第三十四話 身体を、委ねる
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Side:柊
「柊、いるよな?」
颯の声が聞こえる。
『うん!』
僕は、颯の中にいた。
――僕の身体の奥に。
今、この身体を動かしているのは、颯だ。
視界は同じ。
だけど、俯瞰して見ているような、不思議な感覚。
「うまくいったようだな」
狛さんの視線が、僕の全身をなぞった。
「できたっぽいっす!」
ニッと颯が笑う。
「だが、難しいのはここからだ」
ボウッ。
狛さんが、右手に霊力を灯す。
その光が回転しているのがわかった。
「こうやって、霊力を扱ったことはないだろう」
『……はい』
「霊力の操作は、光流にどう教わった?」
『“リラックスして、流す感じ”、って』
「……そういうもんなんだな」
颯が呟く。
僕たちの特訓の話を、颯は知らない。
「基本はそれで合ってる。その流す感じに、回転のイメージを乗せるんだ」
回転を……イメージ……。
ボッ!!
右腕が、大きな霊力に包まれた。
「うお!?何だ急に!!」
颯がそれに驚いて声を上げる。
「違う。それは出力が強いだけだ」
狛さんがぴしっと指摘した。
『は、はい!』
急いで霊力を引っ込める。
「力任せにやろうとするな。
霊力操作は、もっと繊細なものなんだ」
繊細な操作……。
光流くんや奏さんだったら、
きっと、もっと器用にやれるんだろうな……。
「おい柊、比べんな」
『……颯』
何も言わなくても、伝わっている。
前よりも、深く、わかり合えている気がした。
「時間がないから、同時進行で行う。
柊は、霊力操作に集中。
颯は、柊の身体を動かすことに集中。いいな?」
「うっす!」
『はい!』
返事する声が重なった。
「じゃあ、颯。攻撃してこい」
狛さんが、体勢を変える。
「行きます!」
颯が、僕の身体で駆け出した。
狛さんへ、拳を振るう。
拳も、蹴りも。
僕の意識なしで勝手に動いていた。
――身体の奥に、置いていかれるような感覚。
全て狛さんに防がれるが、今はそこじゃない。
僕は霊力操作に集中するんだ。
霊力を……回転させて、
――乗せる!
ゴォッ!!
「……はぁ!?」
しまった!
また大きく出力してしまった……!
拳を覆う霊力に、颯が戸惑ったその時――
ヒュッ!
狛さんからの反撃。
危ない!!
僕がそう思ったのと同時に、
ピクッ。
颯が動かしていた身体が、一瞬、止まった。
いや、僕が止めてしまった。
「おい柊――」
ドゴォッ!!
颯が言い終わる前に、狛さんの拳が腹部を抉った。
「……がっ……」
『颯!!』
倒れないように踏ん張りながら、よろよろと後退する。
「……安定しないな」
狛さんの眼差しは、鋭かった。
「もっと集中しろ」
「柊、てめぇ勝手に出てくんなよ……」
腹部を押さえる颯。
『ご、ごめん!』
「信じろって、言ってんだろ!」
荒々しい声だった。
『うん。ごめん、僕のせいだ』
集中……集中しなくちゃ……!
そう思うのに。
「おい、身体動かねーって!!」
『あっ……何でだろ、ごめん!』
「謝んなくていいから!」
焦りだけが募った。
「颯!!」
狛さんが、ピシャリと言い放った。
その声に、僕たちはビクッと身体を震わせる。
川魚が、パシャッと跳ねた。
「……難しいことをやろうとしてるのは、柊の方なんだぞ」
「……」
颯は、きゅっと唇を噛み締めて、黙った。
「お前だって、霊力の出力に驚いて、怯んだだろ。
柊を責める資格があるのか?」
「……そうっすけど……」
「お前たちが今やることは何だ?」
低い声で、狛さんが問うた。
「俺は、この身体に慣れること」
『僕は、霊力操作に集中すること、です』
僕たちは、小さな声で答えた。
「そうだ。……俺を倒すことではないんだ。
わかるな?」
少しだけ、狛さんの声が優しくなる。
「失敗して良い。上手くいかなくて当然だ。
だから、こうやって練習するんだ」
「……」
正論だ。
初めから上手くやろうだなんて、おこがましい。
「よく聞け。お前たちは、二人で一つなんだ」
“二人で一つ”。
その言葉が、胸の奥深いところに落ちた。
「一人のミスは、二人のミス。
失敗したら、何がいけなかったのか、話し合え。
反省しないやつらに、成長の余地はない」
そうだ。
僕は、もっと颯と話すって決めたんだった。
『颯。僕はまだ、霊力を上手く操れない。
だから、色々試してみたい。
さっきみたいに、また失敗すると思うけど……
ちゃんと、コツ掴むから。気にしないで』
内側から、颯に語りかけた。
「……俺もさ、自分で避けるし、防げっから。
多少殴られたって、それで死ぬわけじゃねぇしよ。
俺のこと信じて、委ねて欲しい」
『わかった』
心の底から、出た言葉だった。
「狛さん、次、お願いします」
落ち着いた声で颯が言う。
一人で抱えて、どうにかしようとする。
また、悪い癖が出た。
狛さんは、そんな僕たちの“弱さ”も含めて鍛えてくれる。
強くて優しい、先輩だった。
「俺の特訓は、厳しいぞ。
二人で立つ覚悟は――もうできているな」
本当の訓練は、ここから始まる。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:2月11日19時
第三十五話 凡才の戦い方【前編】




