50話 - えくすぷろ~じょん
”ぷちぷちさいくろん~”
(ゴオオオオオオオォオオオォオオオォオオォオオ)
クラムが右手(体)を掲げた。
すごい勢いの小さな竜巻が右手の上に滞留している。
(チリッチリッ)
巻き込まれた枝や小石が削れて消滅している。
こっわ!!なんだあの魔法!!
サイクロン、要するに自然災害を起こせるほどのエネルギーが30cmくらいの小さな竜巻にすべて収まっている。
不思議なことに回りにそこまでの風は巻き起こっていない。強風くらいのレベルだ。
周囲の風エネルギーすら魔法の中に収めてしまっているんだろう…
『そんな魔法……いつのまに……』
≪パパがおっきな魔法はダメだよ~っていってたからちいさくしたの~!≫
クラムが竜巻を掲げながらゆっくりボス狼に近づいていく……
その時、ボス狼の頭上の巨大な火球がクラムの竜巻にどんどん吸い込まれだした。
なんだなんだ!?魔法の制御がクラムの魔法に奪われだしているのか!?
≪クラムずっと魔法つかえなかったんだも~ん。クラムもとくいなんだよ~?≫
クラムさんこわい……目が笑ってない……
≪ずっとにげてばっかりだしさ~あ?≫
あれだけ大きな火球が全て吸い込まれ切ってしまった……
狼は呆然としている。
≪クラム火すっご~くきらいだしさ~?もぉ~イライラしちゃった~≫
クラムの手の中には……
温度が上昇しすぎて白く輝いた火炎の渦が静かに収まっている。
魔王か?魔王なのか!?
あれエネルギー量がえげつないぞ!!
(カタカタカタカタカタカタ……)
やばい!狼漏らしだした!!
もうやめてあげて!!ボス狼のHPは0よ!!!
ってか……白炎って……
風と火の複合効果と圧縮レベルがやばすぎて魔法が光り輝いてるよ!?
クラムさん……
それ……どうするつもりですか……ね……
≪これ……かえすね~?≫
(ポイッ)
あかあああああああああああああああああああああああああああああああん
(ふわぁぁぁぁ)
推進力は全くない魔法なので狼にむかってふわ~っと飛んでいく……
すごい時間が長く感じる……
これが武の極みか……明鏡止水。
いやただの走馬灯か?
あれがどうなるのかを僕は知っている。
あれはバレット系の魔法を研究していた時だ……
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『うーん。バレット系の魔法強いけど石と氷じゃないとイマイチだなぁ』
≪そうだねぇ。水使うなら氷のほうがいいしね~。火はあんまりパワーないね~≫
『闇と光は弾にしたからなんやねーんって感じだしなぁ。やっぱ質量って大事だよな~』
≪風は~?≫
『んー?程々につかってみよっか?』
”エアーバレット”
(シュンシュンシュン)
『これ使えたら透明だしつよいんだけどなー』
≪そうだね~≫
よし!発射!(ぶわッ)
『おわっ』
≪うわ~クラム飛んじゃう~≫
そのわずか3センチの弾丸は近くの壁にぶつかると拡散していきなり突風を巻き起こした。
≪びっくりしたね~?≫
『そだなあ……でもその割に貫通力はあんまりないな。壁全然えぐれてない。当たると拡散しちゃうのか……』
≪別のつかったほうがいいね~≫
『そうだなぁ……それなら風は他の使い方するよなぁ~』
……ということがあったんです。
風は拡散能力すっごい高いんだあ。
だからあの「ぷちぷちさいくろん」は多分着地と同時に爆発的に拡散する。
そして火もきっとそれに乗っかるよね~。
だから風+火って……
あれ、要するに白炎になるほどのエネルギーが詰め込まれた……
ただの超絶に凶悪な爆炎魔法だからッ!!
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『くらああああああああああああむ!!!シールドをはやくううううううう!!全力!MP全部使い果たしてもいい!!あれ着地と同時に大爆発するからあああああ!!!』
≪わかった~!≫
”しーるど”ぜんかい~!
あれはさすがにこのシールドでも止めるの無理だって!!
僕もその外に氷の檻を!全力で分厚く隙間なくだ!!
