第二十四話 心音、重なる時
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Side:颯
砂浜に横たわる麗子と、光流。
その前に立つ、赤い霊力を纏った男。
やべぇことが起きてる。
前に出ようとした俺を、
柊は、「無理だ」と言って止めた。
確かに、そうかもしれない。
だけど――
「オラァァァ!!」
俺は、麗子に銃口を向ける男に、飛びついた。
次の瞬間、強烈な痛みが全身に走る。
「うぁっちい!!」
咄嗟に、飛び退く。
次の瞬間、俺は柊の霊力に包まれた。
身体が暖かさを取り戻す。
男は、ターゲットを柊に変えていた。
「柊!!」
男の指が、ゆっくりと引き金にかかる。
やらせない!
まだ、俺にはできることがあるだろ!?
パン!
海辺に轟く、銃声。
「颯!!」
柊が、俺の名を呼んだ。
その瞬間、
ブワァァァ!!
身体が、白銀の光へと姿を変える。
強烈な力で、柊の元へと引っ張られていく。
以前にも、経験した感覚。
共霊だ。
ほんの一瞬、意識が途切れる。
その後で、見えてきたのは――
居酒屋。机に並ぶ料理。騒ぎ声。
奏、光流と麗子、それからメガネ。
それは、俺も知っている光景だった。
「これ、この間の……!」
俺はまた、柊の記憶を見ているようだ。
メガネは泣きながら吐いて、奏が慌てる。
寝落ちする光流の横で、麗子は平然と酒を飲み、
俺は唐揚げを食っていた。
汚ねぇし、めちゃくちゃだな……。
『楽しいな』
柊の声が、頭の中に響いた。
『仲間がいるって、嬉しい』
……お前、ずっとボッチだったもんな。
だからあの時、笑ってたのかよ。
映像が薄れて消え、意識が戻る。
俺は今、柊の中だ。
やっとできた、お前の仲間。
誰も、死なせない。
俺が、守る。
心音が――二つ、重なった。
***
Side:柊
パァン!
僕は、掌から霊力を放ち、赤い光を弾いていた。
自分でも、さっきとは比べ物にならない霊力だとわかる。
これが、共霊の力。
霊力の“重さ”が違う。
「……颯、いるよね?」
『おうよ』
頭の中に声が響く。
鼓動を早める心臓。
燃えるように熱い身体。
――なのに、安心できる。
懐かしい。
あの男とも、やり合える気がした。
「……へぇ。お前ら、共霊できるのかよ」
男が、感心したように呟く。
「……」
僕は、無言で男を睨みつけた。
「雑魚が雑魚と組んだところで、大したことねぇだろうがな」
ヒャハハと、男が高笑いする。
「ぬかせ」
僕は、強気だった。
これも、颯の力なのだろうか。
「はぁ?共霊ごときで、調子乗ってんじゃねぇぞ!」
男が、赤い光を纏って突進してくる。
見える!
右足の蹴りだ!
ドガァッ!
左腕で男の蹴りを防いだ。
赤い霊力に触れた部分が、焼けるように熱い。
……でも、耐えられる。
カチャ――男の拳銃が、僕の顔面を捉える。
パン!
首を傾け、弾丸をかわした。
右拳を、男の顔面に叩き込む。
バキィッ!
続けざまに左足で、腹部を蹴り抜いた。
ドゴォッ!
確かな、手応え。
男の顔が、一瞬歪む。
いける――!
右足を振り抜こうとした、その時。
パン!
「!?」
赤い光が左肩を貫いた。
体制が崩れる。
ドガァッ!!
「……うっ……」
重い蹴りが、腹に捩じ込まれた。
……耐えろ!
男の足を両手で掴み、必死に踏ん張る。
「お返しな」
バキィッ!!
顔面に、拳をくらった。
ズシャァァ!
視界が揺れ、背中から砂浜に叩きつけられる。
『柊!大丈夫か!?』
颯の声が、脳内に響いた。
僕は歯を食いしばり、砂を払って立ち上がった。
「……大丈夫。颯のおかげで、戦えてる」
口の中に溜まった血を、地面に吐き捨てる。
前の共霊時より、相手の動きがはっきり見える。
考える前に、身体が動く。
これが、颯が積み上げてきた特訓の成果だ。
まだ、やれる。
『柊、次の攻撃だ。いけると思ったら、霊力、全部乗せろ』
「……ああ」
殴る、その瞬間。
霊力を、限界まで捻り込む。
――今度こそ、決める。
男に向かって、駆け出した。
右、左と拳を振るい、
間髪入れずに蹴りを繋ぐ。
全て、避けられる。
――それで良い。
「当たらねぇよ」
男が、鼻で笑った。
もう一度。
右、左、右足、そして左足――
見せかけて、
バキィッ!!
左拳を下から突き上げた。
狙いは――男の右手の拳銃。
拳銃が男の手から離れ、放物線を描く。
「……チッ」
男の視線が、拳銃を追った。その瞬間、
『今だ!!』
霊力を右手に最大出力して、男の顔面を――
ゴオォ……
思うように、乗らない……!?
――『その時に、“霊力残ってませんでした〜”じゃ、シャレになんないからね〜?』
光流くんの言葉が、脳裏に蘇った。
使いすぎたんだ……!
パシッ!
僕の拳は、あっけなく男に掴まれた。
「計算ミス?初心者にありがちなやつだな」
男が、口角を上げた。そして、
カチャリ。
袈裟の奥から、もう一本、引き抜かれた。
黒い金属の塊。
冷たくて、硬くて――嫌になるほど“現実”だった。
銃口が、僕の額に押し付けられる。
「こっちは、人間用な」
……人間用?
一気に血の気が引いた。
「来世で精進しな」
――死ぬ。
バン!!
鈍い音が、暗い海にこだまする。
――次の瞬間、世界が裏返った。
海鳥が、一斉に飛び立つ。
カァン!
硬い金属が弾かれる音。
一瞬だけ、青白い光が見えた。
身体が、ふっと暖かさに包まれる。
それを最後に、僕の意識は深い闇に落ちていった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:1月31日15時
第二十五話 その手は、敵か味方か




