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91話 - ノワール

 悪徳子爵クルードに絡まれたせいで街の外で野宿をする羽目になったその日の深夜……


 体や顔を黒い布やマントで覆い姿を隠したやつが5人。


 うん。やっぱり5人だった。

 少し気配が揺らいでいるけどそれで隠れているつもりか……?


 暗殺とかの裏稼業やってるようなやつか?

 クルードの手先かな。

 そっと後ろから近付こう……


 ・

 ・

 ・


「この先で野宿をしているようです」


「あーあ、あの娘も可哀そうにな。奴隷行きかねぇ」


「無駄口を叩くな。我らは与えられた依頼を遂行するのみだ」


「娘とスライムを捕まえてこいってことでしたね」


「スライムは最悪殺してしまっていいとか?」




 聞こえてるぞ~。な~にが金貨1枚で奉仕だ。違法奴隷にする気満々なんじゃねぇか。


 さて。じゃあお仕置きと行きますか。




『動くな』”威圧”ッ!


「誰だっ!」


 黒ずくめの男達は一斉にこちらを振り向こうと……


『動くなと言った』


 ”ウィンドカッター”×10

(バシュシュシュシュシュ……)


 見えない刃が顔にかかった布やマントを切り裂く。

 おお、並列思考鍛えててよかった。

 簡単な魔法なら同時に10回発動しても全然余裕だ。


 でも……耳も切れちゃったか。

 コントロールに難ありだな……練習しよっと。


(カタカタカタカタカタ)

 ご一行さん震えてるじゃないですか。

 ちょっと威圧強すぎたかな?


『余計なことをしたら殺す。口を許可なく開いたら殺す。振り向いたら殺す。容赦はしない。わかったらそのまま跪いて両手を地面につけろ』


 全員ゆっくり言われた通りに行動したようだ。


 僕の正体は多分バレていないな。僕らとは関わりがないものとして話をする方がいいな。

 ちょっとキャラも変えておくか。


『真ん中の一番強そうな男、何故あの女を狙う?』


「それは言えない。依頼なのでな」


 ”エアバレット”’(バスッ)


 「うぐっ…」


 空気の弾丸が真ん中の男の右肩を貫いた。


 C級そこらの人を貫けるくらいの威力は出るようになったか……

 さっと鑑定をしておいたがこいつらは全員冒険者C、D級レベル

 ステータスでいうと平均300~500ってところだ。


 まぁ既に依頼って言っちゃってるけどね……

 個人的なものではないと。まぁそうだろうけど。

 こいつちょっと黙っとくの下手だな。


「ぐ……貴様は……誰だ。あの娘の関係者か?我らをどうするつもりだ!」


 ”エアバレット”’(ズドッ)


「がはっ」


『次は左肩だ。私が優しくてよかったな。だが次は頭をぶち抜く。質問されたこと以外に口を開くな』


 まぁ、でもちょっと乗ってやるか。


『私は貴様らの雇われ主に個人的に恨みがある物だ。あの娘は顔見知り程度。向こうは私のことは知らないであろう。我らをどうするか、か?必要な事を聞いたら皆殺しだが?生かしておく必要もないだろう?』


 もう一発”威圧”ッ!


「「「ひぃぃぃ……」」」


 あ、やばい、2人程意識失いだしてるぞ……

 かなり力量あると威圧されて意識保ってるだけできついのか……なるほどな。


「待ってくれ!話すから!命だけはたすけ」


 ”エアバレット”’×5(ズドドドドドッ)


「「「「「ぐああああああああッ!」」」」」


 左端のやつが急に声を荒げたので全員の手足に風穴を開けておいた。

 喋んなっつってんのに……

 いるよねテンパるととりあえず喋っちゃうやつ。


『貴様ら全然話を聞かないな……。黙れと言っているだろう?連隊責任だ。……まぁいい。じゃあ私に有益だと思う情報のみ、話すことのあるやつはゆっくり手を上げろ。くだらん事を喋ろうとしたら次からは頭をぶち抜くぞ。で、お前は有用な事を話してくれるのか?』


