表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になり、霊と戦うことになった  作者: しょう
始まりの心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/21

第十一話 隣に立つために

※今回は少し長めですが、颯視点の大事な回です。

 

 ***


 Side:颯


 ――柊たちが向こう岸で、霊力操作の練習を始めた頃。

 俺は手前の河川敷で、麗子と向き合っていた。


「アンタたちの距離縛り的に、この辺りが限界かしら」


「たぶんな」


 俺は、向こう岸にいる柊に目をやった。


 ――あれ?

 離れられる距離、ちょっと伸びてねぇか?


 気のせいだ。今は考えるな。


 俺は視線を戻す。

 

 それにしても――麗子。

 改めて対峙すると、迫力がスゲェ。

 

 縦にも横にも、でかい。

 存在そのものが、規格外だ。


「どうかしら?霊力を手に入れた気分は」


「……触れること以外、あんま変わんねェな。ちょっとあったけぇ感じがするくらいか?」


 肩をぐるぐる回しながら答えると、麗子は小さく頷いた。


「それで十分よォ。霊力っていうのはね――生命力そのものなの」


 ……ああ、だからか。

 体の奥に、温もりを感じるのは。


「アタシたち霊は、霊力の塊だからね」

 

「それ、前にメガネも言ってたな」


「アンタ、先生のことメガネ呼びで固定すんの、やめなさいよォ……」


 麗子は軽くツッコミを入れた後、真剣な表情になって続けた。


「霊力は、人間にとっては、体力や気力みたいなもんよ。使えば使う分だけ減る。でも、時間が経てば回復するわ。寝たり、食べたりすることで、少しずつ戻っていくの」


「……使い切ったらどうなるんだ?」

 

「人間の場合は、肉体が無事なら問題ない。逆に霊力が残ってても――肉体がやられたら終わりよ」


 “終わり”。

 それは、人間にとっての死を意味するのだろう。

 

 冷えた川風が当たって、鳥肌がたった。


「……霊は?」


 麗子は、少しだけ声を低くする。


「霊力が尽きれば、存在そのものが消えるわ」


 俺は、息を呑んだ。


「……消える?」


「ええ。消える。成仏とも、また違うわ。

 アンタたちが祓ってきた霊害、覚えてるでしょ?」


 赤い車の霊害。千手観音菩薩像の霊害。

 どちらも最後は、跡形もなく消えた。


「じゃあ……共霊はどうなんだよ?」


 麗子は、少し考えるように顎に手を当てた。


「正直、共霊はよくわからないわァ。ただ、霊が肉体を得ている状態なわけだから、人間と同じ扱いになるはずよ」


 人間と同じ、か。

 柊の中で感じた、心臓の脈動や血液の流れを思い出す。


「肉体が無事なら、霊力が尽きても、人間も霊も消えないんじゃないかしら。ただし――」


 麗子は、不敵な笑みを浮かべる。


「共霊で増幅した霊力が空になるほど戦えば……肉体の方が先に、ボロボロでしょうけどねェ」


 ……笑えねぇ。

 

「それから、もう一つ大事なこと」


 麗子は足元の小石を拾い上げた。


「霊には、霊力のこもってない攻撃は当たらない。銃も刃物も、アタシたちには効かないわ」


 その石が、青白く光った。


「――ただし、こうすれば別」


 ガンッ!!


 麗子が投げた石が、見事、俺の額に命中した。


「いってぇ!!急に何すんだコラ!!」


 額を押さえて叫ぶ。


「こうやって霊力を付与すれば、物を介しても攻撃は通るの。武器を使う敵も、当然いるってことよォ」


「おい、まず謝れ」


 麗子は、俺のツッコミをスルーして続ける。


「……で、アンタ自身の話ね」


 腕を組み、真っ直ぐ俺を見た。


「半霊のアンタは、そもそも霊力を持っていない。何にも干渉できない」


「……だよなぁ」


「だから最弱。でも――」


 少しの沈黙。


「同時に、最強でもあるわ」


「は?」


「霊も、人も、アンタに攻撃を当てることができない」


 確かに。俺は何も、傷ついていない。

 

