70話 - 初めての…魚人って獣人?
魔の森を出発してから3時間ほど……
クラムのシールドで小舟を覆って僕が風魔法で小舟を動かしている
体感時速100㎞程で走っているだろうか。これ以上は小舟が不安定で怖い。
出力はまだまだあげられるのだが転覆してびちょぬれになる危険性を負うこともないだろう。
辺りは真っ暗。
たまに魔物らしき魔力を感知するのだがスピードについてこれないので居て居ないようなもんだ。
『そろそろ魔の森と獣人大陸の中央部くらいまで来たかな?』
「思いの他平和ですね~」
≪パパーあそこになにかいるよ~?≫
ん?一旦ウィンドオフ。
ボートが緩やかに停止する。
『エステルこれもって』
一応オールも作っておいたのでエステルにそれを渡す。
クラムが何かいるといった方向に注意深く暗視付きで視線を向けると……
あれは……
と、その時大きな音とともに閃光に覆われた。
(ドーーーン!!)
「キャッ」
≪まぶしいい~≫
敵か!?フラッシュバン!?シールドっ!
「おーい。嬢ちゃんかぁ~?そーんなところでなーにしてんだぁ~?あぶねぇぞ~」
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そこにあったのは小さめの漁船だった。
僕たちの小舟を漁船に縛り付けて上がらせてもらった。
「すまんなぁ、おどろかせちまった。この辺りは魔の大陸との境目で他の海から色んな魚が来るもんでよ?光に集まってくる魚を捕まえとったんだわ。」
「おにいさんは漁師さんなのですか?」
「おにいさんって?はっはっは。わしはもう52だ。ポポって名だ。よろしくな。で?お嬢ちゃんはこんなところでそんな小舟でなにしよったんじゃ。あぶねーぞ。スライム抱えてテイマーでもしとるんか?」
ポポさんは筋肉隆々の逞しいおっさん……って感じの人だ。
この人はどういう種族だ?ぱっと見人間に見えるけど……
「あ、はい。私はエステルといいます。この子たちは家族のようなものです。」
お、特に魔物抱えてても変な顔されない!
こんなこともあろうかとエステルと打ち合わせはしている。
「冒険者になろうと田舎からでてきたのはいいのですが迷ってしまいまして……。お腹が空いたので釣りの為に小舟を借りて海に出たはいいものの流されてしまったのです。沖で一度転覆してしまって荷物などは無くなってしまい途方に暮れていたところでした……」
「そりゃ難儀じゃったなぁ……。もうこれで漁はしまいにするから港まで送っていってやろうか?」
お、優しい人と出会えたみたいだ。これはラッキー。
人がいた方が街にも入りやすい!
ほら、やっぱ小舟で来て正解だったでしょ?
海上凍らせて歩いて来てたら魔王の襲来かとおもって逃げられてたわ。
「嬢ちゃんは人間か…?こんなところでめずらしいのぉ。」
「あ、私はハーフエルフです!ポポさんは……人間ではないのですか?」
「わしゃ魚人じゃ。鱗があまり見えるところにないんでよく間違われるがな。背中や腕には鱗がはえとるよ。ほれ。獣人の特色は個々によって色々じゃからな。体中毛が生えとるやつもおるし、わしみたいによく見んとわからんやつもおるぞ。獣人みたことなかったか?」
ポポさんが作業着?の腕をまくってくれた。
ほんとだ。水色の鱗が二の腕から肩の方にかけて生えている。
人によって様々だってことだな。
獣人国にはいってさっそく獣人に出会えた!魚人も獣人あつかいなのかな?
でもエステルは別種族だが大丈夫かな……?
