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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
乱れる心音

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第八十話 あなた方の中に


 お会計は、伊吹さんがまとめて済ませてくれた。

 ラーメン店でデカ盛りチャレンジの新記録を出し、商店街の商品券を貰ったらしい。

 

「はー、お腹いっぱい!」


「……伊吹さん、ご馳走様です」


「先輩だからね〜!」


 僕が頭を下げると、伊吹さんは得意げに言った。


「じゃ、ボクはこっちだから〜!」


 つどいの広場で、伊吹さんと福くんと別れる。


「テスト終わったら、またみんなで特訓しようね!」


「……はい!」


 伊吹さんは、最後まで笑顔だった。

 二人が地下鉄の駅へ消えていくのを見届けると、颯が口を開いた。


「……麗子のこと、残念だったな。光流」


「あー、それなんだけどさ。

 ハルちゃんって子、麗子の“娘”じゃないっぽい」


 光流くんは目線を逸らし、後頭部を掻きながら言った。


「えっ?」

 

「はぁ?」


 僕と颯の声が重なる。


「さっきさ、気になって、みゅあちゃんが言ってた“掲示板”調べてみたんよ〜。そしたらさ――」


 光流くんがズボンのポケットからスマホを取り出した。

 その時だった。


 ブワァッ!


「!?」


 突風。

 砂埃が舞い、ビニール袋が宙を横切る。

 咄嗟に、僕たちは目を細めた。


 すとん、と誰かが降り立つ音がした。


 目を開くと――。


「……お久しぶりですね」


 黒スーツの女性が立っていた。

 鋭い眼差しで、真っ直ぐに僕たちを捉えている。


 ぞわっと全身に鳥肌が立った。


 女性は、左右を確認する。


「麗子はいないのですね……」


「暮羽さん!」


 光流くんが、女性の名前を呼んだ。


「あ?光流の知り合いか?」


「知り合いっていうか、この間戦った!

 ちょうどここで!」


「はぁ!?」


 颯が顔を顰める。

 戦ったってことは、常夜の……!?

 反射的に、僕は拳を構えていた。


「……戦いに来たわけではありません」


 暮羽さんは姿勢を低くすると、その場に片膝をつく。

 深く、頭を下げた。


「え?」


 僕は、握り拳の力を抜いた。


「あなた方に、お願いがあって来ました」


 震える声。


「お嬢様を……桃華様を助けて下さい」


「桃華様……?」


 聞いたことのない名前だ。

 隣に目をやると、光流くんも首を傾げていた。


「桃華様は今、常夜ノ会に囚われています」


「囚われ……!?」


 まさか……!

 でも、暮羽さんの様子を見るに、冗談ではなさそうだ。


「港区にある……第三研究所に幽閉されています。

 そこに侵入して、桃華様を救って頂きたいのです」


 颯が僕の前に出た。


「常夜の連中が言うことなんて、信じられねぇだろ」


「無理を言っているのはわかります。

 でも、今はもう、あなた方に頼るしか……」


 暮羽さんは、地面に頭をつけた。

 

 ……嘘には、見えなかった。


「こんなこと俺らに頼んじゃって、バレたらどうすんの?」


 光流くんは暮羽さんに歩み寄り、しゃがみ込んだ。

 暮羽さんが顔を上げる。


「私はどうなっても構いません。

 私の命など、いくらでも差し出します」


 曇りのない瞳。

 その目を見て、迷いは消えた。


「……助けます」


「おい、柊!勝手に――」

 

「必ず、救います」


 颯の言葉に被せて言った。

 光流くんがクスッと笑う。


「困ってる女性の頼みは断れないよね〜!

 で、第三研究所ってどこなの?」


 暮羽さんは立ち上がると、ジャケットの内側から折り畳まれた紙切れを取り出した。

 僕は、差し出されたその紙を受け取る。


「このビルの地下に、入り口があります」


 【港区 築港四丁目9-3 築港センタービル】


「協力、心より感謝申し上げます。

 

 それと――どうか内密に動いてください。

 あなた方の中に、


 内通者がいますので」


 “内通者”。


 心音が加速した。

 身体が一気に熱くなる。


「私の立場では、内通者が誰かまではわかりません。

 ですが、おそらく三流派の人間でしょう」


「……まじ?」


 光流くんから、笑顔が消えていた。


「最後に。

 もし次会った時、私が私で無くなっていたら、

 

 ――迷わず、斬ってください。

 

 桃華様を守るために」


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:3月14日15時

第八十一話 割れたグラス

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