第三十一話 集う者たち
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Side:柊
昼休み。
東雲警部に言われた通り、僕は学校に行った。
昇降口で、走ってきた光流くんに抱き締められた。
息が切れるほど、必死だった。
ずっと、僕たちのことを待っていたらしい。
光流くんも奏さんも、散々泣いた後って顔をしてた。
奏さんも、昨日、何かあったようだけど……。
それは放課後にまとめて話すって、斎賀先生が言ってた。
麗子さんの姿は、見当たらなかった。
光流くん曰く、今朝からずっとトレーニングをしているとか。
けれど、河川敷には来る予定だそうだ。
とにかく僕たちは、昨日とはもう、同じ場所には立っていなかった。
それだけは、はっきりとわかった。
――放課後。
僕たちは、河川敷に集まった。
それぞれの、覚悟を胸に。
「坊やたちィィィ!!」
「ゔ……麗子さん……くるし……」
「ギブギブ!!」
河川敷に着いた瞬間、僕たちは麗子さんに強く抱擁された。
「昨日は本当にごめんなさい!!弱いアタシを許してェ!!」
「だ、大丈夫ですから……離して……」
ほ、骨が折れる……。
「麗子ー!柊と颯が死んじゃうよー!
生きて帰ってきたのにー!」
光流くんが、必死に麗子さんを揺すった。
「あらやだ、ごめんなさいねェ」
解放された。
「とにかく、アンタたちが無事で、本当に良かったわ」
「お前のせいで、今また死にかけたけどな」
麗子さんと颯が、そんなやりとりをしていると、
「はいはい。凡才の友情ごっこお疲れさま〜⭐︎」
紫苑さんと、狛さんが現れた。
その背後に、見知らぬ女の子と、男の……霊?
麗子さんは腕を組み、じろりと紫苑さんを睨みつける。
「……アンタ、相変わらずねェ」
「君も相変わらずゴリラだね⭐︎」
「何ですってェ!?」
怒る麗子さんの横で、光流くんがぴしっと敬礼した。
「先輩方、お久しぶりでーす!」
「お前面識あんのかよ?」
颯は眉をひそめる。
「んー、現場で数回、会ったことあるくらい?」
……祓い師の世界は、思ったより狭い。
「みなさん。全員揃いましたね。
まずは自己紹介しましょうか」
その場を仕切るように、斎賀先生が手を叩いた。
場の空気が引き締まる。
僕たちは、円の形に集まった。
「ではまず、狛くんから。良いですか?」
「東雲狛。よろしく」
低い声。
僕は、ごくっと唾を飲み込んだ。
「久世紫苑でーす⭐︎」
笑っているのに、視線だけは鋭い。
奏さんが、眉間に皺を寄せていた。
そして、初めて見る女の子。
クリーム色の髪に、オレンジのニット帽。
なぜか両腕いっぱいに、パンやお菓子を抱えていた。
「こんにちは〜!ボクは春日伊吹!
