血色のセレモニー開催
「9月22日本日。メイルック帝国の文化祭、血色のセレモニー開催だ」
教壇の前、太陽が宣言する。
「準備はどう?グノリスちゃん」
堕天は天使の輪がルンルンしているように見える。
「あー雛ちゃんたちファイトん!」
まりもは雛たち、右大雛筋、上腕二頭筋を愛でている。
「ぺろぺろーーーん」
きらりはロミの一件があってからは夢中で、異能強化に重力していた。
「さあどこからスナイプしましょうか」
キコウ、段ボールからの視線が痛いです。
「メイルック帝国の文化祭。ジルハル王女とヒンド皇子が民の暮らしを視察し、街は喝采に包まれる。商人たちは屋台を並べ、豪奢な料理が振る舞われる祝祭の一日。我々の任務はただ一つ。傭兵として王女と皇子を護衛し、襲来するグノリスを迎え撃つこと。容赦は不要の戦場祭り、血色のセレモニーの開幕だ」
黒板に広げたメイルック帝国の地図は、大きな羊皮紙に染み、中央には国の心臓とも言える王都メイルックが丸く囲まれ、そこから何本もの街道が四方へ伸びている。王宮を中心に城壁が描かれ、一の環には市場や職人、二の環には貴族の邸やギルド、そして三の環は王都が密集している。
太陽は指で北へと伸びる太い線をなぞった。
「さあ、おさらいだ。王女皇子は北の王都に向かう。王北街道を抜けて、松林の中を抜けてウィンタス峠を越える。西に進めば山脈沿いに鉱山都市ハーゲンがある。さらに北へ行けば王都の王宮に到着する」
類、きらり、堕天、まりも、キコウは真剣だ。
「一に太陽、類、きらり。王北街道から森林へ架けウィンタス峠。市場や職人の屋台周りを偵察し、北の峠ウィンタス峠まで───。二に堕天、まりも、キコウは山脈沿いの鉱山都市ハーゲンから王宮までだ」
太陽、きらり、堕天、まりも、キコウと視線を交わす。
「第零保護科。王女と皇子を護衛し、王都まで送り届ける。グノリスは全駆逐だ」
類がみんなを見て、号令をかける。
「行くぞ、みんな。第零保護科の名の下に」
太陽、きらり、堕天、まりも、キコウが合図する。
「イエス、零」
☆
王北街道から森林へ架けウィンタス峠。市場や職人の屋台周りを偵察し、市民、商人が豪勢な料理でもてなし、敷地にジルハル王女、ヒンド皇子が来ることを心待ちにしていて、舞踊や喝采が起こっている。太陽、類、きらりは平地を歩きながら、ジルハル王女、ヒンド皇子の乗っている馬車を護衛している。
「随分な歓迎だな」
「年に一度のメイルック帝国の祝祭だからね」
きらりは両手に伊勢海老を持っていた。
「ぺろぺろぺろ、ひまじゃん」
「きらり、あんま油断してるとがぶっとやられちゃうよ」
「まあでも、王北街道は無事に通過したな」
「類、見えてないのか」
「何がだ」
「先頭で馬車を切っているやつ、あいつはグノリスだ」
「まじで!きらりも知ってたのか」
両手の伊勢海老をジュルっと舐めている。
「ぺろぺろぺろぺろ、当たり前だろ」
「類は判断能力をもっとあげなきゃだよ」
「まじかよ」
森林からウィンタス峠に入ると、馬の様子がおかしくなった。
「さあ、お出ましかな。類、王女、皇子を頼んだよ」
太陽は類を前に行くように押して、ジルハル王女ヒンド皇子の護衛を任された。
「ええええ!?」
「あーあ邪魔だなあ」
グノリスは、大鎌を持った異生グノリスだった。
グノリス=ヴェイン。
大鎌で太陽ときらりを攻撃するが、周りの木が断崖する。
「はあ、君たちはどっから来たの」
ヴェインは屍鎌招来で複数の鎌を、手玉のように操って投げてくる。きらりと太陽は避けながら森林を駆ける。
「きらり、圧縮しよう!このまま逃げるのは無理だ」
「しょうがないぺろ、《コンプレッション》」
きらり異能名が発動した。
対象の存在を一点に圧縮し、ペロッと食べる。
きらりの一点圧縮は半径10メートルになり、森林の領域を狭くした。
「へえ、僕に近づきたいんだ」
「くっせえな」
きらりは近接攻撃で弾丸の速さで帝拳を撃つと、ヴェインも大鎌で手裏剣のように振り回す。
「ああ、いいね」
太陽が空中から2つの打撃波を溜めており、それをヴェインに打ち付けると、ヴェインは地面にめり込む。
「――っぐ」
「まあまあ、きらりのために奴隷になってくれてありがとう」
ヴェインは地面から這い上がり、魂蝕で巨大なミミズを大量に吐き出している。
ミミズは凶暴で、きらりは飛ばされた。
「きらり!!」
太陽はミミズを打撃波で退治するが、量が多くて間に合わない。ミミズは紫の反吐を吐きながら、きらりをお腹まで食べていた。類は驚愕として、きらりはごくっと食べられた。
太陽は大量のミミズを駆逐するのに苦戦している。
「太陽、きらり!!ヴェインこっちみろおお」
俺はヴェインの前に立った。
「ああ?」
魂蝕の巨大なミミズが類を襲う。
俺はグノリス討伐専用大剣を構えた。その勢いのまま踏み込み、刃を振り抜いた。巨大なミミズを頭部から続けざまに切り落とす。
《リコレクター》に刻まれた雷紋が唸りを上げる。刃が青白く輝き、雷が収束していく。ヴェインの胸部、接合点を狙った。
