第七十七話 暮羽の決意
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暮羽は、ミラと灰堂に呼び出されていた。
“あの方”の姿はない。
「何故、呼ばれたかわかっておるな?」
ミラが暮羽の顎を指で持ち上げる。
「何でしょうか」
「とぼけおって。貴様、命令を忘れたか?」
「覚えておりますが」
ガシャーン!
パイプ椅子が転がった。
「では何故、いつまで経ってもNo.8が戻ってこないのじゃ?」
「……思いの外、強敵でしたので」
「貴様、赤い霊力も使っておらぬじゃろう」
ミラは腕を組み、苛立たしげに足を鳴らした。
「良いじゃないですか、ミラさん」
すっ、と灰堂が前に出た。
「約束を守れないから、こちらも動いたわけだし」
「……どういう意味ですか?」
暮羽の目が、鋭く灰堂を射抜く。
「燦宮桃華を捕らえた」
「!?」
暮羽は灰堂に掴み掛かった。
「貴様!私が協力すれば、桃華様には手を出さないと約束したはずだ!」
「それができてないからでしょ?
それに、これは博士の命令だ」
灰堂は、胸ぐらを掴む暮羽の手を振り払う。
風はないのに、蝋燭の火が揺れた。
「これ、何だと思う?」
灰堂が取り出した――小瓶。
その中で、桃色の霊力が渦をまく。
暮羽が見間違えるはずもなかった。
「……まさか!」
暮羽の顔が青ざめた。
「もう大分抽出してる。
あの子、回復のスピードが早いから良いね」
灰堂はにこりと微笑んだ。
桃華の泣き声が、脳裏をよぎる。
小瓶の中の霊力が濁った。
「壊したくなるほど、美しいのう」
ミラが手を伸ばし、うっとりと小瓶を撫でる。
「……私がNo.8を回収すれば、桃華様を解放して頂けますか?」
暮羽の呼吸が浅くなる。
「いや、もういいよ。No.8は必要ない」
「それ以上の霊が手に入ったからのう!」
ミラの高笑いが、暗い室内に反響した。
「……霧島家から奪ったものか……。
一体何に、使うつもりだ?」
「それを君に説明する必要、あるかな?」
灰堂は暮羽の横を通り過ぎ、出口へと歩き出す。
暮羽は下唇を噛んだ。
「ミラさん。行こう」
「これから、あの封霊石を解放しなくてはならぬからのう。くくっ……」
灰堂は扉に手をかけ、振り返らずに言う。
「暮羽さん。
次の命令には、きっちり従うことだね。
これ以上、燦宮桃華を傷つけたくないなら。
――研究は、すでに始まっている」
蝋燭の火が、消えた。
暗闇の中に、ミラの笑い声だけが残る。
「……狂っている」
拳が壁を打った。
あの桃色は、
穢すための色ではない。
――『暮羽』
私の名を呼ぶ、あの笑顔。
「従ってばかりでは、救えない……!」
血が伝う。
それでも痛みはなかった。
――もう、跪くのはやめだ。
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※次回更新:3月12日21時
第七十八話 ガラスの庭園




