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302話 - 異世界の結婚

「むむむむむ……」


 あぁ……エステルの眉間に皺が……。

 せっかく結婚話は流れてくれたと思ってたのに変な繋がり方しちゃった……。

 生きる意味とか言われてもなぁ……。


「私もこれから努力は惜しまん!クロム殿に認められるようこの性格も改善しよう!どうだ!?」


 どうだっていわれましても、さっき散々断ったんだけどなぁ……。

 しかもエステルが婚約者だって言ってるのに目の前で……。

 そういうとこだよベル……。


 ……ただ、このコミュニケーション全く取れないそれって壮絶な人生を送ってきたからなんでしょ?

 家に来てからベルの話沢山聞かせてもらったからそれは重々理解したんだよ……。


 もうさすがに嫌いだとも思ってない。

 ちゃんと謝ってくれたしね。

 むしろベルが人生楽しめるように何か協力出来ればとは思うよ!?


 だがしかしBut結婚!

 無理だろ!!

 なんて言えば伝わるんだろ……。


『えっとね……。そう言ってくれるのはありがたいことだとは思うんだよ……。さっきみたいに嫌い嫌い言って断ることもしないけどさ……。えっと……』


「クロムさんはベルさんの事をどう思ってるんですかッ!?」


 えぇ……。

 どうって……。

 ずっと断ってたじゃん……。


『僕に結婚するつもりはないんだって……。……ただ、さすがに嫌いって何度も言ったことは訂正するよ。もう嫌いだとは思ってないよ。ベルも大変だったんだろうしさ……』


「嫌いじゃないのか?では可能性は上がったという事だな!今すぐでなくとも良い!結婚を前提に今後の付き合いを考えてくれ!」


 何言っても泥沼になるんだけど……。

 ストレートに断っても結婚を前提にって考えてくれって言われるし……。

 ……じゃあ周りから断るしかないか。


『あのね?さっきも言ったんだけど、僕エステルと婚約してるんだよね。側室も要らないし。相手は1人だけがいいんだよね』


 むしろ今世でまさか恋愛するなんて思ってもみなかったんだよ。

 僕のことを思ってくれる人が出来るなんて想像をしてなかったもん。


 この世界には一夫多妻や多夫多妻制度とかもあるのかもしれないんだけどさ……。

 あ、ちなみにエデンは多夫多妻制度で法案を進めてもらってる。

 どんな種族の人が来るかわからないからね。


「何故だ?家族が多い事に越したことはないだろう?」


『そんなことないって……。結婚には責任が伴うんだぞ……』


 ほら……。

 多分意見も合わないんだって。

 僕は守るものを増やしたいと思ったこと1回もないよ……。


「私の責任は私が取るぞ?」


『そんな単純な事じゃないんだっての……』


 それはベルの感想でしょ?

 僕にそんな甲斐性ないって……。


 結婚するならしっかりと一生幸せに出来る準備が出来てからにしたいんだよ……。

 だから今エステルの件に関しても婚約者で待ってもらってるんだよ……。


 家族を思う気持ち、恋愛が可能な心。

 それはフェンリルになった事で問題が無くなった。

 しっかり自分自身にもその感覚があるからね。


 スライムの時からちゃんと結婚に向けて進展はしている。

 でも、魔物の姿だと問題だらけなんだもん。

 今だって人との交流上手く出来ないしさ……。


 もしエステルが人とトラブルになったらどうするんだよ。

 気軽に仲裁することもできないじゃん……。


 だからフェンリルのままで今後の人生(?)を歩むなら……


 ①何とか人と最低限交流できるようになる。

 ②エデンだけで全ての生活が完結する。


 このどちらかが絶対条件になってくると思うんだよね。


 ……ってかそうだよ。

 僕フェンリルだっての。

 魔物だっつーの!


 なんでこんな話になってんだよ……。

 僕と結婚したいとかどう考えてもおかしいだろ……。


 ちなみにエステルにもここまでしっかりと話したことは無いんだ。

 あの子は真っすぐだから、好きな気持ちがあれば大丈夫って絶対言うんだもん。


「それは私も同意見です!私の責任は私が取ります!私と早く結婚してください!」


『なんでエステルそっち側!?』


 でもほらやっぱそうじゃん。

 だからこそ、僕がしっかり考えて守ってあげられるようにしないとな。

 って思うんだけど僕って保守的過ぎるのかなぁ……。


「エステル殿も同意見なのか……。エステル殿は私が妻になりたいと思っていることについてどう思っているのだ?決闘はもういいのか?私はエステル殿と家族になれるのは嬉しいぞ?」


「私は……


 ・

 ・

 ・


「私は……どうなんでしょう……」


『どう、とは?嫌じゃないの?』


「嫌ですよ……。私は私の事だけを好きでいて欲しいです……」


『そうだよね!?僕もそうだもん!エステルが他の人と結婚するって言ったら僕めっちゃ嫌だよ!?絶望するよ!?』


 せっかくこの世界で大切な人を見つけたのに。

 フェンリルになってようやく恋心が芽生えたのに。

 他の人と結婚するなんてあんまりだ……。


「……はい。私も同じです……」


『ってか僕エステルと婚約してるじゃん!普通断るでしょ!ありえないでしょ!浮気絶対反対派なんですけど!僕も絶対しないからね!命懸ける!!』


 ……あ、ベルがうつった。

 でもほんとにそう!