(カタカタカタカタカタ)


「ぐ…ぐふっ……。みんな俺のせいで……すまねぇ……。話……す。俺らはただのしがない裏稼業をやってる者だ……。金で何でも請け負ってるだけだ……こんな恐ろしいやつと対峙するなんてみんな聞いてねぇよ……。今回はただ娘とスライムを捕まえて来いって言われただけだ……。俺たちゃこの領でまともに飯が食えなくてよ……嫌々こんなことやってんだよ……仕方ないん」


『貴様らの都合なんか知らん!いらん事を話すな!』


「ひぃぃ、すまねぇ……」


『まぁいい。情報は入っていたのでな』


 まぁそうだろうな。

 お前らみたいな組織に恨み買うほどまだここにきて日も経ってないからな。


 ってか好き好んで裏稼業とかやってたらただの戦闘狂かサイコパスだろうよ。

 そんな奴ほとんどいないだろ。事情なんか知るか。


 すると真ん中のリーダーと思われる奴が手をあげようとしている。


「ぐぐ……」


 あぁ。肩ぶち抜いたから手があげられんのね。

 両肩と片足に風穴あいてるのに頑張るねぇ……。


『どうした。話す気になったのか?口を開いていいぞ』


「話……す……。どうせ殺されるんだろう?もうこいつが話してしまったので私だけが意地を張って黙っておく意味もない。だからここにいるやつの命を助けてくれ。」


『私に何の得がある?』


「あの娘に個人的な関わりも恨みもない。雇い主はクルードだ。もう知っているようだが。クルードにその娘に関わるなと伝えよう。手出しをしていいやつではないと。その後俺たちは皆行方をくらます。ここの皆はお前らとは金輪際関わらない。約束する」


 ほう……クルードに伝えてくれるわけか……。

 それは確かにメリットあるな。

 ちょうどいい。少しクルードの奴を脅すか……


『私は魔道具を持っていてな。貴様らの名前や身元などは全てお見通しだ。お前がちゃんとクルードに報告に行ったか追跡もできる。嘘は通らんぞ。誰かひとり余計な事をすれば全員即刻皆殺しになると思え。わかったやつは手を上げろ。ああ、お前は返事でいいぞ』


「わかった」

 リーダーに引き続き全員ゆっくり手を挙げた。


 まぁこいつらはただ雇われた名もなき裏稼業一派だな。

 折角だし利用させてもらうか。

 わざわざこいつらの一派つぶしに行くメリットはないしここは提案に乗っからせてもらおう。 


『では、お前らがクルードについて知っている情報を話せ。いい情報を渡せば傷を回復してやろう。逃げる時に困るだろう?』


 そういうと皆次々にわかる情報を話し出した。

 裏組織のやつから聞き出せた情報をまとめると……


 ・自分達は農民崩れのしがない裏稼業で大きい裏組織でもなんでもない

 ・クルードからは今回執事を通して初めて依頼を受けた

 ・僕らのことは何も知らない。ただ追跡して捕えろと言われているだけ

 ・クルードは頻繁に他の暗殺組織を利用していることで裏界隈では有名な悪徳貴族

 ・戦争孤児や貧しいものを多数捕え違法奴隷にし屋敷に隠している

 ・経費の横領や他の貴族の暗殺等の悪事は叩けばいくらでも出てくるだろうとのこと


「これですべてだ……もういいか……」


『あぁ。じゃあこちらを振りむかずに武器をその場においてここから立ち去れ。他のやつは一派のやつに悪事から足を洗えと伝えておけ。追跡し、今後私が気に入らないことをすれば容赦なく殺す。真ん中のやつは屋敷に伝えに行くんだな。私の名は……ノワールだ。ノワールというものがこの娘に関わるとお前を殺しに来ると言っていたと伝えろ。いいな?』


