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二つの心音――弟が守護霊になり、霊と戦うことになった  作者: しょう
始まりの心音

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第十八話 ずっと、会いたかった人【後編】


 女性は、ゆっくりと階段を降り、アパートの入り口から外へ出てくる。


「ママー!!」


「あっ、まなちゃん……!」


 ――だめだ。

 そう思った時には、もう遅かった。


 まなちゃんは、女性の元へ駆け出していた。


 スッ……。


 女性は、まなちゃんに気づくことなく、その身体を通り抜けていく。

 

 ひどく疲れた顔。覇気のない表情。

 目の下には、くっきりとしたクマ。

 

 まなちゃんのお母さん。

 何か、おかしい……。


 まなちゃんのお母さんは、虚な瞳で一点を見つめながら、まっすぐ歩いて行った。


「ママ……?」


 まなちゃんが、振り返る。

 声は、届いていない。


 その現実を、小さな背中がゆっくりと理解していくのがわかった。


 颯がふわりと降りてきて、まなちゃんのそばに立つ。


「……見えてねぇんだって」


 颯は少しだけ、声音を落とす。


 残酷な言葉。だけど、突き放す感じはなかった。

 すぐに麗子さんがそばに降り立った。


「アンタねェ。子ども相手に、言い方ってもんがあるでしょ」


 麗子さんはまなちゃんの前にしゃがみ込み、優しく視線を合わせた。


「大丈夫よォ、まなちゃん。アタシたちが、ちゃんとなんとかしてあげるから」


 その表情はまるで……母親のようだった。

 

 僕たちも、まなちゃんの元へと駆け寄ろうとした。

 そして――まなちゃんのお母さんとすれ違った、その瞬間。


 ゾワッ!


 背筋を、冷たいものが這い上がった。

 驚いて振り返る。

 この不穏な気配は……。


 ――まなちゃんのお母さんからだ!


「柊、まなちゃん頼む!お母さんの方、やばい!」


 光流くんの声が鋭くなる。


「……取り憑かれています!感情が蝕まれてる!」


 奏さんも、その異常に気づいたらしい。

 二人は即座に踵を返し、お母さんの後を追う。


「霊害よォ!」


 麗子さんも、お母さんの方へと走りながら叫んだ。

 

「普通は取り憑かないの!

 人のポジティブな感情は、霊害にとって“毒”だから!」


 麗子さんの言葉に、嫌な予感が確信へと変わる。


 お母さんは足取りを止めず、ずんずんと進んでいく。

 その先にあったのは――線路。


 カンカンカンカン。


 踏切が、耳を裂くような音を立てて降りる。


「でもねェ!」


 麗子さんの、切羽詰まった声が響く。


「ポジティブな感情を、全部無くした人間は、別なのよォ!!」


 お母さんは、踏切を押しのけるようにして、線路の中へ足を踏み入れようとしていた。


「柊!まなちゃんに、霊力流して!!」


 光流くんが叫ぶと同時に、指先から青白い光を放つ。

 その矛先は――まなちゃんのお母さん。


 ほぼ同時に、麗子さんの手からも凄まじい光が走った。

 その光が、まなちゃんのお母さんを明るく照らす。


「そのまま死んだら、アンタもあの子も、アタシと同じことになるわよォ!!」


 僕は言われるがままに、まなちゃんに霊力を流した。

 ――颯以外の霊に霊力を流すのは、初めてだった。


 カンカンカンカン!


 赤い電車が、踏切へと迫ってくる。


「危ねぇ!!」


 颯の叫び声が空気を裂いた――その時。


「ママーーー!!」


 まなちゃんの声が、響いた。

 

 鮮明に。

 力強く。


 それは、

 お母さんの耳にもはっきりと、届いていた。


「……!? まな!?」


 お母さんがはっとして足を止め、振り返る。


 ガタンゴトン、ガタンゴトン――!


 次の瞬間、

 お母さんの目の前を、電車が轟音を立てて通り過ぎて行った。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:1月24日15時

第十九話 母親は、幸せになっていい【前編】

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