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62話 - 集落へ潜入

 結局あれから帰るまでずっと悩んでいたけど答えは何も出なかった。

 そりゃそうだと思う。正直八方塞がりだ。


 ハイエルフはエルフから虐げられているとエステルは言っている。

 だが、エルフに反抗すればもっと現状は悪化する。だから何もできないと。


 僕は今まで故意にこの集落の問題から遠ざかっていた。

 自分とクラムには関係のないこと。関わらない方がいいと。

 ただ、今僕にとってエステルはほおっておけない存在になった。

 加護が付いたからではない。それは言い訳だ。きっともうそう思っていたんだ。


 だからまず、自分の目で集落内をみてこようと思う。

 エステルを信用していないのではなく僕は僕がみて判断したいと思う。

 ずっと遠ざけてきたからまだ僕はこの集落のことを何も知らないんだ。


≪エステルまだいるかなぁ?≫


『どうだろ?オレンジの星が出る時間から仕事っていってたけどね?地球でいうところの朝九時くらいか?まだちょっと早いくらいじゃない?』


 クラムついてきちゃった。おしごとはおやすみ~!って。

 おやすみってあれね。地獄の花咲かクラム活動ね

 クラムもずっとエステルが気になっていたのに僕に遠慮してたみたい。


 まぁ僕らが話してるのは意思伝達か念話だし、

 正直僕よりクラムのほうがフィジカル強いんだよね。防御力5桁だもん。

 僕がクラムに気をつけなよっていうのが変なくらいだ。


 ただ絶対嫌なものを見させることになるからできれば一人で行きたかったんだけどね。

 でもそれはクラムの気持ちをないがしろにすることにもなるしな。


『そっと行くんだよ?誰にも見つからないようにね。魔力隠して隠密もしてる?』


≪わかってるよ~してるしてる~かんちもしてるからだいじょぶ~≫


 昨日この辺でエステルが止まったと思うんだけどな……あ、多分ここだ。

 エステルにも明日隠れて職場や集落を見に行くと昨日伝えておいた。

 だって黙っていったらストーカーみたいじゃん……


『多分エステルのお家ここだとおもう。中に魔力あるから』


≪どうする~?はいる~?≫


『はいんないよ。ここで待機。』


 クラムに持ち上げてもらってエステルの家が見える位置にある木の上で待機。


 始めて集落に入ったが、ほんとに自然の中にあるキャンプ場ってかんじだな……

 全て木造で1部屋か2部屋しかなさそうな小さな家ばかりだ。

 窓にガラスは使われていないらしい。高価なんだろうか。

 簡単な作りの木の窓が2つほどついている。

 上の方にあるツリーハウスみたいなものは監視用かな?


 ヤギみたいな魔物が柵の中で飼われている。

 チーズになる乳を出してくれてたのあいつかな?

 美味しかった……また食べたい……


 この世界の文明がどれくらいか気になるな。

 でも女の子の家に忍び込んだり中をのぞく趣味はない!

 だから中は見てない。それはきちんと招待を受けてからにする。

 この集落では無理そうな気がするけど……


 とりあえず今日はそこがメインじゃないし……あ、出てきた。

 秘密ってわけでもないし意思飛ばすか。エステル以外には聞かれないし。


『お~い!エステルおはよう!今からついていくぞ!僕たちのことは気にしないでいつも通り働いてくれ!』


≪おはよ~エステル~≫


「お二方ともおはようございます!わかりました。いつも通りですね。お二方も気を付けてください!」


 さて許可はとった。そっとついていくか……。

 エルフとハイエルフの関係性をこの目で確認することがひとまず今日の目的だ。


 ・

 ・

 ・


 世界樹から100mくらい離れたところに他の家の5倍程ある木造の建物がある。

 作りはほぼ同じだがエステルがあそこに入っていった。多分あれが工場みたいなものだろう。


 世界樹の周辺では、落ちている葉や枝を回収している人が10人ほど……?

 朝露かな?陶器の瓶のようなもので水滴も回収している。魔力が溶け込んでいるんだろうか。


 世界樹はものすごくデカい。1日でも落ち葉などはかなりの量になるだろう。

 あと何かに記帳している人が3人……か?


≪パパ~どっちがどっちかわかんない~≫


 いやほんとに。すごく似ている。こりゃ同族っていわれるよな。

 視力を高めるイメージで……んんんん


 僕は元々視力がなく魔力で視界を得ていた。その後カニの視界がとんでもないので視空間認知というスキルで視界の調整をした。空間感知に統合されても下位スキルの機能が失われたわけじゃない。

 自分の魔力が届く範囲なら多少遠くにピント合わせたり視界の調整が効くんだ。さすがに千里眼と呼べるほどではないが……


≪スキル【望遠】を手に入れました≫


 ナイス!お、楽にできるようになった。


『クラム、魔力目に集めて遠く見るイメージ!望遠ってスキル覚えれる!』


≪むむむ~あ!ほんとだ~ありがと~!あ、パパ~?≫


『なに?』


≪んっとね~。おちばひろってるエルフはみみあんまりとがってないの~。なにかかいてるエルフはみみとがってるよ~?≫


 お!マジ!?そんな見分け方あるのか!