「わかった」「おう…」「はい」「……」「わかりました……」


 『右から二番目のやつは今すぐに殺されたいんだな?』


「怖くて声が出なかっただけです!すみません!もう絶対やりませんんん!」


 ちょっと裏の方で脅す名前でも作っておくか。

 クロでいいや。と思ったんだけど名前駄々被りじゃん。

 ノワールって黒って意味じゃんね?これでいいや。


 何かあった時にこいつに狙われたらやばいって名前があった方が便利だろう。

 要らなければ今後は使わなければいい話だからな。


 それから直ぐ黒ずくめ共はそこから去っていった。

 まぁ一応怪我は回復してやった。

 リーダーと思われる奴のみが街の方へ歩いていった。


 はぁ……じゃあまぁ見届けにいくか。

 その前に……


 ・

 ・

 ・


『クラムー!エステルー!起きろー!』


『なぁに~?』


「起きてますよ~」


 2人ともちゃんと目が覚めてたみたいだ。

 ちゃんと特訓の成果がでているな。


「どうでしたか?例の集団は」


『あぁ、ただの農民崩れの裏稼業だそうだ。クルードに雇われてきたらしい。ちょっと脅して帰らせたよ。ただ一応リーダーみたいな奴がクルードに報告しに行くらしいから見届けてくる。二人はここで。念の為これでも食って起きてて』


「ちょっと……です?クロムさんは怒るととても怖いですから……」


『そんなことないけどなぁ……?』


『クラムもいく~?』


『んーん。お話聞いてすぐ帰ってくるだけだから。エステル守ってあげて』


『わかった~』


 -----


 リーダーは街の外から貴族街の一番奥の方まで歩いてきた。

 まぁ門は締まっているしそりゃそうだな。

 城壁の裏口……?小さな出入口で衛兵?と話をして入っていった。

 あれクルードの個人的な兵かな?


 あ、僕?飛んでるよ~。

 クラムが飛べるようになってずっと練習してたんだ~。

 悔しいじゃん。


 でもちょっとクラムとは違うんだよね。

 クラムのは浮遊スキルじゃん?

 あ、あれからあの子森で浮遊つかって風で加速してビュンビュン飛んでたら飛行って言うのも覚えてた。


 風の精霊に浮かせてもらったエステルとお空散歩してたわ。

 どこのピーターパンだよ……


 で、僕のは”フロート”っていう魔法なの。

 昔、風魔法で飛ぼうとしてたじゃん?

 ふと思いついて無属性のシールドで床作ってそこ乗って操作したら速攻飛べた……


 風で飛ぶの練習してたのに……まぁいいけど。

 飛んでるって感じはないね。透明の乗り物に乗ってる感じかな。

 浮遊も飛行も覚えない……ちぇ。


 獣人大陸きてからだいたいエステルに抱かれてるからなぁ。

 あと日中目立つし。さらに実は僕……高所恐怖症なんだよね。

 だからあんまりこの魔法使う機会ないの。ってか使いたくない……


 自分の能力で飛べたら怖くないかなと思ったのに全然怖いわ。

 スキルで飛べるようになったら怖くなくなるのかなぁ……

 あんま下みないでおこっと……うぅ。


 あ、リーダーが裏口目の前にあったバカでかい屋敷に入っていった。

 でっけぇなぁ。これがクルード邸?

