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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
始まりの心音

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第二十六話 理想は、力の前に折れる【後編】


 霧島分家の訓練場。襖で仕切られた、畳敷きの部屋だ。


「子供の頃、よくここで一緒に訓練したね」


 響が、懐かしむように天井を見上げた。


「女の私たちは、本家の訓練場は使えない。だから、奏の家の、この場所でやるしかなかった」


「……」


「霧島に産まれた女は、強くなくて良い。

 強い男と結婚し、子を産む。それが役目」


 響はゆっくりと畳を踏み締め、奏から距離を取る。


「クソ喰らえって感じ」


 くるりと振り返り、奏を見ながら嘲笑った。


「確かに、そう言われて来ました。でも、その考えは、少しずつ変わってきているはずです」


「じゃあ、どうして和音が後継者なの?」


 ぐっ、と奏は言葉に詰まる。


「まだ三歳。霊力もまともに扱えない年齢。

 それでも、私より実力が上って、断言できる?」


「それは……」


 言い返せなかった。響の言葉は正論だ。


「腐りきった家は、壊すしかない」


 ボウッ!


 響が、赤い光に包まれる。


「響!それは――」


 “何?”と、尋ねるより早く、響が口を開く。


「霊力をね、増幅させる“薬”があるの。

 すごいでしょ?」


「霊力を、増幅?」


 赤い霊力の圧に、奏の足がわずかに震えた。


「そう。ミラ様にもらったの」


「ミラ様?」


「ああ。琴子ことこ様って言えば、わかる?」


「……琴子?……霧島琴子!?」


 霧島琴子。霧島家の、“禁忌”。


「驚いた?

 私も、初めて会った時は、同じ顔をした」


「なぜ、あなたが霧島琴子と!?」


「琴子様はね、今、“新しい場所”にいるの」

 

 響は逸らすことなく、奏の目を見据えた。


常夜ノ会(じょうやのかい)


 霊を利用して、祓い師の力を強化する。

 この世界を、作り替えようとしている組織」


「霊を、利用……!?」


「弱いものは下。強いものだけが上」


「響、何を言っているんですか?

 霊は、利用する存在ではありません。

 あるべき場所に、還すものです」


「それって、誰が決めたの?」


「幼い頃から、そう教わって来ました!

 霊を還し、現世に生きるものを守る。

 それが、祓い師の仕事です!」


「別に、弱い一般人を守らないって言ってるわけじゃないよ」


 響は、肩をすくめる。


「対価があるなら助ける。

 でも――祓うより、利用した方が効率的じゃない?」


 本当に、楽しそうに言った。


「響!」


 奏の目に、うっすらと涙が浮かぶ。


「霊は、元は生きていた存在です!私たちと同じなんですよ!?」


「奏って本当、変わらないね」


 響の目から、熱が消えた。


「まあ良いよ。どっちが正しいか、戦って決めよう」


 そして、奏へ真っ直ぐ向き直る。


「手加減しませんよ、響」


「それはこっちのセリフ」


 響がブレザーの内側から、

 細長く黒い、鞭の様な武器を取り出した。


「コード?」


 響はコードを両手で持ち、胸元で引き延ばす。


「霧島家の武器では、ありませんね」


 奏もまた、胸元からお札を四枚取り出した。

 二枚ずつ手に持ち、青白い光を纏わせる。


「あんたはまだ、そんなの使ってるんだ」


 小馬鹿にするような笑み。

 奏にとっての“伝統”は、響にしてみれば“古臭いもの”でしかないのだろう。


 風が、訓練場を軋ませた。


「来ないなら、こちらから」


 先に動いたのは、奏だった。


 シュッ!!


 お札を放つ。


 ボウッ!


 コードを包み込む、赤い光。

 響はそれを振り、お札を弾き飛ばす。


 しかし、


「はぁっ!!」


 奏はすでに間合いを詰めていた。

 右足に霊力を乗せ、身体を捻り、顔面へ――


「……!」


 響は身を反らし、蹴りをかわす。


 ヒュンッ!


 奏は後方に飛び、コードを避ける。


「驚いた。奏、そんなこともできるようになったんだ」


 ――自然と、身体が動いた。


「すごいじゃん。でも、」


 ゴォッ!


 赤い霊力が、勢いを増す。


「私には効かないよ」


 凄まじい霊力の圧に、身体が震えた。


 ――怖い。

 それでも、足は止まらなかった。


 奏は唇を噛み締め、駆け出す。


 シュッ。

 シュッ。


 お札を投げながら、距離を詰める。

 

 響は、避けない。


 ジュゥ……


 お札が、赤い霊力に焦がされ灰になる。


 ならば――


「やぁっ!!」


 もう一度、右足を振り切る。

 さっきより強い霊力を乗せた、渾身の蹴り。


 だが、


「っああ!!」


 赤い光に触れた瞬間、焼けるような痛みが走った。

 奏は体勢を崩し、畳に倒れる。

 

 立ち上がろうとした、その瞬間。


 ヒュッ!!


「っ!?」


 コードが、右足首を捕えた。


「これで、終わり」


「あ……!?」


 ビリィィィッ!!


 赤い霊力が、コードを伝う。


 内側から霊力を焼き切る、攻撃だった。

 

 奏の全身を、激痛が貫く。

 一瞬、意識が飛んだ。


「……う……」


 痛い。動けない。

 霊力が――空っぽだ。


「私の勝ちだね」


 響は歩み寄り、畳に倒れる奏を見下ろす。


「奏。力がなければ、理想は叶えられないの」


 響は、奏に背を向けた。


「だから、私はもっと強くなる。

 そして、この世界を変える」


 そう言って、襖に手をかけた――その時。


 ほんの一瞬、響の身体が揺れる。

 赤い光が、わずかに乱れた。


「……はぁ、はぁ……」


 響は胸元を押さえる。荒い呼吸音。


「……響、その薬は、危険なものなのでは?」


「うるさい!!」


 背を向けたまま、響が叫んだ。


「……生きていられただけ、感謝しな」


 すっと身体を立て直し、襖を開けた。


「でも次、私の前に立ちはだかったら、容赦しないから」


 ピシャッ!


 襖が、二人の間を断ち切るように閉じられた。

 

 ――『奏。一緒に強くなろう!霧島は、女も強いんだって、みんなに見せつけるの!』

 『それで、人も霊も、二人でたくさん助けよう!』


 幼い頃の約束が、奏の脳裏に蘇る。


「……響……!」


 奏の声だけが、むなしく訓練場に響いた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月2日21時

第二十七話 弱さの話をしよう【前編】

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