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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
乱れる心音

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第八十七話 霊害保管庫


 ***


 ギュイィィィィィン!!


 けたたましいサイレンの中。

 光流は、柊と颯が落下した穴を覗き込んでいた。


 共霊したはずなのに、戻ってこない。

 穴の底には、闇しか見えない。


「柊ー!颯ー!!」


 呼びかけるが、返事は来ない。


「……チッ」


 狛は、穴を睨みつけた。


「麗子、見て来れる!?」


「行ってくるわ!」


 麗子が飛び出そうとした、その時。


「待て!」


 狛が叫んだ。

 麗子はピタリ、と足を止める。

 

「馬鹿か!麗子まで行ってどうする!

 それに光流、お前は一人じゃ戦えないだろ!」


「そんなことは――!」


 光流は、言いかけてやめた。

 そう言い切れる自信がなかった。

 奥歯を噛み締めた。

 

 狛が早口で続ける。


「福と颯は霊体。アイツらが昇って来ないということは、下にも何かあるんだろう。

 俺たちも、信じて進むしかない」


 ――本当に信じて良いのだろうか。

 光流にはさっき、伊吹が柊を引き摺り込んだように見えた。


 あの伊吹さんが、裏切るだろうか。

 きっと見間違いだ。

 ……いや。違う。

 落ちる瞬間の、あの顔。迷いがなかった。


「どうする!?光流!!」


 麗子の顔にも、不安が滲んでいた。


 戻る選択肢はない。それだけが、確かだ。


「行こう!柊と颯を信じよう!!」


 光流と麗子は、狛の後に続いた。


 鉄鋼扉の奥、警告灯が赤く照らす廊下を進む。

 サイレンは鳴り止まないのに、誰も現れない。


 上昇する心拍数に合わせて、足どりは速くなった。


「……分かれ道か」


 丁字路。

 二方向から、違う霊力が流れる。

 右は多い。左は――強い。


 柊ならどっちを選ぶ?いや、紫苑さんなら?


 光流の答えより先に、狛が指示を出した。


「光流と麗子は右へ!俺は、左に行く!」


 光流は、狛の目を真っ直ぐに見つめた。

 確かめるために。

 狛は一度も、光流から目を逸さなかった。

 

 だから――賭けることにした。

 狛さんは違う、と。


「……はい!」


「無理はするな!

 危険だと思ったら、俺の方へ戻って来い!」


「アンタもね、狛。

 死ぬんじゃないわよ」


 猿置山での一件以降、麗子はずっと、狛のことを気にかけていた。

 狛はほんの一瞬、目を丸くした後、眉を下げる。


「……俺の心配をしてくれるとはな。

 ありがとう、麗子」


 狛と光流が、左右に分かれた。その直後。


 ガシャーン!!


「ッ!?」


 鉄格子が降りた。

 もう、引き返せない。


「行くわよ!光流!」


 麗子が光流の前に出る。

 引き返せないなら――


「狛さん!!」


 地上で会う。そのために進む。


「上で会いましょう!必ず、生きて!!」


 光流は、振り返らなかった。

 赤い光が瞬く中、廊下を突っ走る。


 廊下の先に自動ドアが見えた。

 光流が近づくと、誘うように入り口を開ける。

 施錠されていない。

 罠だとわかっても、行き先はそこしかなかった。


 ウィーン。


 自動ドアが閉まり、サイレンが遠くなる。

 部屋の中は、異様に寒かった。


「……これは……!?」


 目を疑うような光景。

 巨大なカプセルがいくつも並び、その中に黒い影が蠢く。

 影の表面を、人の顔が浮かんでは沈む。

 ――霊害だ。


「……霊害の保管庫みたいねェ」


 麗子がカプセルにそっと手を添える。

 

 その中で霊害が、カプセルの内側を叩いていた。

 呻き声を上げながら。

 助けを乞うみたいに。


「何の目的で……こんな……」


 光流は、部屋の中を見渡した。その時。


 ウィーン。


「!!」


 正面の自動ドアが動いた。

 ドアの隙間から、赤い霊力が覗く。

 霊害の呻き声が、一斉に止んだ。


 ドアの向こうから現れたのは――。


「……暮羽さん!?」


 赤い霊力を纏った、暮羽だった。

 以前と明らかにオーラが違う。

 それに、“赤”は使わないと言っていたはず。


 何かが変わっている。


「魂が、二つある……?」


 重ね合わせではない。

 無理やり、縛り付けられている。


「暮羽!アンタ、どうしたのよォ!!」


「……あ……ああ……」


 暗い瞳。ノイズ混じりの声。


 ――『もし次会った時、私が私で無くなっていたら、

 迷わず切ってください』


 あの日。つどいの広場で。

 暮羽は、こうなることを予測していたのかもしれない。


「麗子……!あの人は、暮羽さんじゃない」


 身体は間違いなく暮羽だ。

 だけど、前面に出ているのは違う魂。

 これは……共霊の破滅だ。


「……は、い……徐……排除」

 

 暮羽の腰から、ゆっくりと霊刀が抜かれた。

 刀が、赤い光を帯びる。


 共霊に、赤い霊力。

 以前戦った暮羽とは、比べ物にならない霊圧。


 一瞬でわかった。


 ……勝てない。


 霊力量を測ってしまう癖が嫌になる。

 俺のせいで、麗子も、暮羽さんも、壊してしまうかもしれない。

 

 光流の足が、震えた。


 柊なら、迷わない。

 紫苑さんなら、もう勝ち筋を見つけてる。


 ……じゃあ、俺は?

 “天才じゃない”から、諦めるのか?


 光流は俯きながら、麗子に霊力を流す。

 誰の顔も、見れなかった。


 勝つ方法を考えろ。

 

 震える足を、無理やり止めた。

 

 カプセルの中の霊害が、

 揃って光流の方を向いていた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:3月21日12時

第八十八話 削り切る

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