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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
乱れる心音

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第八十八話 削り切る


 暮羽の足が、床を蹴った。

 

 ――速い。


 麗子の視界から、暮羽が消えた。


 シュンッ!!


 右から、一閃。


 ガキィィィン!!


 麗子が腕で受ける。

 青い霊力が火花のように散った。


「……ッ!!」


 衝撃。

 保管庫のカプセルがビリビリと震えた。


 重い。


 以前戦った暮羽とは、質が違う。

 力ではない。密度だ。

 赤い霊力が、刃の内側で脈打っている。


「押されるわよォ……!」


 麗子が歯を食いしばる。

 足元がジリジリと後退していく。


 次の瞬間。


 ゴッ!!


 暮羽の蹴りが、腹部に叩き込まれた。


「がっ……!」


 麗子の巨体が、吹き飛ぶ。

 カプセルに背中から叩きつけられ、ヒビが入った。


 ピシ……ピシ……。


 中の霊害が、内側からカプセルを叩いている。


「麗子!!」


 光流が霊力を注ぐ。

 青白い光を受け、麗子の筋肉が輝いた。


 だが――


 赤い霊力が、再び振り下ろされる。


 ガキィィン!!


 麗子は両腕で受け止めた。

 赤と青が、激しくぶつかり合う。


 バチバチバチィッ!!

 

 空気が焦げる匂いがした。

 赤が、青を侵食していく。

 麗子が押されている……!


「……熱いわァ……!!」


 麗子の腕が、焼け焦げる音を立てる。

 光流が固めた霊力が、硬度を失っていく。


 暮羽の瞳は、虚なままだった。


「……排……除……」


 感情がない。

 ただ、機械のように殺意だけを向けてくる。


 次の瞬間。


 バチィンッ!


 麗子の腕が、弾かれた。


 ザシュッ!!


 振り下ろされた刀。

 麗子の胸に、亀裂が走る。


「っ!!」


 麗子の輪郭がブレる。

 青白い光が飛び散った。


「麗子!!」


 光流がすぐさま霊力を送り込む。


 暮羽は再び刀を構えていた。

 麗子も体勢を立て直す。


「光流……!」


 麗子の声が、震えている。


「どうしたら良いの!?

 真正面からやっても、勝てないわよ!!」

 

 ――考えろ。


 暮羽の動きは、以前と明らかに違う。

 じわじわこちらを削るのではない。

 確実に――仕留めに来ている。


 光流は、つどいの広場での戦いを思い出していた。


 ――『霊力無限湧きとは、腐るほど特訓してきたのよォ!』


 あの時の、麗子の言葉。

 

 そうだ。霊力には“底”がある。

 赤い霊力だって、それは同じ。

 使えば削れる。こちらから削らなくても。


 それに――いつしか奏が言っていた。

 “赤い霊力には、副作用がある”と。


 暮羽は、今日まで赤い霊力を使っていない。

 ましてや、暮羽の身体を動かしている魂は、自我を失っている。

 霊力量を、頭で調整できるはずがない。


「……ッ!!」


 ――コントロールする力なら、俺は負けない。


「麗子!勝たなくて良い!!」


 耐える。相手が消耗するのを待つ。

 あの日、暮羽がやっていた戦い方を真似る。


「耐えろ!赤を削れば、必ず、隙が来る!!」


 耐えられるギリギリの霊力を麗子に注ぐ。

 相手より長く持ち堪えれば良い。

 

 正確な時間配分、供給量調整が――俺にはできる。


「耐久戦ね!!」


「量の調整は俺がする!麗子は気にせず戦って!」


「任せなァ!!」


 三分経った。

 削れたのは、たった十五。

 

 単純計算じゃ間に合わない。

 でも、赤の出力は跳ねている。

 このままなら――実質、あと八分。


 なら、俺がやることは一つ。

 八分以上、麗子を持たせる。


 俺も今、八十五。

 回復込みで、一分間に十が限界値。


 超えれば、先に俺が落ちる。

 だけど、十じゃ押される。

 相手にも出力の波がある。


 なら、こちらも波で返す。

 勝負所だけ、多めに。

 それ以外は、抑える。


 俺は天才じゃない。

 だから、計算で勝つ。


 削り切る。


 必ず。


「あと七分二十秒!」


 暮羽が、駆け出した。


 シュッ!


