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96話 - 王様の気持ちなんかわからない

(ポヨ~ンぽよ~ンポヨ~ンぽよ~ン)


 僕は今、王都に向けてとても急いでいる。

 効果音が全然急いでいる感じに聞こえなかろうと急いでいると言ったら急いでいるのだ。


 スライムだもん!1ジャンプ200mオーバーだ!

 前世だったらダントツで世界新記録だね!

 ってかスライムに世界新もなんもねぇか……ちぇ。


 全力で走れば片道20分くらいで到着できると思う。

 一応2人にはそのまま隠れて監視を続けてもらっている。

 僕がいない間にはとりあえずご飯休憩しながら見ていてと食事を渡してきた。


 ただ……王都に行って今から王城に忍び込む予定なんだけどさ……

 ぱっと出て来れるとも限らないんだよね……

 出会えるかもわからなければ、渡せるタイミングが来るかもわからない。


 日が沈むまでに帰ってこなかったら一回引き上げてキャンプしててって伝えた。

 今は……15時くらいかな。

 もし何も進展がなくても深夜回ったら一旦帰るとは伝えてある。


 空間転移ができるようになったから城門からではなく外から潜入の予定だ。


 いやー憧れの魔法に初めて成功してテンション上がったよね!

 でもまだ集中にすっごい時間かかるから実用性はないな……。

 まだまだ練習が必要だ。


 ゲートを開くことに慣れること……

 あと……MPが全然足りない……こんな日が来ようとは……

 長らく有り余ってたのになぁ……


 距離と比例するとか……それは絶対に違っててほしい!!

 もしそうならさっきの僕って1mもゲートの距離伸ばしてなかったのに1回MP15000消費とかだったよ!?使えんよそんな魔法……。


 僕の目的地に行く為に最低MP7500000000位必要かなぁ……

 75億って……ほぼ地球の総人口じゃん……はぁ……(ガンッ)


『イデッ』


 いてて……

 あ、王都の城壁か……王都到着!!

 さて、どこから入ろうかな……


 今回は検問はすみません……

 魔物として入らせていただきますねぇ……


 ”フロート”ッ!(フワ~フワ~)


 王城は街の中心にあるんだ。

 だいたい城って一番安全なところにあるように街って設計されてるよね。

 だからどこから入っても街中進んで行かないとダメだ。


 取りあえず城の裏手方面……北から城壁に入ってまっすぐ進もう。

 で、もうゆっくり考えてる暇ないから僕の姿見えないくらい高く飛んで魔力隠蔽しよ。

 こわいよぉ……でも僕ちっちゃいから……そこそこで見えないでしょ……


 ”隠蔽”ッ!


 あ!あぶな!エステル印の僕の魔物バッチ!

 これとっとかないと。アイテムボックスにポイッ。

 身元割れるとこだった……野良のフリしないとね。


 -----


 お城についた。

 たぶんこっちが裏手だと……思う。

 桟橋反対にあるし……


 でもどっから入るのこれ!!デカすぎるって!!

 これテーマパークとかゲームで見るお城より全然おっきいよ!?

 ここから王様さがすのウ〇ーリーの100倍無理ゲーでしょ……


 屋根みたいな部分も20個くらいあるって……

 どの塔に玉座があるんだよ……


 感知使ったんだけど人多すぎてむしろ困惑しちゃう。

 んー。これ正面から入らないと無謀かも……

 外からじゃわかんないわ……


 とりあえず一番強そうな気配のする人がいるところに行ってみようかな。

 さすがに下っ端ではないでしょ……


 ……


 あ、居た。そんなことある!?


 多分これ王様だよね。

 いやもう赤いふわふわマントしてるから絶対王様だ。

 王様でしかありえない服装してるもん。

 冠はつけてないけどね。


 そうか。獣人国って力こそ正義だった。

 城で1番強いっぽいのが王様だったってことか。


 しかもライオン?獅子系の獣人さんかな?

 完全に獣ではないんだけどたてがみに見えるような髪型してる。

 髪が髭とつながってるだけなのか?


 丸い耳が頭の上についてて……顔は人っぽい。

 渋めのイケオジって感じかな?


 すんごいデカい……筋肉もすっげぇ……。

 身長たぶん2m以上あるよね……圧巻って感じだ……これが王か……

 存在感すげぇなぁ……


 ただ……すごい疲れた顔してるな……この王様……

 今は……ここは会議室かな。


 長い豪華な机が長方形の形に四つつなげてあって……

 沢山の貴族……20人くらいと多分王城の騎士?がたくさん居て話してる。


 さすがにここに飛び込むわけにはいかないな……

 貴族派って呼ばれる貴族もいるだろうし……

 出来れば王様1人のタイミングの方がありがたいんだけど……


 ・

 ・

 ・


 日が沈んだ……全然会議終わらん……


 今日獣人の救出はできない。

 証拠の提出が進まないと何も進まない。

 だから待つしかないんだけどね。


 ちらっと内容に聞き耳たててみたんだけど全くわからん。


 国の……作物のこととか交易のこと?

