第八十七話 霊害保管庫
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ギュイィィィィィン!!
けたたましいサイレンの中。
光流は、柊と颯が落下した穴を覗き込んでいた。
共霊したはずなのに、戻ってこない。
穴の底には、闇しか見えない。
「柊ー!颯ー!!」
呼びかけるが、返事は来ない。
「……チッ」
狛は、穴を睨みつけた。
「麗子、見て来れる!?」
「行ってくるわ!」
麗子が飛び出そうとした、その時。
「待て!」
狛が叫んだ。
麗子はピタリ、と足を止める。
「馬鹿か!麗子まで行ってどうする!
それに光流、お前は一人じゃ戦えないだろ!」
「そんなことは――!」
光流は、言いかけてやめた。
そう言い切れる自信がなかった。
奥歯を噛み締めた。
狛が早口で続ける。
「福と颯は霊体。アイツらが昇って来ないということは、下にも何かあるんだろう。
俺たちも、信じて進むしかない」
――本当に信じて良いのだろうか。
光流にはさっき、伊吹が柊を引き摺り込んだように見えた。
あの伊吹さんが、裏切るだろうか。
きっと見間違いだ。
……いや。違う。
落ちる瞬間の、あの顔。迷いがなかった。
「どうする!?光流!!」
麗子の顔にも、不安が滲んでいた。
戻る選択肢はない。それだけが、確かだ。
「行こう!柊と颯を信じよう!!」
光流と麗子は、狛の後に続いた。
鉄鋼扉の奥、警告灯が赤く照らす廊下を進む。
サイレンは鳴り止まないのに、誰も現れない。
上昇する心拍数に合わせて、足どりは速くなった。
「……分かれ道か」
丁字路。
二方向から、違う霊力が流れる。
右は多い。左は――強い。
柊ならどっちを選ぶ?いや、紫苑さんなら?
光流の答えより先に、狛が指示を出した。
「光流と麗子は右へ!俺は、左に行く!」
光流は、狛の目を真っ直ぐに見つめた。
確かめるために。
狛は一度も、光流から目を逸さなかった。
だから――賭けることにした。
狛さんは違う、と。
「……はい!」
「無理はするな!
危険だと思ったら、俺の方へ戻って来い!」
「アンタもね、狛。
死ぬんじゃないわよ」
猿置山での一件以降、麗子はずっと、狛のことを気にかけていた。
狛はほんの一瞬、目を丸くした後、眉を下げる。
「……俺の心配をしてくれるとはな。
ありがとう、麗子」
狛と光流が、左右に分かれた。その直後。
ガシャーン!!
「ッ!?」
鉄格子が降りた。
もう、引き返せない。
「行くわよ!光流!」
麗子が光流の前に出る。
引き返せないなら――
「狛さん!!」
地上で会う。そのために進む。
「上で会いましょう!必ず、生きて!!」
光流は、振り返らなかった。
赤い光が瞬く中、廊下を突っ走る。
廊下の先に自動ドアが見えた。
光流が近づくと、誘うように入り口を開ける。
施錠されていない。
罠だとわかっても、行き先はそこしかなかった。
ウィーン。
自動ドアが閉まり、サイレンが遠くなる。
部屋の中は、異様に寒かった。
「……これは……!?」
目を疑うような光景。
巨大なカプセルがいくつも並び、その中に黒い影が蠢く。
影の表面を、人の顔が浮かんでは沈む。
――霊害だ。
「……霊害の保管庫みたいねェ」
麗子がカプセルにそっと手を添える。
その中で霊害が、カプセルの内側を叩いていた。
呻き声を上げながら。
助けを乞うみたいに。
「何の目的で……こんな……」
光流は、部屋の中を見渡した。その時。
ウィーン。
「!!」
正面の自動ドアが動いた。
ドアの隙間から、赤い霊力が覗く。
霊害の呻き声が、一斉に止んだ。
ドアの向こうから現れたのは――。
「……暮羽さん!?」
赤い霊力を纏った、暮羽だった。
以前と明らかにオーラが違う。
それに、“赤”は使わないと言っていたはず。
何かが変わっている。
「魂が、二つある……?」
重ね合わせではない。
無理やり、縛り付けられている。
「暮羽!アンタ、どうしたのよォ!!」
「……あ……ああ……」
暗い瞳。ノイズ混じりの声。
――『もし次会った時、私が私で無くなっていたら、
迷わず切ってください』
あの日。つどいの広場で。
暮羽は、こうなることを予測していたのかもしれない。
「麗子……!あの人は、暮羽さんじゃない」
身体は間違いなく暮羽だ。
だけど、前面に出ているのは違う魂。
これは……共霊の破滅だ。
「……は、い……徐……排除」
暮羽の腰から、ゆっくりと霊刀が抜かれた。
刀が、赤い光を帯びる。
共霊に、赤い霊力。
以前戦った暮羽とは、比べ物にならない霊圧。
一瞬でわかった。
……勝てない。
霊力量を測ってしまう癖が嫌になる。
俺のせいで、麗子も、暮羽さんも、壊してしまうかもしれない。
光流の足が、震えた。
柊なら、迷わない。
紫苑さんなら、もう勝ち筋を見つけてる。
……じゃあ、俺は?
“天才じゃない”から、諦めるのか?
光流は俯きながら、麗子に霊力を流す。
誰の顔も、見れなかった。
勝つ方法を考えろ。
震える足を、無理やり止めた。
カプセルの中の霊害が、
揃って光流の方を向いていた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:3月21日12時
第八十八話 削り切る




