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二つの心音――弟が守護霊になり、霊と戦うことになった  作者: しょう
始まりの心音

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第十四話 背後から来るもの【後編】


 霊害が消えた後も、しばらくの間、誰も動けずにいた。

 

 僕らは、光の粒となった霊害が、夕焼け空に溶けていくのを静かに見届ける。


「お疲れお疲れー!」

 

 光流くんが、ぱあっと表情を明るくして振り返った。

 そのまま、ぴょんぴょん跳ねるように僕のところへ駆け寄ってくる。


「お、お疲れさま……!」


 そう返すと、光流くんはガバッと僕の肩に腕を回した。


「どう〜!?俺ら、なかなかやるでしょ〜!?」


「う、うん……!」


「霊力で守護霊を強化して戦うスタイル……霧島家にはないものです。とても勉強になりました」


「麗子って元プロレスラーなんか?」


「さあ、どうかしらねェ」


 そんなやり取りをしていると――


 ブゥーン。


 シルバーの車が一台、堤防沿いの進入路から河川敷へと入ってきた。

 低いエンジン音。僕たちは一斉にそちらへ視線を向ける。


「……何でしょうか」


 奏さんが、小さく呟いた。

 車は僕たちの目の前で停車し、中から一人の男性が降りてくる。


「……どうやら、すでに浄化は済んでいるようだね」


 そう言って現れたのは、グレーのスーツに身を包んだ、背の高い男性だった。


 年の頃は四十代前半だろうか。落ち着いた雰囲気と、鋭い眼差しが印象的だ。


東雲しののめ警部!」


 斎賀先生が、その名を呼んだ。


「おつおつー!」


 光流くんが、いつもの調子で手を振る。

 斎賀先生の警察の知り合いとは――どうやら、この人らしい。僕は慌てて、一歩前に出て頭を下げた。


 東雲警部は、こちらへと歩み寄ってくる。


「被害者はゼロかな?迅速な対応をありがとう。……さすがだね、光流くん」


 そう言う東雲警部の背後から――


「わん!」


 犬の霊が顔を出した。


「豆柴……?」


 僕は驚いて目を見開く。


「か、可愛い……!」


 思わず本音を漏らす奏さん。

 警部の足元には、豆柴の霊がちょこんと座り、ぶんぶんと尻尾を振っている。


「失礼。私の守護霊の、“えだまめ”です」


「えだまめぇ!?名前か、それ!?」


 颯は腕を組み、しかめ面でえだまめを見下ろす。


「ヴヴー!」


 颯の異質さに反応したのか――えだまめが低く唸り声を上げた。


「……枝豆、良い名前ですねぇ」


 斎賀先生は、完全につまみの名前に引っ張られていた。


「なるほど……“東雲”。思い出しました」


 奏さんが、ぽんっと手を叩く。

 

「久世家の分家で、獣霊と契約する一族ですね」


「いかにも。君は……霧島家の子か」


 東雲警部が、ちらりと奏さんを見て続ける。


「よく知っているね」


「ですが……守護霊が豆柴とは、驚きました」


「五年前」


 東雲警部の表情が、一瞬だけ曇った。


「前の守護霊を、息子に譲ったからね」


 ――守護霊を、譲る?


「そんなこと、できるのかよ?」


 僕の代わりに、颯が問いかけた。


「契約は一度きり。破棄した後の再契約はできないわァ」


「でも〜、別の相手とだったら、新しく契約を結ぶことはできるんだよね!」


 麗子さんと光流くんが、言葉を継ぐ。


「そうやって、先祖代々、同じ霊を引き継いできたのが、東雲家なんですよ」


 斎賀先生の説明に、東雲警部は静かに頷いた。


「ところで……君が、白瀬柊くんかな?」


「は、はい!」


 突然名前を呼ばれ、声が上ずってしまった。


「そちらが、半霊の白瀬颯くんだね。斎賀先生から、大体話は聞いている」


 東雲警部は、颯にも視線を向ける。


「大変な目に遭ったね」


「あ、えっと……はい」


 何と返せば良いか分からず、僕は言葉を詰まらせた。

 横にいる颯をちらりと見ると、颯は相変わらず、眉を顰めたままだった。


「君たちが元に戻る方法については、こちらでも何か手がかりが見つかれば、必ず報告しよう」


「……!ありがとうございます!」


 僕はまた、東雲警部に頭を下げた。

 警察の人が、ここまで踏み込んで協力してくれるなんて。それが、素直に嬉しい。


「息子にも、君たちのことは話しておくよ。きっと、力になれるはずだ」


「東雲警部の息子さんは、皇陽こうよう高校の三年生なんです」


 斎賀先生が、僕たちに小声で教えてくれる。


「皇陽!?奏の前の学校より偏差値高ぇだろ!?」


 颯が、思わず声を上げた。

 

 皇陽高校。

 県内でも超トップクラスの進学校だ。

 

 ……祓い師って、頭の良い人が多いのかな。


「それと、光流くん。今日の功績もデータベースに載せておくよ。引き続き、協力を頼むね」


「あざっす!」


 光流くんが、ぴしっと敬礼する。


「はぁ?データベースって何だよ?」


 颯の疑問に、奏さんが答えた。


「祓い師や見習いの功績を記録した、専門のデータベースがあるんです。

 名家の後ろ盾がない祓い師ほど、実績がないと依頼が回ってきませんからね」


 奏さんは、光流くんに視線を向けて続ける。


「だから、その人がどんな霊害を、どれだけ処理してきたか。

 どんな評価を受けているか――

 そういった情報を、依頼主や警察が確認するためのものですね」


「なるほど……」

 

 僕は、納得して頷いた。


「ってわけで〜、見習いのうちから功績を積んどくのは、めちゃくちゃ大事ってこと!俺は将来、祓い師を本業にするつもりはないけどさ〜」


 光流くんは指で丸を作る。お金のハンドサインだ。


「副業でも、儲かる方が良いでしょ?」


 チャリン、とお金の音がした……気がした。


「さて、私はそろそろ仕事に戻るよ。斎賀先生から聞いていると思うが――最近、この地域での霊害の発生率は異常だ。偶然にしては、発生の“間隔”が揃いすぎている」


 東雲警部は、低い声で続ける。


「……何か、人的な力が絡んでいる可能性もある」


「人的な……?」


 思わず、その言葉を繰り返していた。

 霊害の発生に、人が関わっているということか?

 誰が、何のために――?


「世の中にはね」


 斎賀先生が、メガネをくいっと押し上げる。


「霊の力を、“良くない方向”に利用しようとする人間もいるんです」


 妙に含みのある言い方だった。

 夕陽が川の水面に反射し、逆光に紛れて先生の表情が読み取れない。

 

「今後、君たちの力を借りる場面も増えるだろう。わかったことは、また共有しよう」


 東雲警部はそう言い残し、踵を返した。


「では」


 ブゥーンと、エンジン音が響く。シルバーの車が堤防を上り、やがて闇に溶けるように消えて行った。

 

 会話をしているうちに夕陽は落ち、気づけば、空はすっかり暗くなっていた。


 その暗闇の中で、

 僕の指先だけが、微かに熱を帯びていた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:1月18日12時

第十五話 合図

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