第三十三話 それぞれの“強さ”
***
一方。チーム伊吹。
「よいしょっと」
ドサドサドサーッ
伊吹の手を離れ、大量のパンとお菓子が地面に落ちた。
訓練中の河川敷に。
「あの……伊吹さん。
ずっと気になってたんすけど、それ、何?」
光流は、食べ物の山を指差した。
「……伊吹ちゃんの、霊力の素だよ」
福が、じろっと光流を見る。
「へ?」
「どういう意味よォ?」
光流と麗子は揃って首を傾げた。
「それじゃあ、いただきまーす!」
「食べるの!?今!?訓練は!?」
伊吹が菓子パンの袋を開け、齧り付いた。
その瞬間――
パァァァ!
伊吹の身体を青白い霊力が包み込む。
さらに、伊吹がパンを食べれば食べるほど――
ゴオォッ。
伊吹が纏う霊力が、大きくなっていく。
「!?」
光流は、目を見開いた。
「――食霊法。
伊吹ちゃんの“体質”による、霊力操作だよ」
そう言って、福が一歩前に出る。
「はい!福ちゃんどーぞ!」
伊吹が、福に向かって手を翳した。
大きな霊力が一気に、福に流れ込む。
「……きたきた……キタキタ……!」
福の声が、ボリュームを上げる。
霊力が、内側から軋むように膨れ上がり――
「……キタキタキタキターッ!!」
ムクムクムクッ!
ガリガリだった身体が、ムキムキになった。
「はい!?」
「どんなバフよォー!?」
福が見せつけるように、両腕を曲げて力こぶを作る。
「やってやるぜぇぇぇ!!」
「性格も変わってんじゃん!!」
その顔つきは、さっきとはまるで別人だった。
「行けぇー!福ちゃん!」
伊吹は霊力を送りながら、食べ続ける。
「思い出した!アタシ聞いたことあるわァ!
食べることで霊力を増幅させる特異体質!!」
「何それ!?」
光流がそう言った、次の瞬間。
「行くぞぉー!!」
福が、二人に向かって駆け出していた。
反射的に麗子が前に出る。
「待ったなしかよ!?」
光流も即座に、霊力を流した。
ドガァッ!!
福の拳が、勢いよく振り下ろされる。
腕で受け止める麗子。
「オラオラオラオラァ!!」
福の乱撃。
一打一打が重い。
攻撃を防ぎながら、麗子がジリジリと後退していく。
「……アンタねぇ」
攻撃の一瞬の間。
「いきなりすぎるだろうがァ!!」
ドゴォォォン!!
麗子のアッパーが炸裂した。
福は宙を舞い、一回転してすとんと着地する。
「ほい、回復」
ビビビッ。
「サンキュー、伊吹ちゃん!」
福が、青白い霊力に包まれる。
さっきよりも、濃い。
「待て待て!これ、永遠に霊力削れないじゃん!!」
「削るどころか、あの子、食べるたびに霊力が増えてんのよ!あれを注ぎ続けたら、あの霊、どんどん強くなるわよォ!?」
「天井ないってこと!?」
冗談じゃない。
「おしゃべりしてる余裕あんのかぁ!?」
福がまた、向かってくる。
「ぎゃー!来た!麗子ー!」
「光流ゥ!霊力ちょうだいー!!」
「頑張れ〜頑張れ〜!
あ、福ちゃん。やりすぎちゃダメだよ?訓練だからね!」
伊吹は、応援しながらのんびり食事をしていた。
これが、彼女の戦い方――普通なら、あり得ない。
光流たちが騒がしく訓練をする河川敷の対岸で――
奏と紫苑が、向き合っていた。
***
「あっち、うるさすぎ〜⭐︎
なにあれ、遊んでんの〜⭐︎?」
対岸を見ながら、紫苑が悪態をつく。
その肩には、大型の鉄槌が担がれていた。
紫苑はそれを、バトントワリングのように軽々しく回す。
「……紫苑さん」
奏は、冷静だった。
「はぁい⭐︎?」
紫苑が奏に、視線を移す。
「私のこと、覚えてますよね?」
「もちろん⭐︎久しぶりだよね〜、何年ぶり?」
「五年です」
奏は、紫苑をキッと睨みつけた。
「あなたが、久世家を破門されて以降、会っていませんから」
「あ〜……」
紫苑はダルそうに眉間に皺を寄せ、鉄槌で肩をトントン叩く。
「どうせつまんない悪口聞いたんでしょ⭐︎」
「禁忌を犯して破門された、と」
「ほら、それそれ〜⭐︎」
“禁忌”に、“破門”。
奏にとって紫苑は、霧島琴子と同様の存在だった。
「そんな僕に教えて貰うなんて、願い下げって?」
「……悩んでいるんです」
斎賀先生も、東雲親子も、何故か紫苑を受け入れている。
この場で、紫苑を拒絶しているのは奏だけだった。
それだけじゃない。
奏は、紫苑の実力をよく知っている。
だからこその、葛藤。
「久世家の神童。幼い頃から、そう聞かされていました」
「祓い師の世界じゃ、有名人だからね〜⭐︎」
「……あなたに鍛えて貰えば、強くなれますよね?」
「まあ、そこら辺の凡才とやるよりは、確実だね⭐︎」
強くなりたい。響に追いつきたい。
だけど、この男と手を組むことは……
霧島家への裏切り行為になるのではないか。
奏の中の天秤が揺れる。
奏は視線を落とし、額に手を当てて熟考し始めた。
「あのさ〜、どうせくだらないこと考えてるんだろうけど、僕のこと“利用してでも”強くなりたいかどうかの話でしょ⭐︎?」
「……利用?」
その言葉に、ぴくりと耳が反応した。
紫苑はにっこりと笑う。
「真面目すぎるの、つまんないって言ってんの⭐︎」
「……!」
「おい、なんとか言え⭐︎」
奏が、ゆっくりと顔を上げた。
「……わかりました」
何かを、決意した表情。
「紫苑さん、よろしくお願いします」
「はぁい⭐︎期待値なかったら捨てるからね」
紫苑がぐるんと鉄槌を回す。
「んじゃ、まずは見せてよ⭐︎今の実力⭐︎」
鉄槌を、肩に担ぎ直した。
まるで――奏を壊す覚悟が決まったみたいに。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:2月10日21時
第三十四話 身体を、委ねる




