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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第三十一話 集う者たち


 ***


 Side:柊

 

 昼休み。

 東雲警部に言われた通り、僕は学校に行った。


 昇降口で、走ってきた光流くんに抱き締められた。

 息が切れるほど、必死だった。

 ずっと、僕たちのことを待っていたらしい。


 光流くんも奏さんも、散々泣いた後って顔をしてた。

 奏さんも、昨日、何かあったようだけど……。

 それは放課後にまとめて話すって、斎賀先生が言ってた。


 麗子さんの姿は、見当たらなかった。

 光流くん曰く、今朝からずっとトレーニングをしているとか。

 けれど、河川敷には来る予定だそうだ。


 とにかく僕たちは、昨日とはもう、同じ場所には立っていなかった。

 それだけは、はっきりとわかった。



 

 ――放課後。


 僕たちは、河川敷に集まった。

 それぞれの、覚悟を胸に。



 

「坊やたちィィィ!!」


「ゔ……麗子さん……くるし……」


「ギブギブ!!」


 河川敷に着いた瞬間、僕たちは麗子さんに強く抱擁された。


「昨日は本当にごめんなさい!!弱いアタシを許してェ!!」


「だ、大丈夫ですから……離して……」


 ほ、骨が折れる……。


「麗子ー!柊と颯が死んじゃうよー!

 生きて帰ってきたのにー!」


 光流くんが、必死に麗子さんを揺すった。


「あらやだ、ごめんなさいねェ」


 解放された。


「とにかく、アンタたちが無事で、本当に良かったわ」


「お前のせいで、今また死にかけたけどな」


 麗子さんと颯が、そんなやりとりをしていると、


「はいはい。凡才の友情ごっこお疲れさま〜⭐︎」


 紫苑さんと、狛さんが現れた。

 その背後に、見知らぬ女の子と、男の……霊?

 

 麗子さんは腕を組み、じろりと紫苑さんを睨みつける。


「……アンタ、相変わらずねェ」


「君も相変わらずゴリラだね⭐︎」


「何ですってェ!?」


 怒る麗子さんの横で、光流くんがぴしっと敬礼した。


「先輩方、お久しぶりでーす!」


「お前面識あんのかよ?」


 颯は眉をひそめる。

 

「んー、現場で数回、会ったことあるくらい?」

 

 ……祓い師の世界は、思ったより狭い。


「みなさん。全員揃いましたね。

 まずは自己紹介しましょうか」


 その場を仕切るように、斎賀先生が手を叩いた。

 場の空気が引き締まる。

 僕たちは、円の形に集まった。


「ではまず、狛くんから。良いですか?」


「東雲狛。よろしく」


 低い声。

 僕は、ごくっと唾を飲み込んだ。


「久世紫苑でーす⭐︎」


 笑っているのに、視線だけは鋭い。

 奏さんが、眉間に皺を寄せていた。


 そして、初めて見る女の子。

 クリーム色の髪に、オレンジのニット帽。

 なぜか両腕いっぱいに、パンやお菓子を抱えていた。


「こんにちは〜!ボクは春日伊吹かすがいぶき

 よろしくね!」


 そう言って、彼女――伊吹さんは、にぱっと笑う。


 なんか……普通に良い人そうだ。

 さっきまで空気が、少しだけ和らいだ。


 伊吹さんの背後から、ガリガリに痩せた青年の霊が顔を出す。

 