「ッ!!」


 麗子が、かわす。

 

 麗子は、切り替えていた。

 攻めるのではない、耐える。

 攻撃をかわすこと、流すことに意識を集中させる。


 殴るだけが、勝利ではない。


 また、暮羽が迫る。


 振り下ろされる刃を、半歩ずらす。

 受けない。流す。


 キィン。


 刃の軌道を逸らすだけ。

 青を削らない。


 麗子の足が跳ねる。

 横へ、後ろへ、斜めへ。

 正面からはぶつからない。


 それは瞬く速さで、何度も繰り返される。

 麗子は、暮羽の攻撃パターンを掴んできていた。


「麗子!右、来る!」


「もう見えてんのよォ!!」


 麗子が屈む。

 赤い刃が頭上をかすめた。

 こちらの消費は、最小。


 暮羽の呼吸が、荒くなっていた。


「……はぁ……はぁ……排除……」


 振りが大きくなる。

 霊力の密度が上がる。

 

 だが、軌道が雑だ。


「あと三分三十秒!!」


 光流が叫ぶ。

 麗子は後退し、カプセルの間を縫う。

 床を蹴り、壁を蹴り、跳ぶ。

 近づかれては、離れる。

 ――あの日見た、暮羽のように。


 赤が空中を裂く。

 だが、当たらない。


「はぁ……はぁ……」


 暮羽の肩が上下する。

 赤い霊力が、乱れていた。

 刀の縁が、わずかに波打つ。


「だいぶ削れてるわ!

 慣れないもん使うからよ、暮羽!」


 光流の頭の中で、残り時間が弾き出される。


「……あと、三分」


 ――いける。


 その時。


 ピシ……。


 麗子の背後から、小さな音。

 カプセルの一つが、内側から膨らみ始めた。

 中の黒い影が、暴れている。


 ピシ……ピシピシ……。


 ヒビが、光る。

 一瞬、部屋が静まり返った。

 

 光流は目を見開いた。


「やば……!」


 ガシャァン!!


 割れた。

 

 黒い霊害カプセルから飛び出し、床を這いずる。

 重く、粘りつく霊気が広がった。


 一体なら――まだ計算内だ。


「麗子!暮羽さんに集中して!

 こっちは俺が祓う!」


 光流が、霊害に向かって走る。

 その向こうで、暮羽が笑ったように見えた。


「……排除」


 暮羽が駆け出した。

 

 麗子ではない。カプセルへ。


「!!アンタ、やめなさい!!」


 叫びも虚しく、


 ザンッ!!


 赤い刃が、カプセルを切り裂いた。


 ガシャーン!!

 ガシャーン!!


 カプセルが連続して割れる。

 黒い影が、次々と床へ流れ出た。


「あ……ああ……」


 呻き声。

 部屋の温度が、さらに下がる。


「……あああ……」


 霊害は、赤い霊力に反応して暮羽から離れた。

 まるで……インプットされているみたいに。


 殺意が向いたのは――麗子と、光流。


「まずい!」

 

 この数を祓う分の余力はない。

 それ以前に、霊害とやりあいながら、暮羽の攻撃をかわしきれない。


 盤面が変わった。完全に。


 眩暈がした。

 だが、立ち止まれば終わる。


 ブワッ!!


 霊害が、二人に一斉に襲いかかる。


「光流!霊力ちょうだァい!!」


「くっ……!」


 何パーセント注げば良い!?

 わからない。

 計算が、崩れる。


 光流が掌に霊力を灯した、その時。


「霊奏」


 ベン――ッ!!


 三味線の音が、響いた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:3月20日15時

第八十九話 あいつしか

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