73話 - 回復なんか1回で全部できた方がいいじゃんか
「はい。じゃあこれが冒険者カード。もう常設依頼30回以上クリアしたも同然だから最初からFランクよ。Eに上がりたいなら討伐依頼を達成してほしいわね。この3枚のカードに手をかざしてもらっていいかしら?」
「手ですか?」
エステルが3枚のカードの上に手をかざした。
すると淡い青色にカードが光った。
「はい、じゃあこれで登録完了。魔力で個人を識別しているから偽造はできないようになっているわ。1枚はこのままこっちでもらうわ。これが無くしたときの控えね。で、2枚は携帯してもらえる?1枚は身分証明用に、もう1枚は何か事故が起きた時に他の冒険者がそれ持って冒険者ギルドに駆け込んでくれるのよ。だから2枚はセットね。」
「わかりました!」
カードにはエステルという名前と「F」というランクが記載してあった。
登録したギルドの名前なんかも書いているようだ。ここはポートル支部と書いてある。
「さて、これがさっきの海藻の買取代金と依頼達成料、登録料とネームプレートの代金1銀貨50銅貨ぶんを差し引いて6銀貨と75銅貨ね」
おお、67500円にもなった。
「随分おおいですね?」
「乾燥の仕方がかなり上手でね。とてもいい状態だったから割増よ。良かったわね。」
さてどうするか……。もっと依頼受けてもいいけどな。まだ多分午前9時とかだろうし……
『エステルどうしたい?冒険者活動はエステルの好きにすればいいよ。僕たちはのんびり生活したいだけだからな』
「そうですね。特に焦ってもいませんし。私も旅がしてみたかっただけでランクを上げて名誉を得たりすることに興味はないですから。では今日は町を見に行きませんか?」
『おう、それでいいぞ~』
≪なにかたべたいなぁ~≫
クラムはお腹減ったか。路銀手に入れたしせっかくだから町中で買い食いとかしたいよな。
「今日はこれでお暇します!受付のおねえさん、すこしお尋ねしたいのですが……」
「なに?」
「冒険者ランクのステータスの目安などって教えていただけたりしますか?」
おお、忘れてた。ナイスエステル。
「んー、強さは数字だけで図れるものじゃないからね。難しいけれど私の個人的な意見でいいかしら?」
「はい!それでも助かります!」
受付のお姉さん曰く
体力と魔力を除く能力の平均が
G10 … 一般市民と変わらない。
F10 … Gと戦闘力は同じ。冒険者に慣れただけ。
E20 … 少し戦闘技能がついてくる
D30 … 魔物をしっかり討伐できる
C40 … 強い魔物のリーダーを相手にできる
B50 … 町に出るほとんどの魔物を対処できる
A200 … 都市が災害に見舞われる魔物の討伐に抜擢される
S500 … 国が滅びかねない災害級の魔物の討伐に抜擢される
(目安は5人パーティー単位)
「だいたいこんな感じかしらねぇ。一般の冒険者が目指すところはBランクかしら?それ以上は目指してなれるものでもないわね。Aランクはギルド本部に、Sランク以上は国に認められないとなれないですから。ちなみにここのギルドマスターは元Aランクよ。今王都に出張してていないですけどね。暑苦しいおっさんよ」
それ以上は存在をしらないからよくわからない。とのことだ。
なるほどな。Bランクから上はいきなり戦闘能力がぐっとあがるんだな。
なかなかなれるものじゃないんだな。
ここのギルマスAランクだったんだ。ちょっと見てみたかったな。
暑苦しいおっさんて……
……でもこの感じだとエステルでSランクと同レベルか既に超えてしまっているのだが。
ドラゴン倒せるの?でも5人パーティーでってことだからな。
ひょっとしたら僕とクラムなら全力出せばいい勝負できるのかもしれないな。
僕らまだ低レベルなんだけどね……。
この世界レベルはあるんだけど努力値の方が大切な気がするんだよね。
僕とクラムまだレベル1桁だもん。
レベル100とかになったら本当に魔王になってしまう。
このままだとステータス何桁になるんだ?