「きらりを返せええええ」
「雷電抹消兼斬!!!」
雷撃が走り、刃が触れた瞬間、ヴェインがガクンと地面に落ちた。ミミズの中からきらりが浮かび上がってくる。
「きらり、しっかりしろ」
太陽が治癒再生をきらりにかけるが、目を覚さない。
「・・・ぺろ」
「無事だ、類よくやってくれた」
類の右半身はミミズに食べられて、腕がもがれていた。
「おう、いてーよ」
「後で治癒するからね」
ジルハル王女、ヒンド皇子は心配そうにしている。
「大丈夫ですか、護衛部隊」
「ええ、小さいありを退治しました。王女、皇子は安心してください、王都まで急ぎましょう」
きらりは意識が朦朧としているが、大丈夫そうだ。ここから先、山脈沿いの鉱山都市ハーゲンから王宮までは堕天、まりも、キコウに託した。
太陽と俺はきらりを抱えながら、ジルハル王女とヒンド皇子を鉱山都市まで連れてきた。
堕天は驚いていたがすぐに状況を察したようだ。まりもとキコウは目が血ばしっている。
「鉱山から王都までは、三人の傭兵が護衛致します。王女、皇子の命は我々の生です。零の名の元に」
太陽はそう告げると、堕天、まりも、キコウに軽くウインクを送った。王女、皇子の馬車と山脈沿いからの向かう。
堕天、まりも、キコウは決意していた。
鉱山都市を抜ける、その瞬間。
キコウはふと足を止めかけた。
――静かすぎる
さっきまで響いていたはずの自然の風の音も、人の気配も、まるで最初から存在しなかったかのように消えている、嫌な予感が確定した。
「まて、何かくる」
ガガガゴゴオオーーー。崖全体が直撃してきた。
キコウが《竜哭》共鳴武装する。
竜の骨格と魔導金属を融合させた長柄武装、刃身には竜文様に似た亀裂があり、赤く光線する。
「《竜哭》そのまま進め!」
岩や石を瞬時に壊して道を開けた。
堕天とまりもは警戒しているが、グノリスが見えない。
「っち、グノリス、どこだ」
「堕天後ろ!!」
堕天の背後から急接近で、二人のグノリスが現れた。
影を操る、名無と炎の異能を持つ不知火。
「あっちゃー、弱そうじゃん、ガチャはずれちゃったね」
「ふっ、ちょー大当たりだろ」
「ピンピンしてるうちが華だよね、影繰」
堕天は身体が動かせない。名無が影を自在に動かし、堕天の位置と形を操作した。
「おらよっと!」
まりもが名無の頭上から上腕二頭筋、雛達を成長させ、打撃・投擲・跳躍で、肉体近接戦闘を行う。
名無の影がまりもを掴み、地上に飛ばされた。
「っマジで!ぶん回す系?」
堕天は影に操られていて動けないが意識を集中させており、天使の輪を空中に持つ。
「《アウレオラ・パラドクス》」
因果を歪めた銃弾を放つ異能力。
標的にしか命中しない銃弾が、不知火の頬を貫通した。
「うぐっーー」
不知火はまりもの肉体を、炎を纏った高速斬りで切っていく。
「焔連舞!」
まりもは、不知火の炎の高速斬りを打撃と肉体合戦で熱を発していた。
まりもの雛が上腕二頭筋をさらに異常発達させ、雛がごっと大きくなった。
「《インキュベート・マス》!」
不知火は炎を纏ないながら、周りも火で囲った。半径20メートルの中で、名無、堕天、まりも、不知火の攻撃が交差している。
名無と不知火、コンビの攻撃が堕天に集中した。
「影焔抜刀」
まりもが、コンボで吹き飛ばされる。まりもの肉体も集中力に限界がきていた。衝動破から、何やら空気がピタリと止まった。
キコウの《竜哭》共鳴武装、空中に亀裂が走り赤く光線する。竜の大群が上から静かに攻撃耐性に入っていた。
巨大な竜が名無と不知火を食いにかかると、両者は吸い込まれるように空中へと飛ばされた。そのまま、まりもは竜の上に乗って、投擲・跳躍で名無の右半身をとった。
「はいは〜い、そのままいい子にしててね、雛ちゃん餌だよ」
名無の腕がブチリと取れた。
堕天は銃弾に神経を集中させて、不知火の頭をそのまま命中させ、キコウの竜が、名無と不知火をガブっと飲み込んだ。
「おい、キコウ、そんなでかい竜出せるのかよ」
「っふ、私の実力だよ」
ジルハル王女とヒンド皇子と共に、鉱山都市から王都へ無事についた。メイルック帝国の文化祭、血色のセレモニーは幕を閉じた。
きらりと太陽、類はグノリス専用治療室にいた。
「王女、皇子とみんな、無事王都へ行けたみたいだね」
「ああ、みんな成長してるな」
「類、子供の成長と共に伝えておかないと行けない、まりもの存在が、確認できないんだ」
「はあ?まりもがどうしたって」
「血色のセレモニー終末と同時に、いなくなってしまったんだ」
すると、堕天とキコウが、身体から大量に血を出しながら治療室に入ってきた。
「堕天!キコウ、何があった」
堕天とキコウは悔しくて、血気が異常だった。
「まりも、あいつはグノリスの悪だ、もう家族じゃない」
その瞬間に悟った、俺たちは何も気づいていなかった。
深い闇に入るように、第零保護科、俺たち6人家族は1人欠けてしまった。




