 

 紫苑がそれに参加したのは最初の数回だけ。

 あとは「くだらない⭐︎」と笑って、他の試合を眺めていた。

 それでも許される――紫苑は、そんな存在だった。


「前って、六、七歳くらいの時〜⭐︎?」


 紫苑は人差し指を顎に当て、思い出すように呟いた。


「確か、そうです」


 もちろん、その試合は紫苑の圧勝だった。

 手も足も出なかったことを、はっきりと奏は覚えている。


「あの時から、奏も多少は成長したでしょ⭐︎?」


「……“多少”では、ないはずです」


 奏は、手にお札を構えた。

 それを見て、紫苑が眉間に皺を寄せる。


「うわっ!まだそんなダサいの使ってんの⭐︎?」


「……っ!」


 昨日の響の言葉が、蘇った。


 お札は霧島家にとって伝統的な武器。

 良いものだからこそ、現代まで使われてきたのだ。


 それを信じている……はずだけれど。


 お札を持つ手に、力が入った。


「迷いながらとか、なおダサーい」


 ダァン!!


 紫苑が、鉄槌を地面に叩きつけた。

 叩きつけられた場所が、くっきりと凹んでいる。


「……ひっ……」


 思わず、一歩後退りする奏。


「来なよ⭐︎」


 紫苑は鉄槌を片手で、軽々しく回す。

 小さい身体に似つかわしくない鉄槌。

 アレで叩かれたら、ひとたまりもないだろう。


 ――怯むな。

 当たらなければ、良いだけだ。


「……行きます!」


 お札を放ち、駆け出す。


 紫苑は鉄槌を軽く振った。

 その風圧だけで、お札は全て弾かれる。


 シュッ。

 シュッ。


 すかさず、連投しながら、

 奏は少しずつ距離を詰める。


 身体を屈め、紫苑の懐――鉄槌の死角に入ろうとした。

 その時。


 ゾクッ!


 左側に影。

 直感した。

 ――あの鉄槌に、やられる。


 咄嗟に右に飛んで避けた。


 ブンッ。


 鉄槌が振り下ろされる。

 奏は逃げるように、後方へ下がった。


「奏さ〜、霊力の流れ読みやすすぎ⭐︎」


 その言葉で、霊力から動きを読まれているのだとわかった。


「じゃ、今度はこっちから行くね⭐︎」


 だけど。


「……!」


 それなら――奏も、得意分野だ。

 “霊力”の流れを読むことなら。


 ブォンッ!!


 一気に距離を詰められ、鉄槌が振り下ろされる。

 奏はそれを咄嗟に避けた。


 ブンッ!

 ブンッ!!


 連続して振るわれる。

 霊力の流れから、紫苑の攻撃の方向は読めていた。


 これなら、避けられる!

 そう思った瞬間、余計な感覚が削ぎ落とされた気がした。


 奏は、集中して探っていた。

 紫苑の鉄槌に流れる、霊力を。


 そう、鉄槌に――

 集中しすぎていた。


 ブォンッ!


 “次、右から!”

 そう思って、身体を捻ると。


「……え?」

 

 目の前に、

 紫苑の笑顔。


「読めると思って、いい気になってた⭐︎?」


 ……誘われてた……!

 鉄槌ばかりを追っていた、自分の視野の狭さに気づく。

 

「はい⭐︎デコピン⭐︎」


「……あっ……」


 ドガァァァン!!


 額に、凄まじい衝撃が走った。

 目の前が真っ白になる。


 そのまま、数メートル後ろに吹き飛ばされた。


 倒れ込む奏を見下しながら、紫苑が言う。

 

「……君みたいな凡才が、勝てる方法は一つ⭐︎」


 ピシッと、紫苑は奏を指さした。


「油断させる。騙す。不意をつく。

 勝てば同じ。

 結果が全てだから⭐︎」


 奏は、額を押さえながら、ゆっくり起き上がる。


「……勝てば同じ」


 小さく、繰り返した。

 紫苑の目線が、奏を真っ直ぐ射抜く。


「正攻法は捨てろ」


 ドクッと、奏の心臓が音を立てた。


「ハッキリ言って、君は弱い⭐︎

 狛たちみたいに真っ正面からぶつかる戦い方は無理。

 一生負け犬⭐︎」


 紫苑は、鉄槌をぽいっと奏に向かって投げる。


「!?」


 咄嗟に両腕を上げ、鉄槌を受け止めた。


「……軽い……!?」


 その鉄槌は、まるでおもちゃのようだった。


「……フェイクですか」


「フェイクにもなるし、本物にもなる〜⭐︎」


 紫苑は、奏に近付き、鉄槌を取り上げた。

 そしてまた、地面に叩きつける。


 バァン!!


 地面が窪む。


「演出の道具だよ⭐︎

 戦いは、シナリオが大事⭐︎」


 鉄槌も、煽る言葉も、

 初めから、奏を誘導する脚本だった。

 

 やっぱりこの人、めちゃくちゃ強い。

 そして――


「凡才ちゃん⭐︎」


 めちゃくちゃ口が悪い。


 “正攻法は捨てろ”。

 その言葉が、奏の胸の奥に突き刺さり、

 これまで信じてきたものが、軋む音がした。


 ――それでも。

 奏の中には、

 真正面から、戦いたい自分もいた。


 その甘さを、紫苑が見逃すはずもなかった。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月11日21時

第三十五話 凡才の戦い方【後編】

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