 あとは人間との戦争の前線がどうとか……

 でも名前や地名がわかんないから何も入ってこないんだよね。


 で、ずっと王様はため息ついてる……

 ほとんど無言。

 たまーに、あぁ。そうか。くらいの返事しかしない。


 不自然なんだよ……それを誰も見てないんだ……

 誰も気づかない……なんだこれ……気持ち悪い……


 外野からみてて、話の内容も分からない僕が言うのもなんだけど……

 会話……してないのか……?この長時間……


 あ、やっと終わるみたいだ。

 王から先に出ていくんだ。

 どこ行くんだろ。


 -----


 ここは……玉座か……?

 今は王1人だけど……

 うわー、めっちゃくたびれてるな。


 今僕は玉座の後ろのでっかいステンドグラスのような窓の縁にいる。

 ここ、開かないよなぁ。

 もういっそ気付かれてもいいかもしれないかなぁ?


 会議中冷静になれる時間あったからよくよく考えてたんだけど……

 僕愛玩動物扱いだよね?

 なんでこんなところにスライムが……?くらいの反応にしかならないよな。


 敵視されるかもしれないって頭がいっぱいになってた。

 そんなこと逆にありえなくない?

 家に猫ちゃん入ってきて「敵か!?」とはならんでしょ。


 案外それの方が怪しくないしうまくいくかもしれないな。

 なんか緊張して損した……。急に脱力したわ。


 それでうまくいかなければ陰に隠れて転移で入って書類派手にぶちまけて逃走すればね?

 元々そのプランだったし。


 いいや、姿だそっと。

 気付くだろうか……


 と考えながらクロムは玉座真後ろ。

 3つ並ぶ大きなステンドグラス型の窓のど真ん中の縁に陣取った。


 ………


 ん……?あ、こっち見た。すごい変な目で見てる。

 いや、まぁそうだよね。ここ地上20mくらいだもん。


 あ、こっち来た。


「お~い、お前そこでなにやってんだ~?」


 あ、王様に話しかけられた。

 すっげーレアな体験してる気がする。

 この王様すっごいフランクなぁ……

 王っぽい感じしないなぁ。


「あぶねぇぞ~、どうやってこんなところまで昇ってきたんだ~」


 え、どうしよ……めっちゃ話しかけてくる。

 さすがに話しかけられるとは思わなかった。


 突如見つかりにいくプランに変更したからリアクション考えてなかったぞ……


 あ、ちがう!またエステルの時と同じ失敗するところだった。

 リアクション取っちゃダメなんだって!


「窓叩いてみるか?いやビックリして落ちちまったら可哀そうだよなぁ……」


 こっちから入りたそうに窓ノックしたらいいかな?

 それくらい自然でしょ……?


(ぺちょぺちょ)


「あ?入りてぇのか?待ってろよ……どっから開くんだったかなぁ……」


 お!入れてくれんの!?

 ラッキー!作戦大成功じゃん!


「あ、こっちだ!ここのちっこい窓!落ちんなよ!頑張ってこっち来い!」


(ピョンピョン)


「おっしゃ!よくやったな!はっは……いや、やっぱ高っけぇよなぁここ。どうやって昇ってきたんだよ……鳥にでもひっかかったのか?」


 まぁ、そうなるよね。

 正しい反応だ……スライムが昇ってこれるところじゃないよな……。

 まぁだからなんでだ?ってなるかなとも思ったんだけど。


「スライムかぁ。懐かしいなぁ。冒険者の時見た以来かもなぁ……」


 へぇ。王族なのに冒険者してたのか。

 この王強そうだもんなぁ……


「戻りてぇなぁ……あの頃に……」


 ……まぁそんな感じだよなぁ。

 すごい嫌そうに会議してたもんな。


「ってかお前変わった色してんな?ちょっと見せてもらっていいか?」


 え、見るって……鑑定?!やば!?

 んぐっ!?なんだなんだ!?ぎぼちわる……んあっ!!

 はぁ……すげぇ不快だった……魔力ぐあって込めたらなんとか……あ。


 あらやだ。王様……すっごいぱっちりおめめでこっち見てますねぇ。

 照れますので……ちょっと……


「お前……今俺の魔眼を弾いたのか……?」


 え、魔眼!?鑑定じゃなく……!?

 じゃあこっちから……”鑑定”(バチッ)


 あ、弾かれた……


「今……お前も神の眼を持ってるのか?」


 いや、ちょっと何言ってるかわかんない……

 何だろ?鑑定の眼みたいなの持ってるってこと?


