第二十五話 その手は、敵か味方か
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ドサッ!
共霊したままの柊の身体が、砂浜に倒れ込んだ。
「あー?」
男は眉間に皺を寄せ、首を傾げる。
男は、確かな違和感を覚えていた。
――確かに、引き金は引いたはずだ。
だが、弾は貫通していない。
血の一滴すら、見えなかった。
「……てめぇの仕業だな」
男が、視線を向けた先にいたのは――
篝だった。
背後で、宵と灯が篝の肩に手を置く。
「ふふ……間に合ったみたいだね」
そう言って、篝は壊れ物を扱うように柊の身体を両手で抱え上げた。
「御影の坊がなんの用だよ」
「ふふ……」
篝は、ただ微笑むだけだった。
「おい坊主。言葉を慎め」
宵が、男を指差す。
隣で灯も、男の態度に怒っていた。
「まあまあ、二人とも」
二人を宥めた後、篝の視線は、男を捉える。
「……君、常夜の人間だね。僧侶の格好、霊銃使い、その人相。名前は、戒……だったかな」
「よく知ってるじゃねぇか」
男は、ふふん、と鼻を鳴らす。
「てめぇも俺に、ぶち殺されに来たのか?」
「まさか。君が僕を殺してしまったら、大問題だよ」
篝は、にこりと微笑む。
だが、その目は笑っていなかった。
「それに君は、無謀な戦いを挑むほど、馬鹿じゃないと思ったけど?」
「……チッ」
男――戒は、舌打ちをした。
「あーあー、興醒めだな」
拳銃を袈裟に収める。
「てめぇのことは、上に報告しとくからな」
戒は、ギロリと篝を睨みつけた。
「どうぞ、ご自由に」
「……スカしてんのも、今のうちだぞ」
吐き捨てるように言って、戒は踵を返した。
砂浜を踏み締め、ゆっくりとビーチを後にする。
「本当に、失礼なやつですわ」
灯は、ふんっと鼻を鳴らした。
「……篝様、あの坊主、行かせてよろしいのですか?」
宵が、篝の顔色を伺うように尋ねる。
「問題ないよ。……さて」
篝は視線を、砂浜に横たわる光流へと移す。
「君、さすがだね。あの判断は、簡単じゃない」
「……うっ」
光流は、うっすらと目を開けて、篝を見た。
篝は続ける。
「……あの瞬間、君が動いたのは見ていたよ。
おかげで、この子は助かった。
――もちろん、僕の力もあったけどね」
「……誰?」
篝は、光流に微笑みかけた。
白銀の髪が、潮風にサラサラと靡く。
「僕は、御影篝。君たちの敵じゃないよ。
……味方でもないけどね」
そう言うと、篝は柊の身体を抱えたまま、砂浜を歩き出した。
その背中は、次第に遠くなり――
やがて、見えなくなった。
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※次回更新:2月1日12時
第二十六話 理想は、力の前に折れる【前編】




