9話 近寄らないガス
移動中、私は千尋さんとラムダの体をほぐしていた。
「ありがとうねぇ~せっちゃん」
「寝起きなんだから体がカッチカチですね、仕事に影響しますよ?」
「そうだけどさ~ワンオペの時、こんな体でも出動してたんだよ?偉くない?」
「確かに偉いですね」
すると千尋さんが泣き出した。
「ラムダぁ~せっちゃんが何だか冷たいよぉ~」
「どうして寄りかかってくるんです?気持ち悪い」
その言葉の刃は千尋さんの心をえぐり取った。
「ぐはぅ」
「ラムダ、千尋さんの心に見えないナイフを突き刺したのね」
そんな話をしていると目的地に着き、千尋さんはむくりと起き上がった。
「さてと、朝飯は帰りに食べるぞ。仕事開始だ」
私たちは電車から降り、ヒビを探していった。
「千尋さんとラムダってまだ朝ご飯を食べてないんですか?」
「食べてないよ。食べる時間なんてなかったもの」
「そうなのね……私はカップ麺を食べたけど腹は満たされなかった」
「……せっちゃんの胃袋はブラックホールなのか?」
町中を歩いているとヒビがポツンとあった。
「ここだね、じゃ入るよ」
千尋さんがヒビを広げ私たちは電脳世界に入っていった。周りは白い物でいっぱい、豆腐に見えてきた。そして右腕に黒い物で包まれ、デバウアーになった。
「この光景を見てると豆腐を思い浮かべるよ……」
「飢餓状態だと本当に地面を食べてしまいそうだな」
目の前にバグがいたがまだ私たちに気が付いていないようだ。
「せっちゃん、右腕の奴、デバウアーって言うんだっけ?」
「そうだけど……この電脳世界でしか出てこないらしいね」
(このデバウアー、とてもシャイだなぁ……どうにかして現実世界に連れ出せないものか)
「ちょっと待ってて」
ラムダがそう言うと手のひらから直径1㎝の球を出した。
「その球、どこから出した!?」
「私に備わっているレガリア、千尋さんはこういう能力あるの?」
ラムダはその球をバグに投げた。球が地面にぶつかると同時に霧が発生した。
「何だこの霧は?」
「近づかない方がいいよ。これは強酸性の霧だから」
バグが霧に巻かれた後どんどんと溶けていった。
「これが私のレガリア、千尋さんとセツナさんは何かあります?」
「私はない、千尋さんは?」
「そうだなぁ……過去に戻るレガリアと……あと元に戻すレガリアだね」
「元に戻す……」
「バラバラになっても戻せるからな。自爆特攻させての元に戻したら死んだという事実は無くなるんだよ」
(千尋さん……とても怖いですね)
「まぁ、そんなことしたらせっちゃんがせっちゃんじゃあなくなりそうだから嫌だけど」
「よかった……」
「しかしここに出現したバグはさっきいた奴だけか?」
周りも見渡してもバグは見えなかった。
「……しかしこのバグ、ドロドロに溶けてしまっているな」
「だって強酸性の霧ですから……人間も溶かせますよ?」
「それ聴きたくなかったよ」
(ラムダが敵だった時、強酸性を私たちに出してたのなら強敵になっていたのか……恐ろしいなぁ)
そんな話をしている時、何か危険を察知した千尋さんは急に私とラムダの体を押した。
「二人とも危ない!」
「うおっ!?」
「どひゃ!?」
すると上から何かがヒュゥゥという音が鳴ったと思ったら、何かが降ってきて千尋さんの腕がスパンと斬れた。
「うっっ!!」
「かわされたか……まぁいい」
千尋さんがバックステップを踏み、敵との距離を取った。
「ほぉ、いい戦闘者がいるようだが……まだまだ私の力には及ばないな」
「危うく私の肩を持っていかれるところだった……」
千尋さんは欠損した腕をレガリアで引っ付け、とりあえず元通りになった。
「敵は早いうちに刈り取っておくのが常、行くぞ!」
わけもわからないまま奴は剣を携えて私たちの方向に走ってきた。
(こりゃまずいことになった……この場に居たらここにいる3人は死ぬ!!外に出たとしても奴は出てくるだろう……)
私は思いつく限り対処策を考えていた。
「せっちゃん、こりゃまずいねぇ」
「分かってる、何か考えたら?」
「うーん……こういう時綾瀬さんならどうする!?」
(おそらく敵はラムダの強酸性の霧を突破してくる、万事休すなのか!?)
