表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
乱れる心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/104

第七十八話 ガラスの庭園


 ***

 

 Side:柊

 

 翌週、学校はテスト期間に入った。

 期末テスト三日目、六月の最終日。

 テスト勉強の隙を縫い、僕たちは小須商店街に向かった。

 

 ここに来るのは、あの日以来。

 商店街は、何も変わっていないように見えた。

 けれど、僕の中では何かがずれていた。


「お店、つどいの広場のすぐ近くだね」


 光流くんがスマホのマップを見ながら言う。


 メイドカフェなんて初めて行く。

 僕は、いろんな意味で緊張していた。


 その時。


「あれー!?」


 聞き慣れた甲高い声が、響いた。

 振り返ると。


「伊吹さん!と、福くん!!」


「何してんの〜!?」


 伊吹さんが駆け寄ってくる。

 背後の福くんは……霊力強化された、

 例の“ムキムキ状態”だった。


「伊吹さんこそ、ここで何して――


 って、クサ!!」


 光流くんが口元に手を当てる。

 遅れて、僕と颯のところにも臭いが届いた。


「うっ……ニンニク臭が……」


 咄嗟に鼻をつまむ。


「ごめんごめん!さっきそこのデカ盛りラーメン、ニンニクマシマシで食べてきたとこなの!」


 伊吹さんが看板を指さした。


「今三時だぞ!?何メシだよ!?」


「えっ、おやつだけど」


 当然のように言う伊吹さん。


「お前らは、どこに行くつもりなんだぁ?」


 福くんが尋ねた。


「ここ〜!」


 光流くんは口元を覆ったまま、片手でスマホを見せる。


「Glass Garden!?

 ここ、デカ盛りパフェがあるメイドカフェだよね!?」


 伊吹さんの目が輝く。

 ……さっき、デカ盛り食べてきたばかりですよね?


「おい!ニンニク女と行くのか!?俺は嫌だぞ!!」


「颯はメイドさんたちから見えないから大丈夫だって!

 俺と柊が、“臭いな”って思われるだけ!」


 光流くんがフォローする。

 でも、僕も臭いと思われるのは嫌なんだけどなぁ。


「麗子の娘は見えるかもしんねぇんだろ!?」


「え!麗子ちゃんの娘ちゃんがいるのー!?

 絶対行きたーい!!」


「はっ!しまった!!」


 颯の顔が青ざめる。


「颯、墓穴〜!」


 光流くんは楽しそうだった。


 ……なし崩し的に、僕たちは五人で入店することになった。


「おかえりなさいませ、ご主人様♡」


「……うっ……!?」


 一瞬、メイドさんの苦しそうな声が聞こえた。


「おい!誰か臭ェって思ったやついただろ!?」


「颯、気にすんな〜!」


 光流くんが颯の背中をバシバシ叩く。

 

 僕たちは四人がけのテーブル席に案内された。

 椅子が足りないので、颯は宙に胡座をかく。

 他のお客さんには見えないから、問題ない。


「お水で〜す♡」


 メイドさんがお水を三つ、テーブルに置いた。

 黒髪のツインテール。

 この子は、麗子さんの娘ではなさそうだ。


「ご注文はお決まりですか〜?」


「GGすぺしゃるくださーい!」


 伊吹さんは迷いなく、またデカ盛りを注文した。


「俺これ!星屑(すたーだすと)⭐︎フロート!

 柊は決まってる?」


「え、えっと……!」


 僕は慌ててメニュー表を覗き込む。


 ・魅惑のチェリーソーダ

 ・無垢と背徳のバニララテ

 ・みゅあちゃんの秘密♡


 これ、ドリンクの名前なの?


「すげぇ名前だな」


 颯が眉を寄せた。


「……みゅあちゃんって誰?」


「私でーす♡」


 僕の呟きに、ツインテールのメイドさんが指ハートで答える。


「あ……僕は、月白(げっぱく)ラテで……」


 どんな飲み物かよくわからなかったけれど、

 一番名前を読むのが恥ずかしくないメニューを選んだ。


「かしこまりました〜♡」


 みゅあさんがキッチンへと戻っていく。

 僕は、ほっと息を吐いた。

 注文するだけで、寿命が縮んだ気分だ。


「あの子、いるかな?」


 隣の席で、光流くんが座ったまま背伸びする。

 そうだ、忘れちゃいけない。

 目的は麗子さんの娘さんだ。

 

 僕も、店内を見渡す。


 モノクロ調のクラシカルな店内。

 メイドさんの呪文と、お客さんの笑い声が響く。


 水色の髪の子は……いない?


「お待たせいたしました〜♡

 お先に、星屑⭐︎フロートと月白ラテで〜す!」


 白いマグカップが、僕の前に置かれた。

 甘いミルクの香りが、鼻をかすめる。


「うぇーい!インスタ映え〜!」


 光流くんの頼んだ飲み物は、

 なんていうか……うるさかった。

 

「ねえねえ、みゅあちゃん。

 ここってさ、水色の髪長い子、働いてる?」


 光流くんが尋ねる。


「水色……?あ!ハルちゃんのことですか〜?」


「!」


 みゅあさんは心当たりがあるみたいだ。


「ハルちゃん、ちょうど昨日で辞めちゃったんですよ〜!」


「え……」


 心臓が、強く跳ねた。


「ハルちゃん、ご主人様から嫌がらせされてて〜。

 掲示板でもたくさん悪口書かれて、メンタルやられてたっぽいです〜」


「……そうなんだ〜」


 光流くんの表情が、わずかに曇った。


「ガチ恋の逆恨みだと思いますけどね〜。

 この業界、そういうの多いんで〜」


「連絡先とか、わかんないよね?」


 光流くんの質問に、みゅあさんは指でバツを作った。


「ごめんなさい。そういうのは秘密なんです」


「だよね〜」


 光流くんが肩を落とす。

 

 せっかく手がかりが、見つかったと思ったのに。


「麗子ちゃんの娘ちゃん、どっか行っちゃったの?」


 正面に座る伊吹さんが、ずいっと僕の顔を覗き込んだ。


「そうみたいだね」


「水色の髪の子なんだね〜?……ふーん」


 机の上で、伊吹さんのスマホが震える。

 伊吹さんは、画面を隠すように手でスマホを握った。


 真っ白なドリンクの表面が、

 僕の鼓動に合わせるように、

 小さく揺れていた。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:3月13日21時

第七十九話 甘すぎる選択

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