 子爵邸ってなるとこんなにでかいのか。これより上の爵位ってどうなるんだろ……

 もうほんと地球の規模では考えられないよね。


 〇〇の館~とか地球で観光に行ったことある。そんな感じ。

 運動場くらいの敷地面積あるよ多分。


 50部屋くらいありそうだし……何にこの数の部屋必要なんだ……

 僕ほんと1、2部屋でいいわ。落ち着かん……


 とか考えてたら一番上の階層の中央の部屋に光りが灯った。

 そっと話聞いてみよう。”聴力強化”っと。


「クルード様、夜分に失礼します。」


「なんだ、こんな夜遅くに」


「昼間の娘とスライムの捕縛にやっていた手の物が戻ってまいりました。直接話したいことがある様子で。クルード様に危険が迫っていると」


 ほう、上手い事言って直接話せるようにしたのか。


「なんだと!?通せ!」


(ガチャ)「失礼する」


「娘とスライムはどうなったのだ!」


「娘とスライムの捕縛には失敗した。俺はこの件から降りる」


「どういうことだ!!なぜあんな娘1人連れて来られんのだ!」


「娘1人だと?とんでもない。こんな依頼だと聞いていなかったぞ。ノワールとは誰だ?そいつに邪魔をされた」


「そんな奴知らんぞ!邪魔だと!?どういうことだ!!」


「お前に個人的に恨みを持つと言っていたぞ。あんなに恐ろしい気配を感じたことはかつてない。そいつの姿を見ることも出来ず一瞬で我ら全員に風穴を開けられたぞ。見ろ、このマントに空いた風穴を。今は傷跡すらないだろう?治したのもそいつだ。末恐ろしい……。俺達はただあいつに弄ばれ気まぐれで生かされただけだ。今も聞いているのではないのか?あの娘から手を引け!」


「口の利き方に気をつけろよ農民崩れが!」


「そんなこと言っている場合ではないだろうが!話を聞いているのか!?俺1人お前らにはどうすることもできんくせに。ノワールには俺が100人いても敵う気はしなかったぞ……。逃げることすら恐らく不可能だろう。圧倒的な気配を感じたぞ。」


「ぐぐぐ……」


「ノワールはあの娘とは直接的には関係はないそうだ。ただそいつがこれ以上娘に関わるようならお前を殺すと言っていたぞ。それ以外にもどこでお前を殺そうとしてくるかまではわからん。悪事をやめて引きこもっている方がいいんじゃないのか?」


「貴様なんぞに指示される云われはないわ!!私はあの娘ごときに馬鹿にされたんだぞ!!なぜ私が手を引かなければ……」


 ”プチエクスプロージョン”(ズドオオォォオオオオォォオオン)

『ひぇッ』


「キャアアアアアァァア!!」


「何事だッ!!」


 あら、みんな起きて来たか。

 色んな部屋に電気が付きだした。

 一応感知で人居ない側の壁狙ったよ。


 水と火の複合詠唱。ちょっとだけ水素を取り出して火で爆発させただけ。

 所謂爆発魔法だね。

 ただ……ちょっと脅そうとおもっただけなのになぁ……


 ほんのちょっとだけなのに…屋敷の壁と横2部屋くらい吹っ飛んじゃったなぁ。

 びびった……想像の10倍はデカい爆発になってしまった……

 声帯あったら声出てたわ。はずかち……

 使わない魔法も練習しないとダメだなこりゃ……



「だから言っただろう!!俺はこの件を伝えろと言われただけだ!!これ以上は知らん!!依頼は失敗した。せめてもの礼儀に知らせに来てやっただけだ!!これから俺は行方を眩ませる。命がいくつあっても足りんのでな。依頼料も必要ない、もう私に関わらないでくれ。ではな!」


 そういって黒ずくめのリーダーは足早に屋敷から出て行った。

 しばらく屋敷の騒ぎは収まらなかったようだが。知ったこっちゃないさ。

 次はもう容赦しない……それにしても違法奴隷か……


 解放してやりたい気持ちはあるんだが……うーん。

 いったん保留だ。今僕にどうすることもできん。

 暴れるのはリスクが高すぎる……


「おい!ノワール!聞いているんだろう!?」


 おっと、外に出たリーダーが話しかけてきた。

 まぁ追跡できるって言ってたしね。


『なんだ?よくやったじゃないか。上出来だぞ?』


「言われた通りにやった!もう俺はこれから行方を眩ませる!もう金輪際関わらないでくれ!」


『あぁ、お前らが私に関わらない限りはこちらから手出しはしないさ。約束しよう。なぁロズウェル?』


「ぐぐぐ……お前には絶対に逆らわん……」


 そういってリーダーことロズウェルは街からどこかへ消えていった。



 さーて、僕も帰ろっと。

 もう寝れないなー。


 キャラに合わんことすると疲れるんだよ……

 はあ、肩凝ったぁ。肩ないけどね。




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