 ほんとだ……耳の形ちがう……。


 鑑定……うん。尖ってない方がハイエルフだ。エステル長髪で耳見えないんだよ。

 領主候補の時は聞き耳たてるのに必死でそこまで確認することに意識回んなかった。


 ハイエルフはほぼ人間と同じかな?すこし丸目の葉っぱのように尖っているといえば尖っている気もしなくないけど誤差。って感じ。たぶん人間に混じるともうわからない。

 エルフは完全に尖ってる。笹までいかないが人間との形は完全に違うな。


 よく見るとエルフの方が目が切れ長というか……シュッとした顔してるというかクール系というかそんな感じがするな。ハイエルフの方がおっとりしている顔つきの方がおおいかもしれない。これは僕の見たままの感想だから種族特性なのかどうかはわからん。


 そしてみんなとても若い姿をしている。長寿なんだなとおもうね。


 あと詳細見てる場合じゃないからざっと鑑定したけど、面白いことにハイエルフの名前はみんな「エル・エーデルフェルト」とか「ウル・エーデルフェルト」とかになってる。これたぶんみんな同じ血統が集まってんだな。エルがエステルの家族か?言ってた通りだ。


 お、会話が……

 ちょっと遠いな……目と同じように聴力も強化できないか!?

 魔力で音の振動を感じるんだ……空間感知があればできるはず…………


≪ スキル【聴力強化】を手に入れました ≫


 すると声が聞こえてきた……


 エ①「はやくしろ!ちんたらちんたら集めやがって。俺も好きでこんなことしてんじゃないんだぞ!はやく中に運べ!」


 ハ①「はいはい。もう……。いつも怒鳴ってほんとおつかれさまだねぇ。疲れないのかい?」


 エ②「劣等種が。お前らには我らエルフがこの集落を守る代わりに労働をするという義務があるんだぞ!そもそも我らが守らなければお前たちは魔の森の魔物によって滅びる運命にあったのだ!それを我が国王が慈悲深い事に同族のお前らに情けをかけこの集落の管理を世界に提案し守ってくださっているのだぞ!」


 ハ①「何が同族だい。同族っていうならその劣等種呼ばわりをやめたらどうだい?私らは戦いが苦手なだけなのにねぇ。世界樹の資材目的じゃないか。エルフがいなくなろうが他の種族がここにくるだけだろうに。私達は別に不要だろ?エルフの体裁を整える為に便利だから生かしてるだけじゃないか。」


 エ①「言わせておけば……」


 ハ②「まぁまぁ。僕が運びますから。これくらいで勘弁してもらえないですかね。時間がもったいないんでしょ?」


 エ③「お前ら。報告上げておくからな。まともに給金がでるとおもうなよ」


 ハ③「今だってあってないようなもんじゃないか。どうせいつも自分たちで採取したものを食べて過ごしてるんだ。もう勝手にしてくれ……」


 エ③「はぁ。うるせぇなぁいつもいつも。はやくおわんねーかなぁ……」




 ……しばらく聞いていたが、エルフがかなり怒鳴っているな。劣等劣等うるさい。他にも色んな怒号が聞こえてくる。すごい環境だな。ハイエルフをこき使っている感じか。やる気のないエルフの監視員とイライラしている監視員が二人。やる気のないやつはちらほらどこかに行ってすわってぼーっとしている。


 わかりやすいイメージとしては……刑務所のような感じか?あと確かにハイエルフを奴隷のように扱っている風にも見える。あれやれ、これやれ、はやくしろ、役立たずが……そんな言葉がエルフからずっと聞こえてきてイライラする。


 ただハイエルフ側がそれをもう相手にもしていないって感じだ。ちょっと煽ってるひともいたな?エステルのお姉ちゃんか?みんな若く見えるから母か姉かはわからんが……。まぁそんなことはおいておいて、なんかもう全体的にエルフに興味がないというか、すごい飄々としているんだ。とても違和感を感じる……。ずっとこれで慣れてしまってるんだろうな。諦めているとも感じる。こんな環境でずっと働いてるのか……。



≪いやなかんじだね~≫


『そうだな。なんか変な感じだ。建物の中も見に行こうか……クラムいやだったら帰りなよ?』


≪んーん。だいじょぶ~エステルたすけるの~≫


『そっか、わかった』


 そろそろ建物の中も見に行くか……




 あ、ちなみにクラムにも聴力強化はもちろん教えた。音の振動の概念を伝えるのが少し難しかったが割とすぐ飲み込んだ。絶対零度の分子振動の停止を教える方が大変だったからこのくらい……


『水ってゆらゆらしてるでしょ~?あれって実はすごく拡大してみると……分子って言う小さなつぶつぶで出来ててね~?実はそれがいっぱい動いて…』


 うん、本当に苦労した。でもクラムはすぐ≪そうなんだ~わかった~≫って飲み込む。素直だ。おっと話がそれたな。そんなこと考えてる時間じゃない。行かなきゃ。

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