よろしくね!」
そう言って、彼女――伊吹さんは、にぱっと笑う。
なんか……普通に良い人そうだ。
さっきまで空気が、少しだけ和らいだ。
伊吹さんの背後から、ガリガリに痩せた青年の霊が顔を出す。
「で、こっちはボクの守護霊の、福ちゃん!」
「……よ、よろしくお願いします……。お腹すいた……」
消え入りそうな声。
顔も青白く、見るからに体調が悪そうだ。
「三人とも、皇陽高校の三年生です。学年的にもそうですが、祓い師としての経験も、みなさんの先輩にあたります」
斎賀先生が補足した。
「では、柊くんたちも、自己紹介を」
斎賀先生に促され、僕は一歩前に出る。
「白瀬柊です。よろしくお願いします。
こっちは僕の守護霊で、弟の……」
「颯!」
颯は腕を組んで、僕の頭上にいた。
「霧島奏です」
「朝倉光流でーす!」
「光流の守護霊、麗子よォ」
「この子たちは、僕の勤める――瑞峰学園の二年生です。柊くんと颯くんは交通事故で……」
「知ってるから、その辺の説明いらない⭐︎」
紫苑さんが斎賀先生の言葉を遮った。
「それより、常夜ノ会について、何かわかったんでしょ⭐︎?」
「は、はい」
どっちが先生なのか、わからないな。
斎賀先生は、いつになく真剣な口調で、
常夜ノ会について話し始めた。
常夜ノ会の目的。
霊力を増幅させる薬や、霊を使った実験。
そして――霧島琴子という存在。
その場にいる全員が、静かに耳を傾けていた。
「……ふーん⭐︎どう思う、狛⭐︎?」
「ただの組織ではない。三流派の人間が関わっている。
おそらく、霧島琴子と霧島響だけではないだろう」
「そうとう厄介じゃーん⭐︎」
「そうなんです」
斎賀先生は、重々しい顔つきで、先輩たちを見た。
「だから、君たちにお願いがあります。
……この子たち五人を、強くして下さい」
「お願いします!!」
あの光流くんが、頭を下げた。
僕たちも急いでお辞儀をする。
「……強くなりたいんです!」
僕は俯きながら言った。
そして、顔を上げる。
「もう二度と、負けたくないんです」
僕たち五人は、同じ思いだった。
ビュウッと風が吹き抜け、河川敷の木々がざわめいた。
「……わかった」
口を開いたのは、狛さんだった。
「俺たちにできることは、やろう」
「まあ、猫の手も借りたい状況になるかもしれないしね〜⭐︎」
「もちろんだよ〜!一緒に強くなろう!ね!福ちゃん!」
「う、うん!伊吹ちゃん!」
雲の切れ間から、太陽の光が降り注ぐ。
「ただし⭐︎」
紫苑さんが、にこりと微笑む。
「前にも言ったけど、
使えないと思ったら、僕は捨てるからね⭐︎」
ヒュッと心臓が縮んだ。
「は、はい!」
そう答える僕の横で、奏さんだけが、
なぜか、紫苑さんから目を逸らしていた。
――まるで、“見てはいけない”とでも言うように。
「では、今日から特訓を始めましょう。
いつまた、常夜の人間と刃を交えることになるか、わかりませんからね」
斎賀先生は、狛さんに目をやる。
「狛くん。君は共霊、できますよね」
「……」
狛さんは、無言で頷いた。
僕以外にも、共霊できる人がいたんだ。
胸の奥が、なんとなくざわついた。
「柊くん、颯くん。
君たちは、狛くんに教えて貰いましょうか」
「はい!」
「おう」
僕たちの声が重なった。
「それから、光流くんと麗子さん」
斎賀先生は、今度は光流くんたちを見る。
「君たちの戦い方は、伊吹さんと福くんと似ています。
四人は一緒に訓練するのが良いでしょう」
「はーい!よろしくね!」
明るい声で、伊吹さんが手を挙げた。
「お願いします!!」
光流くんが、やる気満々で答える。
「伊吹さんは、少し変わった体質の持ち主ですから、驚くでしょうが……。
まあ、まずは見せて貰うと良いと思います」
「変わった体質?」
斎賀先生の言葉に、光流くんが首を傾げた。
「そーそー!見た方が早いかな!」
伊吹さんの腕から、菓子パンがひとつ、溢れて落ちた。
「そして、奏さん」
斎賀先生に名を呼ばれた奏さんは、険しい表情をしていた。
「……はい」
「奏さんは、紫苑くんとやりましょうか」
「よろしく⭐︎」
「……」
奏さんは、何も言わずに紫苑さんを見つめていた。
まるで――触れてはいけないものを見るように。
なんだろう。
嫌な予感がした。
――こうして、僕たちは三つに分かれて、
特訓をスタートさせた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:2月8日12時
第三十二話 ここはまだ、入り口【前編】




