第十二話 届かない手、それでも伸ばす【前編】
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Side:柊
――僕の力で、颯に触れられるかもしれない。
その可能性に気づいた途端、心臓が早鐘を打った。
「じゃあ次は、霊力を付与する練習しよっかー!」
光流くんが指先に青白い光を灯したまま告げる。
どうやら、霊力を“出す”ところまではクリアしたらしく、次の段階に進むらしい。
「ふよ……?付与、する……?」
僕は首を傾げた。
「じゃあ奏ちゃん。お手本どーぞ!」
「はい」
光流くんが小石を拾って、ぽいっと奏さんに投げる。
奏さんはそれを受け取ると、すっと指先をかざした。
ぽうっと、小石が青白い光を纏う。
「あ!奏さんがお札でやってるやつ……!」
「ええ。そもそも霧島家のお札には、初めからある程度の霊力が込められているんですけどね」
「そうなんだ……!」
「霊力を“付与”すると、物が持つ霊力をさらに高められるんだよね!」
光流くんは、ぴんっと人差し指を立てる。
「じゃあ奏ちゃん、お札一枚借りていい?」
「? 構いませんが……?」
奏さんがブレザーの内ポケットからお札を一枚取り出した。
光流くんはそれを受け取って、小石の横に並べる。そして、両手から同時に霊力を流し込んだ。
小石は、ほわりと淡い光を、お札は、ごうごうと燃えるような光を纏った。
「俺ね、今、この二つに“同じ量”だけ霊力を付与したの」
僕は二つの光を見て、気づいたことを口にした。
「……元々の霊力が強い方が、より強くなるってこと?」
「正解!元々の霊力が強いほど、付与した時の伸び幅もデカいの!これは霊も同じね!」
――ということは。
僕は、奏さんと顔を見合わせた。
「颯くんは……霊力が、ゼロですからね……」
光流くんが肩をすくめて言う。
「……共霊した方が、手っ取り早く強そうだよねー!」
「そもそも、颯くんは霊力がないのに……共霊時に、柊くんの霊力が爆発的に跳ね上がるのは、どうしてなんでしょう?」
奏さんの問いは、僕自身も抱いていた疑問だった。
「さぁねー?俺も、共霊のことは正直よくわかんないし!共霊が、ただの霊力の足し算じゃないってことは、確かでしょー?」
光流くんは軽くそう言って――
一瞬、僕の方をじっと見た。
「あるいは――」
「な、なに……?」
「……いや!今はいいや!」
ぱあっと、いつもの笑顔に戻る光流くん。
けれど、僕はすっきりしなかった。
「でもさ、柊と颯は、まだ意図的に共霊できないんでしょ?だったら、颯に霊力を付与する練習もしといて損はないと思うよー?
霊力ゼロの颯は、ただの空気だけど、霊力少しある颯なら、まだ役立ちそうじゃーん!」
颯、“空気”って言われてる……。
僕には笑えなかった。
「……そうですね」
奏さんが頷く。
「共霊以外の戦い方を身につけておくことも、良い判断だと思います」
“共霊以外の戦い方”。
それができるようになれば、もう、危険を犯す必要はない。
僕は、ごくりと喉を鳴らした。
「まあ、颯は置いといて――
柊が、奏ちゃんみたいに物に霊力を付与して戦うのもアリだと思うけど?柊的には、そのへんどう?」
「僕は……」
選択肢は決まっていた。
「颯に、霊力を付与したい」
「そう言うと思ったー!愛〜!」
光流くんが両手で指ハートを作る。さらに、霊力そのものをハート型に出力して、その指先に灯した。
「光流くん……器用ですね」
奏さんが素直に感心する。
「まあ、戦い方次第で、霊力が弱くても強い敵を祓うことはできるよ!要は、こっちの霊力を削られなきゃいいわけだし!そのへんは、今ちょうど麗子が颯に叩き込んでるんじゃーん?」
――そうだ。
颯も今、麗子さんと特訓中だった。
僕は思い出したように、河川の反対側へと視線を向ける。
ちょうどその時、颯の身体が、麗子さんの拳一発で吹き飛ばされていた。
「あっ、颯!」
思わず声が漏れる。
背中に、ひやりと冷たいものが走った。
対照的に、光流くんはケラケラと笑っている。
「あっち、派手にやってんね〜!」
「ど、どうしよう……奏さん!颯が……!」
「柊くん。落ち着いてください」
奏さんが、落ち着いた声で言う。
「颯くんは霊力ゼロですから。痛みはあるでしょうが……“本体”には届きません」
「そ、そうなの?」
それを聞いて、少しだけ体の力が抜けた。
「そうそう。霊力っていうのはね〜……」
光流くんが、軽い調子で霊力についての説明を始める。
後から知った話だけど――
どうやら同じ内容を、颯も今まさに、麗子さんから聞かされていたらしい。
「……ってわけで、早速、霊力付与の練習、してみよーう!」
「よ、よし!」
「柊くん、どうぞ」
奏さんが、僕に小石を手渡した。
僕は小石に手をかざす。
行け……行け……
霊力……届け……
「うっ……うう……うーん……」
「ねえ柊、また詰まってるよ。力みすぎ」
「光流くん……その例えはやめてくださいって、さっきも言いましたよ」
「ごめんごめん!でもほんと、力抜いて!
付与も出力とほぼ同じだから!リラックス〜。流す感じ〜」
そう言って、光流くんは両手をひらひらと揺らし始めた。まるで波をなぞるみたいな、不思議な動きだ。
「はい!奏ちゃんも!これやって!」
「えっ、私もですか!?」
「早く早く!」
「り、リラックス〜……」
戸惑いながらも、奏さんが光流くんの真似をする。
ぎこちない動きで、両手をふわふわと揺らし始めた。
――気づけば。
僕を囲んで、二人が謎の動きをしていた。
完全に、怪しい儀式だ。
「あ!見てください!光が!」
奏さんが動きを止めて、小石を指差す。
僕のかざした手から淡い光が流れ出す。
小石が、ほわっと光を帯びた。
……え。
儀式、効いた?
「おお!できてるできてる!めっちゃ弱いけど!」
「や、やった……!」
「んじゃ、そろそろ颯も霊力尽きる頃だろうし、今度は颯に付与するの、やってみよーぜ!」
そう言って、光流くんは河川の反対側を向いた。
「おーい!颯〜!そろそろ霊力切れたでしょー?」
向こう岸で、颯の身体が薄れていく。
まるで、タイムリミットを告げるみたいに。
――次は、共霊じゃない。
僕の力で、君に触れてみせる。
読んでくださってありがとうございます。
次回更新:1月15日21時
第十二話 届かない手、それでも伸ばす【後編】




