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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第三十四話 身体を、委ねる


 ***


 Side:柊


「柊、いるよな?」


 颯の声が聞こえる。


『うん!』


 僕は、颯の中にいた。

 ――僕の身体の奥に。


 今、この身体を動かしているのは、颯だ。


 視界は同じ。

 だけど、俯瞰して見ているような、不思議な感覚。


「うまくいったようだな」


 狛さんの視線が、僕の全身をなぞった。


「できたっぽいっす!」


 ニッと颯が笑う。


「だが、難しいのはここからだ」


 ボウッ。


 狛さんが、右手に霊力を灯す。

 その光が回転しているのがわかった。


「こうやって、霊力を扱ったことはないだろう」


『……はい』


「霊力の操作は、光流にどう教わった?」


『“リラックスして、流す感じ”、って』


「……そういうもんなんだな」


 颯が呟く。

 僕たちの特訓の話を、颯は知らない。


「基本はそれで合ってる。その流す感じに、回転のイメージを乗せるんだ」


 回転を……イメージ……。


 ボッ!!


 右腕が、大きな霊力に包まれた。


「うお!?何だ急に!!」

 

 颯がそれに驚いて声を上げる。


「違う。それは出力が強いだけだ」


 狛さんがぴしっと指摘した。


『は、はい!』


 急いで霊力を引っ込める。


「力任せにやろうとするな。

 霊力操作は、もっと繊細なものなんだ」


 繊細な操作……。

 光流くんや奏さんだったら、

 きっと、もっと器用にやれるんだろうな……。


「おい柊、比べんな」


『……颯』


 何も言わなくても、伝わっている。

 前よりも、深く、わかり合えている気がした。


「時間がないから、同時進行で行う。

 柊は、霊力操作に集中。

 颯は、柊の身体を動かすことに集中。いいな?」


「うっす!」


『はい!』


 返事する声が重なった。


「じゃあ、颯。攻撃してこい」


 狛さんが、体勢を変える。


「行きます!」


 颯が、僕の身体で駆け出した。

 狛さんへ、拳を振るう。


 拳も、蹴りも。

 僕の意識なしで勝手に動いていた。

 

 ――身体の奥に、置いていかれるような感覚。

 

 全て狛さんに防がれるが、今はそこじゃない。

 僕は霊力操作に集中するんだ。


 霊力を……回転させて、

 ――乗せる!


 ゴォッ!!


「……はぁ!?」


 しまった!

 また大きく出力してしまった……!


 拳を覆う霊力に、颯が戸惑ったその時――


 ヒュッ!


 狛さんからの反撃。


 危ない!!


 僕がそう思ったのと同時に、


 ピクッ。


 颯が動かしていた身体が、一瞬、止まった。

 いや、僕が止めてしまった。


「おい柊――」


 ドゴォッ!!


 颯が言い終わる前に、狛さんの拳が腹部を抉った。


「……がっ……」


『颯!!』


 倒れないように踏ん張りながら、よろよろと後退する。


「……安定しないな」


 狛さんの眼差しは、鋭かった。


「もっと集中しろ」


「柊、てめぇ勝手に出てくんなよ……」


 腹部を押さえる颯。


『ご、ごめん!』


「信じろって、言ってんだろ!」


 荒々しい声だった。


『うん。ごめん、僕のせいだ』


 集中……集中しなくちゃ……!

 そう思うのに。


「おい、身体動かねーって!!」


『あっ……何でだろ、ごめん!』


「謝んなくていいから!」


 焦りだけが募った。


「颯!!」


 狛さんが、ピシャリと言い放った。

 その声に、僕たちはビクッと身体を震わせる。


 川魚が、パシャッと跳ねた。


「……難しいことをやろうとしてるのは、柊の方なんだぞ」


「……」


 颯は、きゅっと唇を噛み締めて、黙った。


「お前だって、霊力の出力に驚いて、怯んだだろ。

 柊を責める資格があるのか?」


「……そうっすけど……」


「お前たちが今やることは何だ?」


 低い声で、狛さんが問うた。


「俺は、この身体に慣れること」


『僕は、霊力操作に集中すること、です』


 僕たちは、小さな声で答えた。


「そうだ。……俺を倒すことではないんだ。

 わかるな?」


 少しだけ、狛さんの声が優しくなる。


「失敗して良い。上手くいかなくて当然だ。

 だから、こうやって練習するんだ」


「……」


 正論だ。

 初めから上手くやろうだなんて、おこがましい。


「よく聞け。お前たちは、二人で一つなんだ」


 “二人で一つ”。

 

 その言葉が、胸の奥深いところに落ちた。


「一人のミスは、二人のミス。

 失敗したら、何がいけなかったのか、話し合え。

 反省しないやつらに、成長の余地はない」


 そうだ。

 僕は、もっと颯と話すって決めたんだった。


『颯。僕はまだ、霊力を上手く操れない。

 だから、色々試してみたい。

 

 さっきみたいに、また失敗すると思うけど……

 ちゃんと、コツ掴むから。気にしないで』


 内側から、颯に語りかけた。


「……俺もさ、自分で避けるし、防げっから。

 多少殴られたって、それで死ぬわけじゃねぇしよ。

 俺のこと信じて、委ねて欲しい」


『わかった』


 心の底から、出た言葉だった。


「狛さん、次、お願いします」


 落ち着いた声で颯が言う。


 一人で抱えて、どうにかしようとする。

 また、悪い癖が出た。


 狛さんは、そんな僕たちの“弱さ”も含めて鍛えてくれる。

 強くて優しい、先輩だった。


「俺の特訓は、厳しいぞ。

 二人で立つ覚悟は――もうできているな」


 本当の訓練は、ここから始まる。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月11日19時

第三十五話 凡才の戦い方【前編】

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