第二十三話 赤い霊力【前編】
「颯!颯!!」
僕は砂浜に倒れ込む颯の元に駆け寄り、肩を揺さぶった。
「……ん、うう……ってぇ……」
颯が顔をしかめ、ゆっくり目を開ける。
「……何が……起きたんだ?」
左肩を押さえて、颯は身体を起こした。
さっき、赤い光が貫いた場所だ。
外傷はない。
光流くんの左腕も、血は出ていなかった。
――実弾じゃない。霊力そのものを削る攻撃。
それなのに――赤い。
「あの男が、現れて……。今、光流くんと麗子さんが……」
僕は男がいる方を指さした。
白い砂の上で、青白い光を纏った麗子さんが、
あの男と向かい合っている。
男が拳銃を袈裟に収めた、その瞬間――
ドゴォォォン!!
凄まじい勢いで、麗子さんが踏み込み、
肩から男にぶつかった。
男の身体が宙を舞う。
バァン!!
間髪入れず、追撃の肘が腹に叩き込まれた。
砂浜に落ちた男へ、麗子さんが飛び乗る。
拳が、何度も振り下ろされた。
鈍い音が、何度も砂浜に響く。
麗子さんの気迫に、僕は息を呑んだ。
「……あんだけやりゃ、勝っただろ……!?」
「う、うん!」
僕らは、確かにそう思った。
――しかし。
ボウッ!!
男の身体が、赤い光に包まれた。
「っ……!?」
その光を浴びて、麗子さんが咄嗟に距離を取る。
触れたところから、ジュウゥ……と焼け焦げる音がしていた。
男は――むくりと起き上がった。
「……いってぇな」
身体についた砂を、払い落とす。
「なるほどなぁ」
男の視線が、ゆっくりと麗子さんを捉えた。
「殴り方は、悪くねぇ。――だが、それだけだ」
「……効いてないわねェ」
麗子さんは、次の一撃に備えて身構える。
背後から、光流くんが霊力を送った。
ゴウッ!
大きな青白い光が、麗子さんを包む。
「……お前ら、気づいてんだろ?」
男が、掌に赤い霊力を灯す。
「お前らとは、霊力の“質”が違うんだよ」
「赤い霊力……」
光流くんが呟く。
「奏ちゃんなら、何か知ってたかもしれないね」
目は、男から逸らさないまま。
「麗子、あいつの霊力、かなり危険だ」
“危険だ”。光流くんは、そう断言した。
「完全には避けられない。せめて、まともに――喰らわないように、できる?」
「ええ。あの霊力を纏った攻撃は、避けるわ」
「そう。来ると思ったら、すぐ離れて」
短いやりとり。
「ハッ。避けるだぁ?」
男が嘲笑った、直後。
「!?」
男の姿が、消えた。
次の瞬間、麗子さんの目の前に現れる。
男はにやりと口角を上げ、
赤い霊力を纏った拳を、下から突き上げた。
ドォンッ!!
麗子さんの身体が宙に浮いた。
ドゴォッ!!
追撃。拳が、腹部に深くめり込む。
「……かっ……」
麗子さんの息が、短く漏れた。
男は、赤い霊力を纏わせた足を振り抜く。
バァァァン!!
横腹を抉られ、麗子さんの身体が吹き飛んだ。
砂丘に叩きつけられ、激しく砂が舞う。
「麗子ぉ!!」
光流くんが叫ぶ。
ジュウゥ……
攻撃を受けた箇所から、嫌な音がしていた。
麗子さんを包んでいた青白い光が、目に見えて小さくなる。
――霊力は生命力。
あの言葉が、脳裏を過った。
ドクン、と心臓が脈打つ。
「ヒャハハハッ!!」
男は高く飛び上がり、上空から麗子さんを狙った。
赤い霊力を纏った足が、振り下ろされる。
――だめだ。
僕は、思わず目を閉じた。
「危ねぇ!!」
颯の叫びと同時に――
バチィ!!
後方から、光流くんが飛び出した。
青白い霊力を纏った足で、男の一撃を正面から受け止める。
「……くっ!」
拮抗したのは、一瞬。
光流くんは押し負け、砂浜を転がった。
しかし、すぐに跳ね起きる。
「ほら来いよ……!」
……挑発してる?
――いや、違う。
「んじゃあ、てめぇからやってやんよ!」
男が地面を蹴り、駆け出す。
光流くんは、身を低く沈めた。
ズシャァァ!!
低重心の回転蹴り。青白い砂嵐が巻き起こる。
「チッ……!」
男が、腕を交差して防ぐ――
その隙に、光流くんは走った。
……距離をとっている。
「ふざけやがって!」
男が、拳銃を抜いた。
パン!
赤い光が、飛ぶ。
「……ッ!」
光流くんの、頬をかすめた。
拳銃を構えたまま、男が距離を詰めてくる。
光流くんは、視線を外さなかった。
――三メートル。
一瞬で詰められる距離。
ヒュンッ!
踏み込んだのは、光流くん。
男の顔面めがけて、蹴る。
だが、男の左腕に捕えられた。
「バカだろ、お前」
銃口が、光流くんの額に押し当てられた、
その瞬間――
ブワァッ!!
光流くんが左手で、男の顔の横へ霊力を放つ。
「あぁ?」
男は、眉間に皺を寄せた。
霊力は、男の肩の上を通り過ぎる。
パン!!
引き金が、引かれた。
赤い光を額に受け、光流くんの身体が浮く。
でも――光流くんは笑っていた。
直後。
男の背後、上空から――
大きな影が、落ちる。
――麗子さん!?
「……その銃じゃ……俺は、死なないからね……」
光流くんの霊力は、麗子さんに注がれていた。
麗子さんの両足が、燃えるような青い光を纏う。
「オラァァァア!!」
ドゴォォォン!!
ドロップキックが、男の背中へ叩き込まれる。
――そういうことか。
爆風。舞い上がる砂。
視界は、砂嵐に遮られた。
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※次回更新:1月30日21時
第二十三話 赤い霊力【後編】




