第二十九話 迎えに来た異端【後編】
篝くんの屋敷を抜けると、東雲警部の車が見えた。
警部が車窓を開けて、顔を出す。
「……乗ってくれ」
「は、はい!」
言われるがまま、僕たちは車に乗り込んだ。
当然のように助手席へ乗り込む紫苑さん。
警部は、何も言わない。
紫苑さんって一体何者なんだろう。
僕は後部座席で、狛さんと颯の間に挟まれた。
ゆっくりと、車が走り出す。
「あの、迎えにきてくださって、ありがとうございます」
「いや、むしろ遅くなってすまなかった」
警部が、ハンドルを握りながら話し始めた。
「昨日、斎賀先生から連絡をもらったんだけどね。あいにく、僕は仕事中で動けなくて」
「篝のところにいるなら、一晩くらい大丈夫だろってことで、今朝来たんだよね〜⭐︎」
紫苑さんが、振り返って笑顔を見せる。
警部が、言葉を継いだ。
「篝くんの屋敷は、限られた人間しか知らないから、斎賀先生も動けなくてね」
「どうして俺らが篝の屋敷にいるってわかったんだよ?」
颯が、運転席と助手席の間から顔を出す。
「光流が喋ったんでしょ⭐︎?」
そうだ。光流くんと麗子さん。
あの海で、あれから二人は大丈夫だったのだろうか。
「二人とも無事だよ」
僕の不安を見抜いたように、警部が答えた。
「かなり、落ち込んでるみたいだけどね」
「……あ」
その言葉に、胸の奥がチクリと傷んだ。
「とにかく、みんな無事で良かったよ」
「……はい」
僕は肩を落とした。
「でもさ、どうして篝が助けてくれたんだろうね⭐︎?」
それは僕も思っていた。
篝くんは、『助ける価値があったかどうかは、これから僕が決めること』って言っていたけれど。
「……みなさんは、篝くんのことを知っているんですね」
「祓い師なら、だいたい知ってると思うよ⭐︎
あいつ御影の後継者だもん⭐︎」
“御影の後継者”。
その言葉だけで、車内の空気が一段重くなった気がした。
「久世蒼嶺、御影篝、霧島和音。
三流派の後継者だよ⭐︎
――まあ、君たちが喧嘩売っていい相手じゃないってこと⭐︎」
篝くん。そんな存在だったのか。
「……紫苑さんは、久世家の後継者ではないんですね」
僕の言葉に、警部と狛さんが、ピクッと反応した。
「おい、凡才⭐︎お前ほんと何にも知らないんだね⭐︎」
「凡才!?」
咄嗟に反応してしまった。
「紫苑にとっての二人称だ。気にするな」
「いや煽ってるだろ」
説明する狛さんに、颯がぽつりと呟く。
狛さんが補足した。
「……色々あって、紫苑は今、久世家とは関係ない人間なんだ」
そこで、狛さんが話を変えた。
「篝は……少なくとも、人を殺すような奴じゃない」
「まあ、何か知ってはいるんだろうけどね⭐︎
で⭐︎?君たちを襲った、僧侶の男ってどんな奴だったの⭐︎?」
「赤い霊力を……纏っていました」
「……へぇ⭐︎」
「確か、“戒”って言ってたぞ。なぁ、柊?」
颯が僕を見る。
「うん。霊力をドーピングしてるとか、霊害をばら撒いてるとか、言ってました」
「なにそれ、きもちわるーい⭐︎」
紫苑さん、全然怖がってない。
むしろどこか楽しそうに見えた。
「斎賀先生から、概ね話は聞いて調べたんだが、私たちもその男の正体にまだ辿り着けていない。
ただ――ここ最近増え続ける霊害に、その男が深く関わっていることは、今回の件で明らかになった」
警部は、淡々と話した。
「これから、君たちは霊害だけでなく、人間の“組織”と戦うことになるのかもしれない」
心臓が、ドクンと音を立てた。
ぎゅっと、身体に力が入る。
「こちらも、もっとまとまって動いた方が良いだろう。
そのためにも、狛たちのチームと、これからはできるだけ一緒に行動して欲しい」
「狛さんたちの“チーム”?」
颯が眉間に皺を寄せる。
「そ⭐︎僕と狛と、あともう一人いる〜⭐︎」
「もう“二人”だ。
……そいつらは、朝が弱くてな」
狛さんが即座に付け足した。
「霊ってカウントするものなの⭐︎?」
その言葉に、颯がムッとしたのがわかった。
「まあぶっちゃけ、協力とかクソだるいんだけど、狛のパパが言うならしょうがないよね〜⭐︎」
「おい、紫苑。そんなこと……」
止める狛さんにはお構いなく、紫苑さんは続けた。
ルームミラー越しに、目が合う。
「足手まといだと思ったら、即切るから⭐︎」
その言葉より、
笑ったまま僕を見ている視線の方が、ずっと怖かった。
――この人は、
必要とあらば本当に、仲間を切り捨てる。
なぜか、そう確信してしまった。
――そのまま、車は走り続けた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:2月7日12時
第三十話 重なり始める歯車