「で、こっちはボクの守護霊の、ふくちゃん!」


「……よ、よろしくお願いします……。お腹すいた……」


 消え入りそうな声。

 顔も青白く、見るからに体調が悪そうだ。


「三人とも、皇陽高校の三年生です。学年的にもそうですが、祓い師としての経験も、みなさんの先輩にあたります」


 斎賀先生が補足した。


「では、柊くんたちも、自己紹介を」


 斎賀先生に促され、僕は一歩前に出る。


「白瀬柊です。よろしくお願いします。

 こっちは僕の守護霊で、弟の……」


「颯!」


 颯は腕を組んで、僕の頭上にいた。


「霧島奏です」


「朝倉光流でーす!」


「光流の守護霊、麗子よォ」


「この子たちは、僕の勤める――瑞峰ずいほう学園の二年生です。柊くんと颯くんは交通事故で……」


「知ってるから、その辺の説明いらない⭐︎」


 紫苑さんが斎賀先生の言葉を遮った。


「それより、常夜ノ会について、何かわかったんでしょ⭐︎?」


「は、はい」


 どっちが先生なのか、わからないな。


 斎賀先生は、いつになく真剣な口調で、

 常夜ノ会について話し始めた。


 常夜ノ会の目的。

 霊力を増幅させる薬や、霊を使った実験。

 そして――霧島琴子という存在。


 その場にいる全員が、静かに耳を傾けていた。


「……ふーん⭐︎どう思う、狛⭐︎?」


「ただの組織ではない。三流派の人間が関わっている。

 おそらく、霧島琴子と霧島響だけではないだろう」


「そうとう厄介じゃーん⭐︎」


「そうなんです」


 斎賀先生は、重々しい顔つきで、先輩たちを見た。


「だから、君たちにお願いがあります。

 ……この子たち五人を、強くして下さい」


「お願いします!!」


 あの光流くんが、頭を下げた。

 僕たちも急いでお辞儀をする。


「……強くなりたいんです!」


 僕は俯きながら言った。

 そして、顔を上げる。


「もう二度と、負けたくないんです」


 僕たち五人は、同じ思いだった。


 ビュウッと風が吹き抜け、河川敷の木々がざわめいた。


「……わかった」


 口を開いたのは、狛さんだった。


「俺たちにできることは、やろう」


「まあ、猫の手も借りたい状況になるかもしれないしね〜⭐︎」


「もちろんだよ〜!一緒に強くなろう!ね!福ちゃん!」


「う、うん!伊吹ちゃん!」


 雲の切れ間から、太陽の光が降り注ぐ。


「ただし⭐︎」


 紫苑さんが、にこりと微笑む。


「前にも言ったけど、

 使えないと思ったら、僕は捨てるからね⭐︎」


 ヒュッと心臓が縮んだ。


「は、はい!」


 そう答える僕の横で、奏さんだけが、

 なぜか、紫苑さんから目を逸らしていた。

 ――まるで、“見てはいけない”とでも言うように。


「では、今日から特訓を始めましょう。

 いつまた、常夜の人間と刃を交えることになるか、わかりませんからね」


 斎賀先生は、狛さんに目をやる。

 

「狛くん。君は共霊、できますよね」


「……」


 狛さんは、無言で頷いた。


 僕以外にも、共霊できる人がいたんだ。

 胸の奥が、なんとなくざわついた。


「柊くん、颯くん。

 君たちは、狛くんに教えて貰いましょうか」


「はい!」


「おう」


 僕たちの声が重なった。


「それから、光流くんと麗子さん」


 斎賀先生は、今度は光流くんたちを見る。


「君たちの戦い方は、伊吹さんと福くんと似ています。

 四人は一緒に訓練するのが良いでしょう」


「はーい!よろしくね!」


 明るい声で、伊吹さんが手を挙げた。


「お願いします!!」


 光流くんが、やる気満々で答える。


「伊吹さんは、少し変わった体質の持ち主ですから、驚くでしょうが……。

 まあ、まずは見せて貰うと良いと思います」


「変わった体質?」


 斎賀先生の言葉に、光流くんが首を傾げた。


「そーそー!見た方が早いかな!」


 伊吹さんの腕から、菓子パンがひとつ、溢れて落ちた。


「そして、奏さん」


 斎賀先生に名を呼ばれた奏さんは、険しい表情をしていた。

 

「……はい」


「奏さんは、紫苑くんとやりましょうか」


「よろしく⭐︎」


「……」


 奏さんは、何も言わずに紫苑さんを見つめていた。

 まるで――触れてはいけないものを見るように。


 なんだろう。

 嫌な予感がした。

 

 ――こうして、僕たちは三つに分かれて、

 特訓をスタートさせた。



読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月8日12時

第三十二話 ここはまだ、入り口【前編】

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