 でも――


「……それじゃ何も、守れねぇだろ」


 ぽつりと、本音が漏れた。


「……俺は、ただ、そこにいるだけ」


 麗子は、否定しなかった。

 

「だから今のアンタは、光流から霊力を付与されている状態ねェ。その霊力が尽きれば、アンタまた薄くなって触れられなくなるわァ」


 俺は、じっと両手を見つめた。


「……借り物の力、か」


「ええ、でもね」


 麗子の声が、少し柔らかくなる。

 

「力を借りることは、悪いことじゃないわよォ」


 その言葉は、妙に説得力があった。


「……光流の霊力操作はね、とても繊細なの。

 光流の霊力をMAX100とするなら、あの子はコンマゼロイチ単位で出力を調整できる」


「コンマゼロイチ?それってすげぇの?」


 正直、よくわからねぇ。

 ただ、やべぇほど細かい、ってことだけは伝わってきた。


 俺の問いに、麗子の眉がピクリと動く。


「“すごい”なんて言葉じゃ足りないわァ。普通は、一生かかってもできないことよォ」


 一拍、間を置いて、麗子は続ける。

 

「しかもね、あの子は“出す量”を見てるだけじゃない。

 時間で戻る分、

 自分が使う分、

 アタシに流す分――

 それを全部まとめて、計算してる」


「同時に?」


「そう。同時に、正確に、ねェ」


 あのフザけた顔の下でそんなことを考えているのかと思うと、ゾッとした。


「さっきも、なんとなく付与してたように見えたでしょ?でも実際は、アタシとの訓練に必要な量を、ちゃんと見積もってたのよォ」


「マジか……」


 『こう見えて、光流くんは頭が良いんです』

 脳裏に、斎賀先生の言葉が蘇る。


 あれ、冗談じゃなかったのか……。


 バカと天才は紙一重って言葉。

 まんまアイツじゃねぇか。


「特別な血筋はないけれど……

 それでも、あの子の存在は特別よォ」


 麗子は、ニヤリと口角を上げた。


「特別……」


 霊力操作に長けた光流。

 名家出身の奏。

 選ばれた素質を持つ柊。

 

 みんな特別な存在だ。

 俺だけが、何もない。

 

 空気と同等の、半霊。


 視線を落とし、唇を噛み締めた。

 悔しさが、胸の奥にじわじわと広がっていく。

 

 そんな俺を見て、麗子は、ゆっくりと口を開いた。


「まあ……特別と言えば、アンタもだけどねェ」


「は?」


 顔を上げて麗子を見る。


「共霊する半霊なんて、この世にアンタしかいないわよォ」


 麗子は、向こう岸で訓練を続ける三人へと視線を向けた。


「柊……あの子は、確かに力を持ってるわ。

 でもね、心はとても不安定で、弱い。

 それは、アンタが一番よくわかってるんじゃなァい?」


 確かに柊は、臆病で、怖がりで、優しすぎる。

 いつも一人で背負い込んで、勝手に苦しんでる。


「そんなあの子が、今、変わろうとしてる。

 強くなろうとしてるのは――アンタがいるからでしょォ?」


「俺が……いるから……」


 俺も、思わず柊の方へと目を向けた。

 柊は真剣な顔をして、光流に霊力操作を教わっている。


 少し前まで、あんな顔、見たことなかった。


「決して、罪悪感だけじゃないわ。

 あの子の、アンタを守りたいっていう気持ち、そして、アンタが側にいるという“安心感”」


 麗子は、落ち着いた、しかし力強い声で言った。

 

「それが、あの子に――


 “勇気”を与えているのよ。この世で一番大切な、前に進む力をね。


 あの子が発揮する“強さ”は、紛れもなくアンタの存在によるものよ」


「……ッ!」


 バカだな、アイツ。

 俺が、これまでどんだけ冷たくしてきたか、覚えてねぇのかよ。


 それでも、俺のために、前に進もうとしてる。

 

