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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
乱れる心音

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第九十話 鼓動が、聞こえない


 ***


 Side:柊


 どれくらい、歩いただろう。

 薄暗い廊下に、足音だけが鳴る。


「先に行って」


 灰堂が先を譲った。

 鉄の自動ドアが現れる。


 ちらり、と颯を見た。

 颯は、僕を見ない。

 ただ真っ直ぐドアを見つめていた。


 この先に、戒がいる。

 想像したくなかった。


 一歩、踏み出す。


 ウィーン……。


 ドアが開いた。

 真っ先に飛び込んで来たのは、


「戒!?」


 磔にされた、戒。

 僕は目を見開いた。

 

 四肢を金具で固定されている……!


「……あ……あああ……!」


 ガシャン!

 ガシャン!!


 戒が暴れる。

 霊害そっくりの呻き声。


「あれ、人じゃねぇ……!!」


 颯の声に、焦りが滲む。

 

 僕たちが最後に戒を見た時は、あんな風じゃなかった。


「――言うことを聞かなくてね」


 灰堂の声が、スピーカー越しに聞こえた。

 僕と颯は同時に振り返る。


 灰堂の姿がない。


「上よ」


 桃華さんが指をさした先に、覗き窓があった。

 透明なガラス越しに、緑色の光が瞬く。


「……暮羽は、まだコントロールできたんだけどさ」


「暮羽!?暮羽に何をしたの!?」


 桃華さんが叫ぶ。


「やだなぁ。強くしてあげたのに。

 博士に感謝しなくちゃ」


「……外道ね」


 桃華さんは、唇を噛み締めていた。


 ピッ……ピッ……。


 機械が音を立てる。

 壁に設置されたデジタルボードに数値が示された。

 何かを、測っている。

 

「強制共霊システムを使うのは初めてだからね。

 正確に、データを集めないと」


「強制共霊システム……!?」


 だとしたら――


「あの男、共霊してるわ」


 答えたのは、桃華さんだった。


「かなり歪ね。だから“強制共霊”」


「あああ……!!」


 戒が激しく手足を動かす。

 

 あれが、行き着く先なのか?


「自我を失ってるわ。一体、何の霊を捩じ込んだのよ」


 落ち着いた声。だけど、桃華さんの手は震えている。


「桃華嬢なら、理解できるでしょ?」


 灰堂が問う。

 桃華さんは、深いため息を吐いた。


「……霊害ね」


「はぁ!?」


 颯が何か言っている。

 僕にはもう、耳鳴りしか聞こえなかった。


 あの日、僕が……


「ごめん、颯。僕が間違ってたんだ。

 やっぱり、僕が甘かったんだ」


 唇が震える。


「謝ったって、どうしようもなんねぇだろ」


「僕があの時――」


「うっせぇな!!

 終わったこと言うなっつってんだろ!!」


 また、ズレる。


 僕は、戒を見た。

 目が合う。

 

 その瞳が、辛そうに見えた。

 あの奥で、戒の魂が苦しんでいる。


 傷つけないことが、正しいと思った。

 ……本当に?


 目頭が熱くなる。


「ちょっと!!

 あんたたち、共霊するんでしょ!?

 そんなんじゃ、死ぬわよ!?」


「わかってるっつの!!だから今――!」


「あんたの言い方に問題があるのよ!!」


 颯の眉が、わずかに寄る。

 何かを言い返そうとして――飲み込んだように見えた。

 その視線が、揺れた。

 

 誰の鼓動も、聞こえない。

 全員が、バラバラだ。


「始めるよ」


 ガシャン!!


 灰堂の声で、戒の拘束具が外れた。

 戒の霊力が跳ね上がる。


「霊害との適合率は、悪くないね」


 灰堂だけが、この状況を楽しんでいた。


 霊圧で、足元が揺れる。


 戒はもう、駆け出していた。


「柊!!」


 僕を呼ぶ声が聞こえる。

 

 戦わなきゃ。

 共霊、しなくちゃ。


 颯の瞳に映った僕が、揺れる。

 

 隣にあるのに、届かない。

 颯の鼓動が、聞こえない。

 

 ――どうやるんだっけ?


 戒が迫る。もう目の前。

 なのに、君が遠い。


 足が動かない。


「危ねぇ!!」


 視界が、颯の背中で覆われた。


 ドゴォッ!!


 鈍い音。

 颯の輪郭を縁取る青が、赤に塗り潰された。


 颯の身体が、宙を舞う。


「……ッ!颯!!」


 我に返った。

 急いで颯に霊力を注ぐ。


 戒は、次の攻撃を待ってくれない。


「来るわよ!!」


 桃華さんの叫び。


 戒が、拳を振り上げる。

 ――避けられない。


 咄嗟に両腕を交差させた。その時。


 無数の光が、瞬く。


 バチバチバチィッ!!


 焼け焦げる音。


「……あああ……!」


 呻き声。

 赤い霊力が乱れる。

 

 戒の動きが止まった。


「二層持ちって、言ったでしょ」


 桃華さんを、青い霊力が包む。


「燦宮を、甘く見ないで頂ける?」

 

 手元のコンパクトの中、幾つもの宝石が煌めいていた。


「足止めにしかならないわ。――早く」


 戒が目を押さえて、もがく。

 目尻に赤い血が見えた。


「バカ!早くしろ!」

 

 ――わかってる。

 

 でも、思い出せない。

 どうやって、魂を重ねた?


 耳鳴りが大きくなる。


「あ……ああ……」


 戒は体勢を立て直した。

 赤が勢いを増す。

 向かう先は――桃華さん。


「……ッ!!」


 バチィン!!


 桃華さんに投げられた宝石は、戒に弾かれた。


「……さすがに、二度目はないわね」


 桃華さんが身体を屈めた。


「……ッ!桃華さん!!」


 戒の拳が、桃華さんを狙う。


 颯が駆け出す。

 

 僕は――動けなかった。


 全てが、スローモーションに見えた。


 拳が、振り下ろされる。


 間に合わない。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:3月22日15時

第九十一話 鼓動が、重なる

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