46話 巡礼者
現実世界に戻ってきた私たちは美人と距離を取って話をした。
「そんな距離を取っての話だと他の人に聞かれるだろう、もっと近う寄れ」
「それだけあなたを信頼してないってことだ、そもそもどうしてあの時私たちを襲ったんだ?」
「あの時……か、最近あの箇所でヒビが増え始めてな、そこの巡礼だ」
すると美女は服を脱ぎ始めた。
「何で脱ぐんだよ!?」
「誤解を解きたいだけだ、服の中に武器が仕込んであるとか思ってるんだろう?」
「違うんだよ!ただ単に信頼する要素がないから近寄れないんだよ!!」
微妙な距離感のまま美女は話し始めた。
「まず私の名前かな、名前は安城寺明奈だ」
(安城寺……明奈、聞いたことのない名前だな)
すると安城寺は個人情報をべらべらと話していった。
「住所は大阪府和泉市緑ヶ丘の……」
「そこまで言わなくていいの。もしかしてだけど信用を得ようとして話しているのか?」
「そうだけど?職業はフリーランスの探偵。年齢27歳座右の銘は日進月歩、好きなのは猫とフィギュア」
「いやそこまで聞いてないんだけど……」
何故か安城寺は個人情報や趣味嗜好を自己開示していった。
「好きなアニメは転生したらス……」
「もういいから!!!」
私は話の途中で安城寺の自己開示を止めた。
「それだけ信用してほしいのは分かった。だけど 信頼してない人にはこんなことしてないよね!?」
「もちろんしてる」
私は頭を抱えた。
(ダメだこの人、他人が注意しないとそのまま突き抜ける人だ……)
私は恐る恐る安城寺の近くに歩いて行った。
「そんな警戒しなくてもいいんだからな」
そう言って安城寺はポケットから飴を出した。
「いるか?」
「もらっておくけど……この飴、何日間ポケットに入れてた?」
私はもらった飴を口に入れた。
「確か3日はそのままだったな……ドロドロに溶けてるかもしれんな」
(確かに飴溶けかかってた……うぅ)
何故か安城寺の話すペースに巻き込まれている中、ジータとラムダは私が大丈夫なのかと恐々としていた。
「……セツナの仲間も近う寄れ、この場所では暴れられないんだ」
確かにこの場で暴れると警察らが来るだろう。
「それで私の存在、自警団でもあり巡礼者って言ったな」
「そうですね……それがどうしました?」
「セツナの会社では私はどういう呼び名だ?」
(この人……私たちの会社での呼び名を気にしてる……楚々をしたら殺されるのかな……)
安城寺の顔はとてもにこにこしているが奥には狂気が孕んでいそうだった。
「ほら、嘘なんかつかずにさ、ほれ」
「……アルターエゴ」
「アルターエゴ……へぇ、もう一人の自分っていう意味のアルターエゴか」
安城寺はそう言うと私の頭をポスッと叩いた。
「そう呼ばれてるのは心外だなぁ……上司に電話かけれる?」
「かけれるけど……」
「なら今すぐかけて」
私は安城寺の圧力に耐えれず、ライさんに電話を掛けた。
「もしもし、今セツナや他二人が傍にいる」
安城寺はそう言ってライさんに脅しをかけているように聞こえた。
「要求は一つだけだ、私の資料を変えろ。アルターエゴからピルグリムってな」
要求の内容はとてもしょうもないものだった。
「そうか、よろしく頼む」
そう言って私に電話を返してきた。
「無事変えてくれるように仕向けた」
「あの~ピルグリムって一体?」
「……巡礼者の英語名だ」
安城寺はそう照れくさそうに言った。
「そもそも安城寺はどういう目的でアルターエゴと敵対してるの?」
「その事だがな……とてもじゃないけど胸糞だ」
そう言う安城寺の顔に影が現れ始めた。
「それはとてもとても長い一日だったよ」
そう言って安城寺は過去を話しだした。
「そうだ、あの日はとても暑かった。汗が間欠泉のように噴き出るような暑さだ。だけどその暑さは一瞬にして冷えた」
すると安城寺は一枚の写真を懐から出した。
「感情に表すと……とてつもない怒りだったな」
写真の裏をよく見ると血を出来るだけ落そうとした痕跡があった。
「アルターエゴに私の友達や私の家族、そして近所にいた駄菓子屋のおばちゃんが死んでいた」
「その写真は?」
「幼少期の写真だ、駄菓子屋のおばちゃんや友達が写ってるんだ」
安城寺がそう言うと写真をなぞり始めた。
「これを見ていると童心に帰るんだ。それと共に怒りが湧いてくるんだ」
「安城寺さん……」
「それで後に分かったことだがユプシロンはとある組織に居てとある目標の達成を目指して人間にバグを寄生させる実験をしているとな」
「ユプシロン……!」
「そうだ、私は今はユプシロンを追ってるんだ、そして最後にはユプシロンがいる組織のトップの首を取るつもりだ」
「トップの首ね……とても簡単じゃあなさそうね」
「そうだ、だから私は巡礼者として各地を回っている。だからセツナたちを一緒に同行させるわけにはいかない」
そう言って安城寺はどこかに歩いて行った。
「また会おう、その時はユプシロンの事について調べておく」
そう言って安城寺は人ごみの中に消えていった。
「……安城寺さん」
安城寺さんの過去にはとても度し難い出来事があったのだと判明した私たち、そして判明したユプシロンの目的。私は決めた。
「ユプシロンは絶対殺す、地獄に行っても追いかけてやる」
そんな確固たる決意を持ったが今のところ手がかりがない以上、どうにもすることが出来ないのだ。
「セツナさん、一旦レイさんの元に帰ります?」
ラムダがそう言ってきた。
(確かに一旦感情をリセットさせる必要があるな……)
「ラムダの言う通り一旦戻った方がいいかもな」
私たちは一旦レイさんが寝ている場所、協力組織の豪邸に戻ることにした。後の事は後々決めることにするのだった。
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