「……おい麗子」


 ふぅっと、息を吐く。


「お前、戦闘センス、ピカイチなんだってな」


「ええ。自分で言うのもなんだけど、アタシは強いわよォ?」


 麗子が、ふんっと胸を張る。大胸筋が盛り上がった。


 誰かの力を借りたっていい。

 その代わり、俺も誰かの力になればいい。


 俺にも、できることはある。

 だから――。


「教えろよ……俺に」


 一歩、踏み出す。


「その、“戦い方”ってやつ……!」


「もちろん。そのつもりで、ここにいるわ」


 麗子は首に手を添えて、ポキポキと関節を鳴らした。


「さァ――まずはお手並み拝見と行きましょうか。

 アタシに、一発でも食らわせてみなさい」


「望むところだ!!」


 地面を蹴り、麗子に向かって一気に距離を詰める。

 右拳に力を込め、その巨体めがけて振り抜いた。


「オラァ!!」


 視界の端で、大きな影が揺れた。

 ――まるで、“消えた”かのような動き。

 

 次の瞬間、拳は空を切っていた。

 麗子は、ひらりと半歩ずれただけだった。


 すぐさま体をひねり、左足で蹴りを放つ。


「甘いわねェ」


 その蹴りも、ひらりとかわされた。


「速ぇ!」


 俺の左側から、拳が滑り込んできた。


 ドゴッ!!


 咄嗟に左腕で受けるが、勢いを殺しきれず、身体が弾き飛ばされた。


 視界が反転する。青い空が、一瞬だけ見えた。


 ――まずい。

 

 空中で無理やり体を捻り、なんとか着地体勢をとる。

 だが、足が地面に触れるより早く――


 もう目の前に、麗子がいた。


「ふんっ!」


 反射的にしゃがむ。

 頭上を、拳が風を切って通り過ぎた。

 体勢を崩しながらも、俺は左足で足元を狙う。


「……ッ!」


 かすりもしねぇ!!


 麗子は軽く足を上げ、俺の蹴りを――読んだみたいに、踏み越えていた。


 視界が暗くなる。

 直感が、警鐘を鳴らした。


 来る――


 踵落とし!!

 

 避けられねぇ!!


 ――ドガァァァアン!!


「かっ……はっ……」


 背中から、地面に叩きつけられる。

 衝撃が全身を貫き、肺の空気が一気に吐き出される。


 一瞬、呼吸の仕方が分からなくなった。

 

「……動きは、悪くないわねェ」


 視線を上げると、麗子が腕を組み、悠然と俺を見下ろしていた。


「……てめぇ……」


 ゆっくりと立ち上がり、唾を地面に吐き捨てる。


「なんで……そんなデケェ身体で、そんなに速ぇんだよ……」


「あら。身体の大きさと速さは関係ないわよォ」


 麗子は手のひらを上に向け、俺を指さした。


「アンタ、それなりに運動能力はあるわね。動体視力も悪くない。それは、親に感謝しなさい」


 その視線が、鋭くなる。


「ただし――経験が、圧倒的に足りない」


「……」

 

「動きが単純すぎるのよォ。次に何をするか、手に取るようにわかるわァ」


「そりゃそうだろ……」


 喧嘩なんて、ほとんどしたことがない。

 実践経験と言えるものは、柊と共霊した――あの二回だけだ。


「アンタがまずやるべきことは、二つ!」


 麗子が指を折る。


「戦いに慣れること。それから、バリエーション――手数を増やすこと。

 

 それだけで、見違えるほど変わるわ」


 麗子は、ふっと口元を緩めた。どこか楽しそうに。


「アンタも、柊と同じよォ。磨けば、ちゃんと光るものを持ってる」


 そして、はっきりと告げる。


「アンタが動きを磨けば、共霊しなくても、敵を祓えるようになる」


 一瞬の静寂。

 

「柊を――守れるようになるの」


 その一言で、胸の奥に火がついた。


「……なるほどな」


 俺は、ニヤリと口角を上げる。


「とにかく、てめぇと戦いまくれってことだろ!!」


 再び拳を構えた。


「……次は当ててやる」


「ちょっとは頭も使いなさいよォ〜」


 呆れたように、けれど楽しげに麗子が笑う。


「行くぞぉ!」


 ――こうして俺は、

 柊の隣に立つための戦いを、始めた。


 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:1月14日21時

第十二話 届かない手、それでも伸ばす【前編】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