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二つの心音――弟が守護霊になり、霊と戦うことになった  作者: しょう
始まりの心音

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第十九話 母親は、幸せになっていい【前編】


 まなちゃんの身体は、僕の霊力を受けて、きらきらと光り輝いていた。

 宙に浮かぶその姿は――まるで、天使みたいだった。


「……まな?……まな、なの?」


 ――霊力を媒介に、人と霊がつながった瞬間だった。

 

 お母さんが、震える足取りで、まなちゃんへ歩み寄った。

 まなちゃんも迷いなく、お母さんの方へと駆け出す。


「ママー!」


 まなちゃんがお母さんの胸に飛び込んだ。

 お母さんは力いっぱい、まなちゃんを抱きしめ返す。


 その光景を、少し離れた場所から、僕らは息を止めて見守っていた。


「……なんとか間に合ったね」


 光流くんが、額の汗を拭う。

 

 そうか。

 僕たちが流した霊力を通して、まなちゃんとお母さんは、ちゃんと“繋がった”んだ。

 

 光流くんは、力ずくで止めるより――まなちゃんの声が、届く方を選んだ。

 ……それは賭けであり、計算でもあったのかもしれない。


「ママ……ごめんなさい」


 まなちゃんが顔を上げ、まっすぐにお母さんの目を見る。


「まな、死んじゃった。ごめんね、ママ」


「どうして……まなが謝るの?」


 お母さんの声が、かすれる。

 

「悪いのは、ママだよ。ママが……まなのこと、丈夫な身体に産んであげられなくて……」


 大粒の涙が、ぽろぽろとまなちゃんの頬に落ちた。


「ううん」


 まなちゃんは涙を浮かべながら、それでも、笑った。


「まなね、知ってるよ。ほんとは六さいまで、生きられなかったって」


「……」


 お母さんは何も言わず、ただ、まなちゃんの言葉を受け止めていた。


「でもね、ママとパパが、いっぱいがんばってくれたから、まな、たくさん生きられたんだって。ありがとう」


「まな……」


「ママとパパといっしょだったから、まな、とっても幸せだった」


 その言葉と一緒に、まなちゃんの輪郭が、いっそう強く輝き出す。

 

 ――僕の霊力じゃない。

 これは、成仏の光だ。


「だからね、ママ」


 まなちゃんは、やさしく、でもはっきりと続けた。


「これからはママも、幸せになって。ママが笑ってないと、まな、安心してお空にいけないよ」


「……まな。それを、言いにきてくれたの?」


「うん!」


 まなちゃんは、迷いなく頷く。


「だいすきなママには、いつも笑っててほしいの!」


 お母さんが、まなちゃんに笑いかけた。その瞬間――


 パァァァ……


 まなちゃんの輪郭が、光の粒へとほどけていく。


「まな!ママも、まなのこと大好きよ!ずっと、ずっと――」


「ママ、元気でね――」


 その声を最後にまなちゃんは、あたたかく、美しい光となって、空へと溶けていった。


 僕たちは、その光が消えるまで、誰ひとり、目を逸さなかった。


「……どうか、仏様のご加護がありますように」


 そっと祈るように手を合わせる奏さんの頬を、一筋の涙が伝っていた。


『――お兄ちゃんたち、まなを、ママに会わせてくれて、ありがとう。ケーキ、美味しかったよ――』


 もう何も見えなくなった空から、まなちゃんの声が確かに届いた。


「あー……俺さ。こういうの、弱いんだよね」


 光流くんが、手で目元を押さえる。


「……」

 

 颯は、何も言わず空を見上げていた。

 涙が溢れないように、必死に堪えているみたいだった。


「うっ……ううっ……」


 麗子さんの嗚咽が響く。


 僕は取り残されたお母さんを、ただまっすぐに見つめていた。

 頬を伝う涙には、構っていられなかった。


 これが、成仏。

 死を受け入れ、あるべき場所へ還ること。

 そして、それを送り出すこと。

 

 なんて、苦しくて、

 なんて、あたたかいんだろう。


 まなちゃんのお母さんが、ゆっくりとこちらを振り返った。


「あなたたちは……もしかして、まなをここへ連れてきてくれたんですか?」


 お母さんの胸には、あたたかな感情が満ちていた。

 

 その感情に触れて、背後から――

 黒い影が、苦しそうに顔を出す。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:1月25日12時

第十九話 母親は、幸せになっていい【後編】

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