まぁ僕らの場合加護とかもあるからなぁ……。
ちょっと普通の尺度でははかれないか。
聞いといてよかった。無意識に無双してしまうところだった。
「ありがとうございます!参考にがんばりたいとおもいます!」
「まぁあまり無理はせずよ。程々にね」
あまり頑張ってはいけないことが冒険者初日に決定した……
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冒険者ギルドを出てから、今は町をぶらぶらしながら買い食いをしている。
≪これおいしいね~≫
『串焼きうまい……タレがたまらん……グス。これ何で作ってんだろな?』
肉がうまい。基本塩焼きだったからタレなんて文明に触れたのはほんといつぶりか……
「これからどうしますか?」
『今日はこの辺物色して早めに宿で休めばいいんじゃないか?昨日寝てないしな』
「そういえばそうでしたね。興奮して寝ていないのを忘れてしまっていました。ではこのまま宿に向かいましょうか」
ギルドの前の道をしばらく宿方向に道なりに歩いていると瓶と葉の絵が描いてある看板の建物を発見した。
お、ここ薬師ギルドじゃね?なんかポーションっぽい絵の看板がある。
『エステル、ここによってちょっと僕のポーション売れるか聞いてもらえない?』
「すみませーん」
「はーい。いらっしゃーい」
中から優しい顔をした老人がでてきた。
「何かお探しかねぇ?」
「いえ、手持ちのポーションを買い取ってもらえるかと」
布袋(中)から瓶型の陶器(僕製)のクリーン水を薄めたものを取り出した。
さっき海藻とりだすときに詰め替えといたんだ。効果強すぎたらダメだと思ってかなり薄めて。
水龍さん若返るとかいってたからな…
「はいはい、ちょっとあずかるよ。効能を鑑定してくるからね」
そういうとおじいちゃんは陶器の瓶を持って奥に入っていった。
「売れるといいですけどね」
『いや、僕の魔法で適当に作ったやつだからね』
(ダッダッダッダッ)
「はぁ…はぁ…はぁ…こ、こんなもん買い取れんわい……」
じいちゃんそんなに走ったら血圧あがるぞ……
え?効能薄くしすぎたかな?回復効果とか見ながらこれくらいかなって……
普通だとおもうけど。微調整したし。HP500くらい回復する程度かな?
僕は無自覚にやらかしたりはせんのだ。
「ダメでしたか?」
「ダメなんじゃのぅて、このポーション……これはポーションなのか?聖水の浄化作用に解毒作用、ポーションとしての回復効果は中級ポーション並みか?上級ポーションやフルポーションとは言わんが……ただ回復以外のいろんな効能が入りすぎてこんなもん一般向けに販売できんよ……。せめて別々にしてくれんかのぉ……」
あぁ。全部詰め込みすぎたか……。
だって1回で全部回復できる方がいいじゃんか……
中級ポーションだけの効能で持ってきてくれたら銀貨10枚で買い取るって。
上級だと一気に飛んで金貨1枚。フルポーションは価格が付かない。
解毒ポーションなら銀貨5枚。聖水は銀貨8枚だそうだ。でも教会に持って行った方がいいと。
とりあえずまた考えるとして店から出てきた。
これでお金に困ることもなくなってしまった。
でも一気に販売したら目を付けられそうだしやめとこう……。
これからどうしよう……なんもやることない。
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宿屋についた。
今日は初めての町で刺激がたくさんあったなぁ。
ゆっくり休むか。
(ガチャ)
「すみませーん」
「はいよー。泊まりか?」(バシッ)
「お客さんだよ!もっと丁寧に話しなさいっていつもいってるだろ!」
小学校高学年くらいの男の子と女将さん?が宿の受付に立っていた。
恰幅のいい女将さんとやんちゃ盛りの男の子って感じだ。
旦那さんは……中だろうか?家族で経営してるんだな。
「すみませんね。一泊素泊まり銅貨30枚ですよ。魔物は一応厩舎がありますけどそのスライムくらいなら汚さないようにしてくれれば一緒に泊まってもらって大丈夫です。」
「ほんとですか!ではそれでお願いします」
「1食付きでお湯やろうそく、洗濯なんかも全部まとめて一泊銅貨40枚でやらせてもらいますよ?」
『いいんじゃないか?灯りもお湯も洗濯も作れるしできるから別にいらないけど。初宿だしせっかくだし全部まとめてつけてもらえば?経験にもなるだろ』
「食事は3食分つけていただけませんか?」
『別にいいのに』
「ダメです!」
「スライムにあげるんですか?うちとしてはお金さえいただければだいじょうぶですけど……。1食銅貨7枚もらってるんですけど全部込みにしてくれるならサービスで銅貨50枚にしときましょうかね」
『10日くらいまとめてとっとくか。部屋埋まっても困るしな』
「じゃあ銀貨5枚で10日行けますか?」
「10日ですね!ありがとうございます!ではこれが部屋の鍵です。2階突き当りの部屋です。夜から食事も用意しますのでまたあの星が沈む頃に取りにきてくださいな。洗濯物はその時に出してください。外に飲み水用の井戸があります。厠は外ですのでどちらも好きに使ってくださいね。それではごゆっくり」
はぁ……ちょっとのんびりするか。
明日からの相談だな。




