第十二話 届かない手、それでも伸ばす【後編】
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Side:颯
「はぁ、はぁ……」
何度目かも分からない攻撃の後、俺は荒く息を吐いた。
拳も、蹴りも、すべてが麗子には届かず、そのたびにカウンターを叩き込まれた。
息が上がる俺とは対照的に、麗子は余裕そのものだ。
「当たるどころか、かすってすらないわよォ〜?アタシ、退屈で欠伸が出ちゃーう」
「うるせぇ……クソが……!」
「口だけは一丁前ねェ」
俺は拳を構え、真正面から踏み込む。
「オラァ!!!」
力任せに右から拳を振り抜く。だが、麗子は逃げもしなければ、正面から受け止めもしない。
パシッ!
――流された!!
俺の拳は、手首を軽く払われただけで軌道をずらされる。
「クッソ!!」
続けざまに拳と蹴りを叩き込む。
だが、すべて見切られ、当たる直前でいなされた。
「力任せに来たって、アタシには当たらないわ」
――来る!左下!
低い位置から、鋭い気配。
後ろに一歩、跳ねるように避けた……はずだった。
だが、次の瞬間、目の前に麗子がいた。
反射的にしゃがみ込む。
直後、頭上にふっと空気の圧が走った。
さっきと同じ動き――踵落としだ!
「させねぇよ!!」
俺は右へ飛ぶように身体をずらした。
しかし。
「甘いのよォ」
ドゴォ!!
右側脇腹に、重い衝撃。
腹の奥まで抉られるような一撃が刺さる。
「――ぐはっ!!」
踵落としは……
フェイントかよっ!?
俺は地面に崩れ落ち、歯を食いしばる。
……次こそ……!
俺はもう一度、地面を蹴って麗子の正面に向かって走った。
「また正面。学習しない子ねェ」
右拳を振り上げる。
――また、さっきと同じ“入り”で。
「あのねェ、アンタさっきと同じことしてんの、わかってる?」
そして、飛び上がり、右拳を高く掲げた。
さっきと同じように。
麗子が、それを流そうと構えた、瞬間。
「……同じじゃねぇよ」
頭使えって、言ったのはお前だろ。
俺は、フッと拳の力を抜いた。
「!?」
右手はフェイント。
さっき、お前がやったやつだ。
「オラァァァ!!!」
麗子の脇腹をめがけて、下から思いきり左手を突き上げた。
確かに、捉えた。
「しまったわァ!」
いける!!
――スカッ!
「……は?」
手応えが、ない。
左手は麗子をすり抜け、身体だけが前に流れる。
バランスを崩し、俺はよろけた。
慌てて自分の腕を見る。
……透けてやがる。
「……霊力切れ、かよ……」
河川の向こう側から、光流の声が飛んでくる。
「おーい!颯〜!そろそろ霊力切れたでしょー?」
「……タイミング完璧すぎだろ」
――『量を瞬時に計算して、正確に出力する』
光流の声が、さっきの麗子の話を裏付けていた。
「残念だったわねェ。さ、戻りましょ。霊力がないアンタは……空気と同じだからねェ」
「言い方!!」
「結局、アタシに当てることはできなかったわねェ。……でも」
麗子は、ニヤリと笑った。
「さっきの一撃は、悪くなかったわよォ」
「……当たんなきゃ、意味ねぇだろ」
悔しさを噛み殺しながら、俺は拳を握り締めた。
――次は、必ず。
俺の力で、捉えてやる。
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※次回更新:1月16日7時
第十三話 初出勤【前編】