「お前……俺の敵か?そんな感じはしねぇんだが……」


 あ、こいつ水龍ばあちゃんと同じこといってるな。はは。

 どうしよっかな……まぁそろそろ玉座に隠れて資料でもとりd


 うおっ……


 王がクロムを持ち上げて……投げ出した。


 なにすんだよ……

 急に持ち上げるなよ……


(ポーンポーン)


 いや、何してんだ……

 遊ぶなよ僕で……


「こんなことして怒らねぇやつが敵なわけないわなぁ、はっはっは!全然敵っぽい気配も感じねぇし。似たような運命もってんのかねぇ……お前と俺は」


 えぇ……王と似た運命とか……疲れそう……やだ……

 遠慮させてもらっても……


「はぁ……」


 そういうとクロムを持ち上げた状態で王は玉座の前に寝転がってしまった。


「なぁ……せっかくの縁だしよぉ……俺の愚痴聞いてくんねぇかなぁ……」


 愚痴?いや、別にいいけど……


「俺はよぉ……昔っから頭わりぃからわかんねぇんだ……。さっきもな?会議で色んな貴族共が……この功績は私のもんだだの……私の領の工芸が一番だの、収穫量は私の領が一番だの……」


 あぁ、そんな話もしてたな……確か。

 くだらなそうに聞いてたよな。


「俺みたいなバカでも領民を守るために収益は必要なことくらいわからぁ。でも一番になったからどうだってんだよ。士気を上げるために必要なのはわかるさ。そういう褒章もあってもいいとは思ってる。でもいつの間にかそれで一等賞とることが目的になってやがんの。最後はそれで蹴落としあってんだよな。馬鹿らしくなっちまって……」


 ……


「魔物は民を守る為に倒すんだよな。素材でまた武器つくって魔物に挑んでよ?……民が安全に暮らせるように冒険者は頑張るんだ。あいつら誰が倒した魔物の角が一番でっかいか争いだしてやんのよ。名誉だと。飾るんだと。角比べするために魔物狩るんだとさ。自分の倒した魔物が一番強かった!戦争もそうだ。俺が大将の首取った!俺が一番だ!一番多く敵を倒したのは俺!一番だ!いちばんいちばんいちばん……」


 ……


「近頃は違法奴隷だ、人身売買だ……一番争いどころか自分の為に他を貶めることを何とも思わねぇやつまでいやがる……そんなに他人蹴落として……何がしたいんだよ!くそがっ!!はぁ……すまねぇ……もうそんな奴の相手ばっかでよ……」


「俺はよぉ……国民がみんな……明日の飯が困らねぇで喰えるようになればいいなとおもって王になったんだよなぁ。それだけでよかったんだ……」


「何のために王やってんだろうな、俺は……。こんなんだったら……あいつらと冒険者やってたあんときに戻りてぇよ……」


「はぁ……おっしゃ!切り替えたっ!いやー久々に言いたい事いってスカッとしたぜ!お前のおかげで元気出た!ありがとな!」


『誰が1番か……なぁ。人の貶め合い……そうだな。僕もそういうのすごく嫌いだ。明日の飯だけ考えて生きていたい。それもわかる。今の王様の話にはすごく共感する』


「んな!?スライムか!?」


『でも僕は普段王様が何してんのかもわかんないし、どんな風景を見てるのかも知らない。だからその話には共感したがその話だけ掻い摘んで聞いてすべてを分かった気にはなれないな。王様の気持ちはわからない!なんせ僕は一般人だからな!!あ、スライムだったか』


「……」


『だから僕から一般人としての感想だ。自信を持って言えるぞ。そんな考えを持った王様がいるだけで僕はすごく嬉しかった!お前が王様ならいい国になりそうだって思ったってことくらいだ!わかったか!』


「そうか……こんな俺が王でもいいとおもうか?」


『お前”が”王がいいと思うぞ』


「ははっ!そうか……ありがとうよ…」


『おう!いい笑顔だぞ!そっちの方がずっといいな!』


「そうかっ!?」(ニカッ)


『はははっ!本当にいい王だな。じゃあ、次は僕に付き合ってくれないか?』


「ん、なんだよ?」


『これだ、僕は字が読めない。教えてくれ。なんて書いてる?』


 そういって後ろに隠していた書類を取り出して渡した。


「これは……おいこれ……どっから」


『今、獣人の子供や違法奴隷がたくさん囚われてるんだよ。その書類の持ち主のところに。助けてくれないか王様。僕の家族が、そんなことする貴族を許せないんだってさ。僕は僕の家族にそんなことを思わせたそいつが許せないんだ。王様はどう思う?』


「俺の国民になにしやがる。絶対に許すわけがねぇ。俺に任せろ。そこでちょっと待ってろよ」

この小説を読んでいただきありがとうございます!


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