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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第三十二話 ここはまだ、入り口【後編】


 カァ……カァ……

 

 茜色の空を、カラスが飛んでいく。

 

 僕は、正面の狛さんを見ていた。


 霊力の使い方。

 それが僕たちとどう違うのか、見極める。


 狛さんが、拳を構えた。


 ――来る。


 拳を、両腕で受け止めた。

 だが、すぐに次の一撃が振り下ろされる。


 バキッ!


 僕はそのまま、ギリギリで耐える。

 

 そして、狛さんが振り上げた足に――青白い光。

 僕は、目を見開いた。


「……!!」


 ……熱い……っ!

 防ぎきれない!


 僕は、後方へ吹き飛ばされた。

 倒れないように踏ん張り、体勢を立て直す。


「……颯!何か気づいた?」


『まだわからん!だけど、狛さんの霊力、なんか変だ!』


「……そうなんだよ!」


 赤い霊力と同じ熱。だが、戒とは何かが違う。

 

 狛さんは、何をしているんだ……!?


 狛さんが、僕の方へと駆け出した。


 ドガッ!


 また、連撃が降りかかる。

 腕を交差させて防ぐが、ジリジリと押されていく。


「……っ!」


 背後に立っていた木の幹に、肩が触れた。


 逃げ場がない。


 狛さんの拳が、ゆっくりと霊力を纏う。


 ――まずい!


 ドガァッ!!


 咄嗟に顔を逸らして避ける。

 

 木の幹が、ジュウゥ……と焼け焦げるような音を立てた。


 ちらりと、その場所を見ると、狛さんの拳の跡ができていた。

 まるで、ドリルで抉ったような跡。


 それを見てハッとした。


 次の瞬間、


 ヒュンッ!

 

 顔面に蹴りが飛んできた。

 目前で――霊力の動きが、見えた。

 

 間一髪、しゃがんで避ける。

 そのまま、狛さんの足元を薙ぎ払おうとしたが、

 後方に飛んで避けられた。

 

 僕と狛さんは再び、距離をとって向き合った。


「……わかりました。

 僕たちとの“違い”」


 木の幹に残った拳の跡。

 一瞬見えた、霊力の流れ方。


 ――繋がった。


「出力した霊力に……“回転”が、かかってますよね?」


 狛さんは、ふっと小さく笑った。


「正解だ」


 やっぱり……!

 霊力を高速回転させて拳に纏わせることで、威力を増しているんだ。


「霊力を、回転させる。尖らせる。硬くする」


 狛さんは、腕を組んで話し始めた。


「どうやって、やるんですか」


「……簡単にできるものではない」


「教えてください」


 食い気味に言った。


「それができれば、強くなりますよね」


 僕は、本気だった。


「……段違いに、強くなる」


 狛さんもまた、真剣な目で僕を捉える。

 

 ゾク……ッ。


 その言葉に、武者震いした。


「戦闘しながら霊力を細かく操るのは、かなり難しい技なんだ。はっきり言って、短期間では身につけられない」


「どれくらい、かかるんですか?」


「――少なくても、一年。普通ならな」


『一年!?』


「そ、そんなにゆっくりやっていられません!」


 いつまた、戒と遭遇するかわからないのに!


「待て。話は最後まで聞け」


 狛さんが、ため息を吐く。


「お前らの、“共霊”を生かすんだよ」


「共霊を……生かす……?」


「そうだ。本来なら、霊力操作に意識を向けながら、戦闘にも集中しなくてはいけない。これがとてつもなく難しいんだ。

 ただ、お前たちのような共霊者は――」


 雲の間から、夕暮れの薄い月が顔を出す。

 狛さんは、ニヤリと口角を上げた。


「意識が、二つある」


 そうか。

 ――役割を、分ければ良い。


「柊。お前は、

 身体の動きを全て、颯に委ねるんだ」


「……!」


 身体を、全て。颯に預ける。


「今、身体の主導権を握っているのは、柊だな」


 狛さんが、僕を指さして言った。

 

「たぶん……そうなんだと思います」


 主導権なんて、そんなこと考えたことはなかったけれど。

 でも今、僕の身体は、確かに僕の意思で動いている。

 

 僕は、手を握って――開いた。


「戦っている時はどうだ」


「……」


 これまでの戦いを思い出してみる。

 たしか、僕の頭の中に、颯のイメージする戦い方みたいなのが流れ込んできて……。


「身体が勝手に反応する時も……あるような気がします」


『俺も、自分の身体みたいに柊を動かしてる感覚が、たまにある』


「そうか。戦闘中は、颯の意志にスイッチする瞬間があるわけだ」


「……スイッチ」


 小さく繰り返す。


「いいか。今のお前たちはな、どっちが身体を動かしているか、まだ自分で選べていない状態だ」


 僕は、狛さんの目をじっと見つめた。


「……どうすれば、できるんでしょうか」


「颯を信じて、身体を、渡す。

 そして、颯は、それを託される。


 それだけで、切り替わる」


「……!」


 ドクン……ドクン……。


 二つの心音は、同じリズムを奏でていた。

 

 大丈夫。僕を預けられる。

 君も、受け取ってくれる。


 ――『頼れよ』

 昨夜の颯の言葉が、鮮明に蘇った。


 僕は、震える手を、ぎゅっと握りしめた。


「……怖いだろう。普通、生きている中で、他人に自分の身体を、まるっきり任せるなんてことはないからな」


 僕がまた、僕でなくなる。

 

 それでも――壊れる気はしなかった。


「できます」


 迷いなく、言い切った。


「颯だから、できるんです」


 そう言った瞬間、身体が、熱くなった。

 まるで、颯が僕の言葉に答えたみたいに。


「大丈夫そうだな」


 狛さんは、ふっと表情を緩める。


「やってみよう。颯」


『おう』


 すぅっと深く息を吸う。

 神経を研ぎ澄ませた。

 僕の身体が、青白い光に包まれる。


 颯、君を信じてる。

 ――僕を、使って。


『……信じてくれて、ありがとな。

 お前の身体、借りるぞ』


 僕を包む光が、ほんの一瞬、白銀に変わった。


 ふわっと、春風が頬をかすめる。

 ゆっくりと、瞼を開けた。


「――俺に任せろ」


 そう言った僕の声は、もう、僕のものではなかった。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月9日21時

第三十三話 それぞれの“強さ”

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