”アイスプリズンッ”(ガキーーーーンッ)
やばいやばいやばい!!いそげ!頭をフル回転させろ!あれは多分クラムのシールドでも止めきれない!だから可能な限り僕が止めるんだ!でもこの外に張った氷の檻も多分すぐ溶ける!複合魔法は威力すごいしなおのこと火と風はどっちも相乗効果めっちゃあるし拡散力も継続力も高いし!!だからあの爆炎は少しの間続くはず!一瞬で溶ける氷魔法じゃ≪スキル【高速思考】を取得しました≫うるせえええええええええええ!!
しかもあの凶悪な爆炎魔法きっと他の木とか砂利とか下手したら地面もろもろいろいろ巻き込む!溶岩化するかもしれない!白炎って温度尋常じゃないんだぞ!?6500度だぞ!?あ、百花繚乱もじって「白炎繚乱」とかどうだあの魔法の名前?めっちゃかっこよくね?とかそんなこと考えてる場合じゃねえわっ!その溶岩になった地面も多分巻き上げてぶつかって氷が溶けて水になりだしたら水蒸気爆発とかの2次被害もでるかもしれない!なんだこれ地獄か!!?とりあえずもう時間ない!ずっと氷にエネルギーを使って凍結させっぱなしにしておくんだ!魔法を上書きし続けるんだ!!クラムの魔法で冷気はこっちに来ないはず!少しも溶かせない!!分子の運動を止めろ!僕氷属性レベルマックスなんだよ!行けるはず!というか行けてくれッ!!
絶対零度“アブソリュート・ゼロ”っ!!
(パキパキパキパキ)
温度が下がる程物質を構成する分子は運動を止めていく。
そして完全に停止する状態のことを絶対零度という。
摂氏-273.15 ℃。これが全ての物質の最低温度。
氷の温度がどんどん下がっていく……そして分子運動が完全に停止した。
その時!
ZUDOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!!!!
鼓膜が破れんばかりの轟音が森に鳴り響いたっ!
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ」
≪うるさああああああああああああああああああああああああああい≫
『アブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロアブソリュートゼロ・・・・・・・・・
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どれくらいたったんだろう……
魔力も尽きてしまった。
音が鳴りやんでしばらくたった。
魔法を解いてすこしずつ氷を溶かした。
外に出るのがこわい……外見たくない……
氷が解けて出られるほどの隙間が空いてから数分悩んだ……
諦めてそっと檻の外に出た。
ここ……どこだ……?
知らない……風景だ………
やっぱり地獄かな……
なにもない。
爆心地は半分溶岩になってドロドロになっている。
半径100m以上から緑という緑は消滅している。
森はもう燃えるだけ燃えてしまったようだ。
燃えたというよりきっと近くの木々は消し飛んだんだろう。
遠くに見える木々は黒炭になってもう燃えていない。
もちろん生物なんて皆無だ。
手下狼の倒した後の死体もない。
ボスは……きっと死の訪れに恐怖する暇もなく一瞬だっただろう……
≪すごかったねぇ≫
『くらむさああああああああん!!僕は君守るためなら魔王にでもなるっていったけどクラムさんが魔王になっちゃ意味ないんですよおおお!!ちゃんとおしえてなかったのがわるいんですけどおおおお!えくすぷろーじょんしちゃだめなんですううう!えくすぷろーじょんだけはほんとうにぜったいぜーったいきんしです!!封印!!ほんとにほんとにおねがいしますうううううううう勘弁してくださあああああああい』
僕は泣き叫んだ。
≪わかった~?ちいさくしたんだけどなぁ~≫
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特訓から初めての強敵戦。
狼のタッグめちゃくちゃ頭脳派で強かった。
かなり疲れたと思ってたけど……全部消し飛んだわ!!
結局クラムの魔法止める方が100倍しんどかった……
ちゃんと教えないと……表面上だけじゃなくて……
クラムの魔王エンド……絶対やめてね……
そうして「白炎繚乱」は名付けと同時に永久封印されました。
42話の伏線はここで回収されました。子供は吸収がとってもはやい!その分しっかり伝えてあげないとだめですね~!




