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二つの心音――弟が守護霊になり、霊と戦うことになった  作者: しょう
始まりの心音

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第十二話 届かない手、それでも伸ばす【後編】


 ***


 Side:颯


「はぁ、はぁ……」


 何度目かも分からない攻撃の後、俺は荒く息を吐いた。


 拳も、蹴りも、すべてが麗子には届かず、そのたびにカウンターを叩き込まれた。


 息が上がる俺とは対照的に、麗子は余裕そのものだ。


「当たるどころか、かすってすらないわよォ〜?アタシ、退屈で欠伸が出ちゃーう」


「うるせぇ……クソが……!」


「口だけは一丁前ねェ」


 俺は拳を構え、真正面から踏み込む。


「オラァ!!!」


 力任せに右から拳を振り抜く。だが、麗子は逃げもしなければ、正面から受け止めもしない。


 パシッ!


 ――流された!!


 俺の拳は、手首を軽く払われただけで軌道をずらされる。


「クッソ!!」


 続けざまに拳と蹴りを叩き込む。

 だが、すべて見切られ、当たる直前でいなされた。


「力任せに来たって、アタシには当たらないわ」


 ――来る!左下!


 低い位置から、鋭い気配。

 後ろに一歩、跳ねるように避けた……はずだった。

 だが、次の瞬間、目の前に麗子がいた。

 

 反射的にしゃがみ込む。

 直後、頭上にふっと空気の圧が走った。


 さっきと同じ動き――踵落としだ!


「させねぇよ!!」


 俺は右へ飛ぶように身体をずらした。

 しかし。


「甘いのよォ」


 ドゴォ!!


 右側脇腹に、重い衝撃。

 腹の奥まで抉られるような一撃が刺さる。


「――ぐはっ!!」


 踵落としは……

 フェイントかよっ!?


 俺は地面に崩れ落ち、歯を食いしばる。


 ……次こそ……!


 俺はもう一度、地面を蹴って麗子の正面に向かって走った。


「また正面。学習しない子ねェ」


 右拳を振り上げる。

 ――また、さっきと同じ“入り”で。


「あのねェ、アンタさっきと同じことしてんの、わかってる?」


 そして、飛び上がり、右拳を高く掲げた。

 さっきと同じように。

 

 麗子が、それを流そうと構えた、瞬間。


「……同じじゃねぇよ」


 頭使えって、言ったのはお前だろ。

 

 俺は、フッと拳の力を抜いた。


「!?」


 右手はフェイント。

 さっき、お前がやったやつだ。


「オラァァァ!!!」


 麗子の脇腹をめがけて、下から思いきり左手を突き上げた。


 確かに、捉えた。


「しまったわァ!」


 いける!!


 ――スカッ!


「……は?」


 手応えが、ない。


 左手は麗子をすり抜け、身体だけが前に流れる。

 バランスを崩し、俺はよろけた。


 慌てて自分の腕を見る。

 

 ……透けてやがる。


「……霊力切れ、かよ……」

 

 河川の向こう側から、光流の声が飛んでくる。


「おーい!颯〜!そろそろ霊力切れたでしょー?」


「……タイミング完璧すぎだろ」


 ――『量を瞬時に計算して、正確に出力する』

 光流の声が、さっきの麗子の話を裏付けていた。


「残念だったわねェ。さ、戻りましょ。霊力がないアンタは……空気と同じだからねェ」


「言い方!!」


「結局、アタシに当てることはできなかったわねェ。……でも」


 麗子は、ニヤリと笑った。


「さっきの一撃は、悪くなかったわよォ」


「……当たんなきゃ、意味ねぇだろ」


 悔しさを噛み殺しながら、俺は拳を握り締めた。


 ――次は、必ず。

 俺の力で、捉えてやる。


 ***

 

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:1月16日7時

第十三話 初出勤【前編】

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