第二十三話 赤い霊力【後編】
……やった?
あの男を、倒した――そう、思った。
数秒間、波の音だけが響いた。
「……あー」
砂煙の向こうに浮かび上がったのは、
あの男の、シルエット。
「今のは、ちょっと効いたな。さすがに、イラっとしたわ」
そう言って、男は襟足に手を当て、だるそうに首を回す。
一気に、絶望感が押し寄せた。
「……マジか」
光流くんの顔が、引き攣る。
「……おい柊。これ、まずくねぇか?」
颯の声は、明らかに焦っていた。
「さ、斎賀先生を……!」
僕は、慌ててスマホを取り出した。
けれども、指が震えてまともに扱えない。
「おい!霊力よこせ!俺があいつを倒す!」
「無理だよ!!」
僕らに、あいつをどうにかできるわけがない。
今度こそ、本当に颯を失ってしまう……!
「じゃあ、お前は黙って見てんのかよ!?」
「……それは……!」
どうする?
どうすればいい?
こんな時に、奏さんが居てくれたら……。
――男が、ゆっくりと口を開く。
「……最後に、種明かししてやるよ」
ボウッ!!
男の身体が、燃え上がるような赤い光に包まれる。
「俺らはよぉ……霊力を、“ドーピング”してんだよ」
男は、にやりと笑った。
“ドーピング”?
意味は、わからない。
ただ――まともじゃない。
「……聞いたことないけど……霊力をいじる何か……だろうね」
光流くんが、息を切らしながら言う。
こんな状況でも、声は不思議と冷静だった。
「そのおかしな霊力は……そのせいか」
「まあ、ここで消えるお前らには関係ねぇ話だな」
男は、再び袈裟の中から拳銃を取り出す。
麗子さんが、光流くんを庇うように一歩前に出た。
海風が、強く吹いた。
ヒュゥゥ……
舞い上がる砂に、麗子さんが、まばたきをした。
その直後。
ドガァッ!!
男の蹴りが、麗子さんの胴体に沈み込んだ。
いつの間に!?
麗子さんの身体が仰け反り、宙に浮いた。
「じゃあな、No.8」
乾いた破裂音。
赤い光が、麗子さんの左胸を貫通した。
ズシャア!!
砂浜に叩きつけられた身体が……砂に溶けるみたいに、ゆっくりと薄れていく。
「麗子ぉ!!」
光流くんが叫んだ。
パン!
今度は、光流くんの腹部を赤い光が貫く。
「……うっ……」
丹田を押さえ、光流くんが膝をついた。
――光流くんまで。
頭の中に、最悪の言葉が浮かぶ。
男は光流くんを一瞥すると、
再び、麗子さんへ銃口を向ける。
息の根を、止める気だ。
ゾクッと、背中を冷気が這い上がる。
「う、うわぁぁぁ!」
僕が駆け出すより、早く――
「オラァァァ!!」
颯が、横側からタックルして男に組みついた。
「あー?」
「うぁっちぃ!!」
赤い光に触れ、颯は反射的に男から離れる。
「颯!!」
すぐさま、僕は霊力を送った。
「あーあー。めんどくせぇ」
男が、僕を睨みつける。
「雑魚が、足掻くなよ」
カチャリ。
銃口の先と、目が合った。
もう、逃げられない。
世界中の音が、消える。
「……あ……」
僕は、蛇に睨まれた蛙同然だった。
「柊!!」
颯の叫びが聞こえる。
男の指が、ゆっくりと引き金にかかった。
――やられる。
まだ、守れてもいないのに。
光流くんも、
麗子さんも、
颯も。
みんな、死ぬ?
パン!
銃声が、海辺に轟いた。
――守るためには、やるしかない。
「来い!颯!!」
僕は、自ら、颯を呼んだ。
その瞬間――
ブワァァァ!!
白銀の閃光が、僕の胸に突き刺さる。
――共霊の光だ。
誰も、死なせない。
僕が、守る。
心音が――二つ、重なった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:1月31日12時
第二十四話 心音、重なる時




