消失、太陽降臨
――人間が生まれ変わるには、すべてを
壊さなければならない。
「鳥は卵から出ようと戦う。卵は世界だ。
生まれようとする者は、一つの世界を破壊しなければならない」――ヘルマン・ヘッセ
卵の中は、温かくて、安全だ。
壊さなければ、何も失わずに済む。
だが、そこに未来はない。
殻を破った雛は、本当の空を知らない。
それでも歩き、転び、探し続ける。
どこまでも、どこまでも彷徨い歩き続ける。
だが、世界は変わらない。壊した者にだけに姿を変える。全てを失った者だけが、まだ見ぬ太陽を得るように――。
シングルファザーの音司類は、25才で結婚して3か月で離婚し、父子家庭になるが、異能生物に襲われて、息子がいなくなった。現在進行形である。
「いってえなあああ」
何箇所刺されたんだよ。血がダバダバ出ている。音司隼人、仕事、幼稚園、祖母父、家賃、公共料金、保険年金、友人、お風呂、ご飯、ああ、いってえ。
「へへっ、どこ行ったんだよ」
もう笑うことしかできない。
神様、人選ミスしちまったなあ。痛えよ、骨折だらけだけど、なんかもうどうでもよくなってきた。大通りの白線の真ん中をふらふら歩いていると、車から怒号が飛んでくる。
「あっぶねえだろ」
レッドカーペットをふらふら歩く。隣には、夏に大人気の海が漂っているが、今は俺が主演だから興味ないんだよ。またかよ、急に背後から視線を感じ、振り向く。
「ところで、お前だれだ」
いちご頭で、首から下は人間の胴体がくっついてる。いちご、人間?というやつが俺をつけてきている。いちご頭は無言で背後にピッタリくっつく。
俺が進むといちごも進む、俺が止まるといちごも止まる。だるまさんかよ、ばーか。後ろを振り返ると、いちご頭は、高速で俺の所まで走ってきた。
「おい、まだだるまさんが転んだって言ってねーだろ」
いちご頭は急に果汁を出してきて、俺の身体中にいちご100パーセントの果汁がかかる。上半身がほとんど焼けきれ、溶けてなくなった。
「あっちいな」
その隙に、いちご頭は両手に2つの球体を出し、腹部に連続で打撃してくる。
「ぐはっあああ」
いちご頭は、颯爽と帰っていく。俺は床を這いつくばりながら焼けきれた身体を治癒再生し、立ち上がる。
「待て、いちご、調子乗んなよ、火傷したじゃねーかよ」
いちご頭が振り向いた瞬時に、いちごの眼球を指で潰す。
「治癒再生。音司類、やはりお前はグノリスと人間のハイブリッド、プルサードか」
「何のようだ、果汁犯罪者」
いちご頭は右手に球体を持ち、その中に映像が流れている。
「私は太陽。ここメイルック帝国を守っているグノリスだ。音司類に子育て命令が出ている。君を採取しにきたんだ」
「はあ、子育て?」
「メイルック帝国の4人の子育てを帝国から命令されている。拒否すれば死刑だ」
「何で俺が、しなくちゃいけないんだよ」
「君の息子、音司隼人。危ないぞ」
「まて、隼人、どこにいるのか知ってるのか」
いちごの太陽ってやつは、球体を俺に向けてきて、俺は、その気体に吸い込まれた。
なんだよこれ────。
そこには、音司隼人の骨格を3当分にして包丁で捌いている。魚人間がくちゃくちゃ咀嚼して、最高の笑みを浮かべている。
魚人間は、隼人の骨の一本一本を綺麗にしゃぶりついて、身の肉を食べ進める。
───何分経ったのだろう。声が出ない、動かせない、指一本も。息苦しい。
はあ、はあ、はあ、俺はどうすれば動くんだ。
突然、いちご100パーセント果汁が頭からヌメヌメとかかる。また焼き切れるが、暖かくて、再生できる、ベタベタが潤滑油になってきた。
何なんだよ、この試練。
「類、動くようにしてやるよ」
左足がわずかに1歩動く。魚人間はこっちを振り向くと、見たこともない顔で奇声を上げる。
「ぎゃあああははは、3枚おろしは最高だ」
「やめろ!!何でもする!!」
ギラリとこっちを見て、包丁で自身の魚の鱗をガリガリしている。身をさく程に血が出ている。音司隼人は潰されて、空中に飛ばされる。
その隙に太陽が隼人を抱きしめようとするが、太陽に魚の鱗の刃が飛ぶ。鱗が身体中に刺さり、音司隼人と道路に投げとばされる。
仕舞いに、魚人間は音司隼人をみじん切りにして、ミンチにして、飲み込んだ。
「はああ、きもっちいいいい」
みじんも動けない。何してんだ、動けよ、俺。
太陽もけがしてる。
俺、音司類は変な能力を持っているのは知っていた。簡単に自分の身体、治癒ができる。人間で生き残ってる奴は俺しかいなくなった。
異能生物が襲ってくる、殺す。毎日、毎日、隼人に危害が出る事を恐れて、隠すことにも疲れていた。子育てどころじゃなかった。もう普通になりたい。ふと、息子の音司隼人を殺めて、俺自身も抹消するつもりだった。だが、俺は逃げた。
こんなに弱いのか。はあ、舐めてた。俺自身を、舐腐ってた。何でこんな弱いんだよ。
「くそっ、くそっ」
魚人間はすでにいなくなっており、太陽と俺だけが残っている。太陽に駆け寄る。
「いちご、おい、太陽!」
「メイルック帝国には、こんな連中がてんこ盛りだ。どうする、音司類、一緒にグノレスを潰すか」
「…やってやるよ、全部、俺がぐろって変えてやる」
「決まりだね。僕は太陽。異能能力を持つ。《ソラリス・オープナー》
僕の異能は「始まり」と「役割」を強制的に与える開門能力。僕が門を開くことで、対象や空間に本来あるべき運命・起点を発動させる」
「類には4人のグノリス育成とグノリスの抹消を手伝ってほしい」
「ああ、俺が、育成して殺してやるよ」
太陽が《ソラリス・オープナー》開門を合図し開き、空が光で割れ走った。光は音もなく開き、門になる。
「さあ、行こう、類」
類は一度だけ立ち止まり、失ったものを胸の奥に押し込む。そして何も言わず、その光の中へ歩き出した。




