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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
始まりの心音

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第二十六話 理想は、力の前に折れる【前編】


 ***


 同時刻。霧島分家――奏の自宅。

 静かな和室で、二人は向かい合っていた。


 奏と、男性のように短い黒髪の少女。

 二人は、それぞれ別の制服を身に纏っていた。


 奏は、お茶を一口啜った後、ゆっくりと口を開いた。


「あなたが家に来るなんて、随分と久しぶりですね。


 ……ひびき


 湯呑み茶碗を置き、真っ直ぐに彼女――響を見つめた。


「元気そうね、奏」


 響は、表情を変えずに言う。


 霧島響――霧島家本家、現当主の姉の娘。


 かつては、霧島家の有力な後継者候補だった。

 ――三年前までは。


 響は、落ち着いた声で話し始めた。


「……和音かずねが、霧島家の後継者として、正式に決まったのは、知ってる?」


 三年前に生まれた、当主の一人息子、和音。


「……ええ」


 奏は、気まずそうに視線を逸らした。


「結局は、男」


 一瞬の沈黙。


 響が、ハッと嘲笑う。

 その拳は、畳の上で強く握り締められていた。


「……響、あなたはよくやりました。その実力は、霧島家も認めています」


「実力なんて関係ない!」


 響が、力強い声で叫んだ。


「久世家は、女だろうと実力があれば当主になる」


 久世家では、女が当主になることもあった。


「霧島家はね、久世家や御影家に見下されてる。

 ……なんでか、わかる?」


 響は立ち上がり、奏を下に見ながら言った。


「見下されてなんかいません。霧島家は……

 力だけで人を測らない家です!」


「……伝統や秩序、規律――そんなものばかり気にしてるから、この家は弱いのよ」


「そんなこと……」


「奏、私は霧島家を出るわ」


 奏の声に被せるように、響が言った。

 強く、はっきりとした声だった。


「私は強くなる。そして、この家を後悔させてやる」


 中庭のししおどしが、音を立てた。


「……どんな手段を選んでも、ね……!」


 響の表情は、憎しみに満ちていた。


「響。いけません、力が全てではないはずです……!」


 奏が立ち上がり、響に歩み寄る。

 響は、噛みしめるように息を吐いた。


「そのうち、霧島は久世に潰される」


 真剣なその言葉に、奏はびくっと身体を震わせた。


「それで良いなら、あんたはここでのんびりやってなよ」


 響はそう言って、奏に背を向けると、

 ふすまに手をかける。


「響!待って!」


 奏は、思わず前に出ていた。


 奏にとって響は、ただの親戚ではない。

 霧島家に産まれた女同士、幼い頃から姉の様に慕っていた存在だ。


「考え直しましょう!私も力になりますから!」


 必死に、響の手を取る。


「……そこまで言うなら、ね」


 ボウッ。


 響の身体が、赤い霊力に包まれた。


「……ッ!?」


 その熱に触れ、咄嗟に奏が手を離す。


「私のこと、倒してみてよ」


 にやり、と響は笑った。

 その表情は、奏の知っている“姉のような響”ではなかった。


「その霊力は……!?あなた、一体何をしたんですか!?」


 奏の声は、わずかに震えていた。


「教えてあげる」


 響は、敷地の奥――訓練場の方へ視線を投げる。


「私たちが昔、よく一緒に練習した場所で、やろう」


 響が、一歩、距離を取った。


 その仕草だけで、

 もう同じ“土俵”に立っていないことが、はっきりとわかった。


「……響」


「大丈夫」


 響は、奏の方を見ずに言った。


「これは、喧嘩じゃない。

 ――“証明”だから」


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月1日15時

第二十六話 理想は、力の前に折れる【後編】

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