表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/105

第三十話 重なり始める歯車


「とりあえず、君たちは一回家に帰りなよ⭐︎」


 紫苑さんが、鼻をつまんだ。


「服とか昨日のままでしょ?僕汚い人、無理なんだよね⭐︎」


「うっ!」


 僕の身体は、昨日の潮風に晒されてベタついていた。


「登校できるなら、午後からでも学校に行きなさい。斎賀先生は事情を知っているから、大丈夫だよ」


 警部の言葉は、優しかった。


 ――僕たちは一旦、自分の家に戻ることになった。

 紫苑さんたちと放課後にまた、集まる約束をして。


 きっとそこには、奏さんや光流くんたちも来る。


 ……カチャリ。


「……ただいま」


 こんな時間に家に帰るのは初めてだ。

 父さんは仕事。家には誰もいない。

 わかっているけど、泥棒みたいな気分だった。


 チーン。


 おりんを鳴らし、仏壇に手を合わせた。


 母さん。

 昨日は、僕もそっちに行ってしまうかと思ったけれど。

 ――僕はまだ生きて、やることがある。


 顔を上げて、遺影の母さんをまっすぐ見つめた。


「よし!」


 とりあえず、お風呂に入ろう。

 ベタついた身体を洗い流して、気を引き締めたい。

 

 洗面所に向かい、制服を脱ぐ。


「俺、リビングで待ってるわ」


 颯が洗面所を出ようとした、その時。

 ふと、鏡に映った僕の腹部に目が留まったらしい。


「おい」


 足を止めて、鏡越しに僕を見る。


「お前、そのアザ。なんか薄くなってね?」


「え?」


 僕には生まれた時から、ヘソの上にアザがある。

 魔法陣みたいな、不思議な模様。

 これを知っているのは、家族だけだ。


 鏡を見て、自分の体を確認した。


「……そうかな?

 颯は久しぶりに見たから、そう思うんじゃないの?」


「まぁ、確かに」


「……そんなに見るなよ!」


 僕は、両手を交差させて身体を隠した。


「はぁ!?見てねーし、興味ねーわ!!」


「僕お風呂入るから!あっち行って!」


「言われなくても行くわ、ボケ!」


 颯は吐き捨てるように言って、去っていった。


「……」

 

 改めて鏡と向き合う。


 今まで気にしてなかったけど、

 こんな模様だっただろうか。


 ――その引っかかりの正体が分かったのは、

 ずっと先だった。

 

 

 ***


 その頃、学校。化学準備室。


「先生ぇー……」


 光流は、机に項垂れていた。


「光流くん、今授業中ですよねぇ。

 これ普通にサボりですよねぇ」


「だって授業受けてる場合じゃなくなーい?」


 光流の目は、ぱんぱんに腫れ上がっていた。


「柊と颯は無事なんだよね?いつ帰ってくんの?」


「その質問、さっきから何回目ですか……。

 東雲警部から、二人は無事だと連絡がありましたから、安心して待ちましょうよ」


 斎賀先生は、小さく息を吐き、パイプ椅子に腰掛ける。


「だってさー、俺のせいじゃん……」


「光流くんのせいではありませんよ」


「でも、俺が弱かったから」


 光流は両手で顔を押さえた。


「先生。

 俺さ、天才でもなんでもなかったよ」


「……」


 斎賀先生は、何も言わなかった。

 体育をする男子生徒の声が、校庭から聞こえてくる。


「俺、もっと努力しないとダメだ」


 決意するように、そう言った。

 その時。


 ガラガラ……。


 力無く、化学準備室の扉が開く。

 そこに立っていたのは、奏だった。


「……おはようございます」


「え!?奏さんが、遅刻!?

 というか、何故ここに!?」


 斎賀先生が立ち上がった。


「こんな顔で……教室に行けません……」


 ガラガラの声、真っ赤な目。


「奏ちゃん、何その顔」


「それはこっちのセリフです。光流くん」


 斎賀先生が二人の間に割って入った。


「か、奏さん。

 とりあえず、何があったか教えてくれる?」


「先生……」


 奏の目に、また涙が浮かんだ。


「響が……響が霧島家を出て行きました。

 私が弱いから……止められませんでした……!」


 握りしめられた奏の拳は、震えていた。


「響さんが……?

 奏さん、詳しく教えてください」


 斎賀先生が眉を顰める。


「響は、霧島家に絶望していました。

 だから、新しい場所――“常夜ノ会”という組織に入るそうです」


「……常夜ノ会?……常夜……!」


 光流が、ハッとして声を上げた。


「先生!昨日、浜辺で篝って子が言ってた!

 戒は、“常夜”の人間だって!」


「光流くん、常夜の関係者に会ったんですか!?」


 奏が食い気味に尋ねた。


「うん!赤い霊力を使う男に!」


「……赤い霊力!響も使っていました!」


 室内の空気が、張り詰めた。

 点と点が、繋がっていく。


 三人の呼吸が、揃って止まった。

 

「なるほど……一旦、整理しましょうか」


 斎賀先生の声は、いつもより低かった。


「おそらく、響さんと戒は、“常夜ノ会”で繋がっている」


 ホワイトボードに、文字を書き始める斎賀先生。

 

「先生。その組織には――霧島琴子もいます」


 ――カツン。


 マーカーペンが、床に落ちた。


「響が言っていました。

 『霊力を増幅させる薬を、霧島琴子に貰った』と」


「本当ですか?

 ……だとしたら、大変だ」


 先生は震える手で、ペンを拾い上げる。


「その人、そんなにヤバいの?」


 光流が奏の顔を覗き込む。


「ええ。霧島家史上、最悪の祓い師です。

 ……禁忌を、犯しています」


「ヤバい薬も作れちゃう感じ?」


「いや。霧島琴子に、そんな力はありません」


 そう言い切って答えたのは、斎賀先生だった。

 ぴくり、と光流が眉を動かす。


「……薬作ってるやつは、別にいるってこと?」


 光流は、じっと斎賀先生の目を見て言った。


「……その可能性が高いです」


「戒ってやつ、“実験”とか、霊の“合成”とかも、言ってたよ」


「そういうことができる人物が、いるんでしょうね」


 一瞬の、沈黙。


 光流の視線に耐えきれず、斎賀先生は顔を逸らした。

 まるで、何か隠しているみたいに。


「奏さん。響さんは、常夜ノ会について……

 他に何か言っていましたか?」


「はい。常夜ノ会の目的は、

 “霊を利用し、強力な力を手に入れること。

 そして、世界を作り替えること”だそうです」


「なるほど」


 斎賀先生は、メガネをくいっと持ち上げた。


「今日の放課後、河川敷に、東雲警部の息子さんたちを呼んでいます。これから、君たちと一緒に動いてくれるそうです」


 メガネの奥の瞳は、真剣だった。


「そこでまた、この話をしましょう」


 ――この集まりが“始まり”になる。

 そんな予感がしていた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月7日15時

第三十一話 集う者たち

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