エステルはとりあえずハーフエルフってことにしとこうと話し合いで決まった。
ハイエルフはかなり少数民族みたいだから足がついてもこまるしな。
「エーデルフェルト」って苗字も秘密だ。ただのエステルでこれからは通す。
あと、ぱっと見エルフというよりは人間に見えるからな。
ちなみにハーフエルフもあまりエルフからはいい顔はされないらしいぞ。
他種族の血が混じった混じり物扱いをうけるそうだ。
あいつらほんとに種族差別の塊だな。
というよりはエルフ至高主義って感じか。
人間でもよかったんだが……
多分エステルは今後見た目全然変わらないだろうしな。
「えっと……大丈夫でしょうか……」
「何がだ?あー。種族差別がどーのとか言う話か?」
「はい……。エルフにはあまりいい顔をされなかったので……」
「あぁ。嬢ちゃんハーフエルフだもんなぁ…。それでこんな獣人国の隅っこまで逃げて来たんか。」
「そうなのです……」
「この辺りは国境から随分はなれとるでな。国境近くまでいくと他種族に苦しめられたやつから嫌な顔されるかもしれねぇが。それに他種族の冒険者は獣人国にもちらほらおるぞ?わしらの町ではだーれもきにしとらん。そもそも獣人は強い弱いで争うことはあるが種族になんぞ興味ないやつがほとんどじゃ。そんなこと言っとったら魚人と他の……例えば犬獣人も別種族っていわれりゃそうなっちまうだろ?あからさまに種族差別するのは人間やエルフくらいじゃの。それにハーフエルフがなんだのいうのはエルフだけじゃな。わしらからみたらなんも変わらんよ。のんびりしていくとええ。」
「本当ですか!それでは是非!お礼は……」
「いらんいらん。嬢ちゃんが稼げたらまた魚でも買ってくれたらええよ。どの道もう帰るつもりだったからの」
はぁ。なんかこの世界に来てから碌な人に合わなかったからすごい和むわ。
普通に話せるってすばらしいな……
「冷えただろ?ホットワインでも飲むか?あ、嬢ちゃんまだ子供か。まぁアルコールしっかり飛ばせば……」
「ふふ。私はもう成人してますよ。23です。いただきますね♪」
エステル23だったんだ……。思ったより若かったな。
数百歳でもおかしくないと思ってた。
年齢聞くのよくないかなってずっと聞かなかったんだよね……
『エステルって23だったんだな。でも1000年生きるハイエルフって考えると成長はやいよな?赤ちゃんでもおかしくないくらいの年じゃん』
「そうなのです?ハイエルフもエルフも成人するまでの成長速度は人間となんら変わりませんよ?成人は18です。成人してから老いが緩やかになりますね。それに100年も子供の姿だったら生きていくのに困ってしまいます。ふふ。」
おぉ、たしかに……。なんか前世の常識でそういうもんかなって思ってた……。
そう考えると生まれて100年幼児の姿っておかしいよな。
むしろ外敵に対応するために成長を早める進化をする生き物が多いくらいだからな。
じゃあエステルが幼くみえるのは本人がただ童顔だっただけなのか……
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ポポさんの漁船で港へ連れていってもらうことになった。
この船ってどう動いているんだろう……。
エンジンとかガソリンとかこの世界にもあるのかな?
「この漁船はどうやってうごいているのですか?」
「お、こりゃ魔道具だな。嬢ちゃん魔道具みたことないんか?」
「はい、初めてみました。」
「ダンジョンの魔物からは魔石がとれるんじゃ。その中に魔力を封じ込めれば対応した魔法がでるの。この魔石には魔導士様に詰めてもらった風の魔力が入っとるでの?スクリューをそれで動かしとるんじゃ。いやー高かったぞ。全財産はたいてボロボロの中古を手に入れたんじゃ。」
ダンジョンだと……?そんなものがあるのか……。
魔石は電池みたいなものか?
「また嬢ちゃんが冒険者として強くなったらダンジョンに行ってみるとええよ。魔石は高額で売れるでの。ただ弱い魔物からは小指の先程の魔石しかとれんから一回だけ火をともせる使い捨ての着火道具くらいにしかつかえん。買取価格も銅貨1枚になるかならんかじゃな。大きい魔力を蓄積できる魔石を落とす魔物はそれ相応に強いからあまり無理はせんことだ。この魔道具に使われている魔石はC級魔物くらいのものじゃないかの?一度魔力を込めてもらえば1月くらいは持つぞ。これくらいとってこれるようになったら食いっぱぐれることはないな」
C級……ってたしかあのボアより弱いくらいじゃなかったか……?
まだよく基準がわかってないけど……あいつB級って……
「はい!また挑戦してみたいとおもいます!」
「それにしても荷物全部なくしたっていってたか?冒険者カードとか身分証もか?」
「はい……全て……」
「嬢ちゃんはまだ冒険者登録して間もないんじゃったか?」
「はい、まだ特になんらかの依頼をこなしていたということはないです。逃げてくる時、街に入る際の身分証が必要だったのでそれ代わりにしていただけですので。」
「それならもう新規登録のほうがええな。情報を引き継ぐのには金がかかるから実績を引き継いで再発行になると確か銀貨5枚はかかるぞ。また最初からでええなら銅貨50枚ですむからの」
情報引き継ぎが必要なら5万円。
要らないなら5000円、か。
……どっちみち足りない。
エステルがずっと貯めていたお金も持ってきたんだが。
銅貨30枚程しかない……こうなるなら集落ですこし資材売ってもらってた方がよかったか……
ま、まぁなんか港町でも資材売れるだろ!一応魔の森で討伐した魔物の素材いれてるしな!
オーガの角とかオークの肉とかなんか売れるはずだ!たぶん……
「冒険者ギルドは今から行く町にもありますか?」
『あぁ、どこにでもあるぞ。あまり栄えてないけどな。そんな大物を倒すような依頼がはいる地域じゃねぇからな。今から行く町はポートルってとこだ。そんな大きな町じゃないが漁業が盛んだから色んな種族がいると思うぞ。ほとんど獣人だがな』
『とりあえず港についたら冒険者ギルドさがすか』
「そうですね!私も冒険者に……たのしみです!」