その時、どこかからヘリコプターの音が聞こえてきた。
「む?何だこの音は」
「これは……ヘリコプターの音か!?」
すると空が割れ、そこからヘリコプターが入ってきた。
「よし!突破成功だ!」
ヘリコプターから縄が出てきた時、私はその目的について一瞬でわかった。
(なるほどな……)
ヘリコプターがこっちに来ていたが敵はそのヘリコプターさえ墜とそうとしていた。
「こざかしい奴が……」
敵はヘリコプターに向かって剣を振りかざしたが明らかに射程距離の外、届くはずはない。
「せっちゃん、ラムダ、分かってるだろうな」
「ああ、何となく意図は分かった!」
私たちは近づいてきたヘリコプターに垂れ下がっている縄を掴み何とかその場を離脱した。敵はそのヘリコプターを見てこうつぶやいた。
「……いややめておこう。どうせ戦うのだ。その楽しみは後に置いておこう」
そう言って敵は一目散に退散した。
「このヘリコプターってだれが運転しているんです?」
「……ライさんと運搬課の誰かだ」
縄が引っ張られ、私たちはヘリコプターの中に引きこまれた。
「いやぁ……まさかあいつが来るとは思わなかったよ。すまないな」
そうライさんが言うと千尋さんが相づちを返した。
「ですね……まさかあいつが来るとは思いませんでした」
私はさっきの敵について聞いた。
「あの敵っていったい誰です?」
「あの敵か?簡単に言えばアルターエゴ、現実世界の誰かのもう一つの人格だ」
「アルターエゴ……ですか」
「そうだ、セツナは新聞好きだろう。後でアルターエゴの基本情報が書かれた紙を見せてやる」
「ありがとうございます……」
そうしてヘリコプターは入ってきた穴から退散した。そして現実世界に戻ってくるとその場所はヒビがあった上空だった。
「しかし、試作品がうまく動作したからよかったものの……うまく行かなかったら大事な社員3人が死ぬところだったよ」
ライさんはとても冷や汗をかいていた。
「ヒビを埋めに行っても?」
「いいよ、行ってきな」
千尋さんは一人でヒビを埋める中、ヘリでわたしとラムダは休憩していた。
「今回ばかりは戦力の配分間違っていたな」
「それはいいんですよ。次間違わなければ」
「そうか?ありがとうなぁ~優しいなぁ~」
ライさんは涙と鼻水ダラダラの顔を私にくっつけてきた。
(……とても人懐っこくておいしそう……いや人を食べたらだめだよね)
私は食欲を抑えられなくて人さえ食べようとしていた。
「どうした?よだれがだらだらだけど」
「大丈夫、ただおなかが空いただけなの」
「そうかぁ~帰ったら腹いっぱいご飯を食べないとね。いっぱい食べて強くなれ!」
そして千尋さんがヒビを埋めてヘリコプターに戻ってきた。
「埋めてきましたよ~」
「ありがと、じゃヘリで帰る?それとも電車で帰る?」
「電車で帰る、駅弁を食べたいですし」
「そうだよ!千尋さんとラムダは朝ごはんを食べてないんだよ!」
「あら、それは早く食べないとね」
ヘリコプターは駅前に向かい、時間としては数分で駅に着いた。
「じゃ、駅弁を楽しんで~」
「はい~」
私たちはヘリコプターから降り、乗ってきた電車に乗り込んだ。
「じゃ、駅弁を食べるかぁ~」
「そうですね~」
千尋さんとラムダは駅弁を持って食べたが私は駅弁4つ持って机に並べた。
「それ、食べきれるのか?」
「うん、お腹空いてるからね」
「せっちゃん、朝カップ麺一個食べてたのよね……?」
千尋さんは私の食欲にとても恐れ、怖がっていた。
(どうして怖がっているの?食欲って普通だよね?)
私は千尋さんの恐怖が疑問だった。食欲は人間の三大欲求だからだ、食べて食べて食べまくってもいいって事なのに……どうしてなのだろうか?
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