 前世からずっとそうなんだ。


「私もしませんよ……。クロムさんだけがいいです……」


 なんで1人を幸せに出来るかすら不安なのに他の人に手出しするなんてことが出来るのかわからん!

 そんな心のゆとりない!


 エステル1人で満ち足りているッ!!

 ハーレム展開なんて僕の物語に存在しないんだッ!


「……でも、こうなる事は分かっていた、と言いますか……。覚悟していたと言いますか……」


『わかってた!?覚悟って何!?』


「普通じゃないんです。この世界では……」


『……普通じゃない?』




 その後、エステルがぽつぽつ語り出した……。

 エステルは恋愛物語等をたくさん読んでいる。

 だから他の国に一夫多妻制がある事は知っていたそう。


 集落に居た時はエルフ国から流れてくる本を読んでたんだもんね。

 エルフ国は一夫多妻制だもん。


 エステルが言うには……

 僕の立場、力や魅力で他の女性が寄ってこない訳がないと最初から分かっていたそうだ。


 そんなことないっての……。

 なんか自分で言うの嫌なんだけど……。

 だから結婚を焦っていた側面もあるらしい。 


「もし、クロムさんが王様になったらどうします?貴族になったらどうするんです?お家事情でどうしても側室を増やさないといけない場合もあるじゃないですか……」


『ならないっての!地位なんかこっちから願い下げだって!』


「今ですらエデンではクロムさんは実質王なんですよ……。低く見積もっても領主ですよね?だからクロムさんの立場上どの国でも側室を迎えることは当たり前なんです。それを私の一存で止めるなんてことできません……」


 実質とか言われても……。

 エデンはみんなに作って貰うんだもん。

 僕は関係ない……。


『違うし……。ってかそんなこと言われても……』


「エデンにはハイエルフや他の皆の幸せも詰まっているんです。そもそも私が願ってハイエルフを助けていただいたんです。だからもし、クロムさんがエデンの為に側室を迎えることが必要になるなら……。私はきっとそれを望むべき立場だと……思います……」


 そうだ……。

 確か人間国ですら()()一夫一妻制なんだ。


 貴族は例外。

 領を守る為、跡継ぎを作る為……。

 そんな場合に必要に迫られ結婚して子を作らなければならない、ということになるそうだ。


 結婚したくなくても立場上必要になるって言うのがあるんだな……。

 この世界では一夫一妻制は当たり前ではないんだ……。


 エステルって僕よりすごく結婚に対して色々考えてくれてたんだな。

 僕そこは考えたことなかったよ……。


「……と、お母様に言われました」


『言われたからかいッ!』


「だって私は嫌ですもんッ!……でもエルノアお母様とエルン兄様が……。年明けに、エデンに結婚制度を作って欲しいってエルン兄様に一緒にお願いに行ったでしょう?」


『そうだね?』


「その後、お母様とエルン兄様と話し合いをしたのです……。クロムさんには今後、確実に側室を希望する者は現れると。その覚悟をしておきなさいと……。皆はハイエルフじゃないんですから、と言われました……」


 エルノアさんとエルンさんか……。

 この2人は確実にエデンのみんなの事を考えて話している。

 僕よりエデンについて詳しいくらいなんだ。


 僕の一存でどうのこうの言える問題じゃなくなってきた……。

 でも……そんなこと言われても……。


『…………』


「冷静にベルさんと話してみて思ったんです。ベルさんは不器用な方ですが皆の幸せを願ってくれています。それが凄く伝わりました。……ましてやハイエルフを自主的に救おうと思われていた方です。それなら……。ベルさんなら……とも思うのです。……1番悲しみが少ないのでは……とも思うんですよ……」


 言いたいことは分かるよ。

 ベルはコミュニケーション能力に不安がある。

 でもこれは多分時間が解決する問題だ。


 で、ベルはそもそもエデンの民を大切にしてくれる。

 更に人の中では有数の強さを持ってるんだ。

 安全面でもかなり安心……。


 万が一、側室を娶るのが必須になってくるような時が来るなら……。

 ベルが最有力候補になってもおかしくない。

 むしろベル以外に考えられないかもしれない……。


 どうすればいいんだ僕……。

 なんも言えねぇ……。


『そう、かもしれないけど……』


「はい……。そう、かもしれません……」


「クロム殿はそれを聞いてどう思うのだ?クロム殿は神の使徒だ。人の世界の事等あまり知らないかもしれないが、エステル殿が言っていることは事実だ」


 僕に前世の記憶があるとか元人間だとかその辺は特に話してなかったな。

 僕が神の使徒だからこの世界の事をあまり知らないって感じに捉えたんだな。


「貴族はむしろ望んだものと結婚できる方が少ない。人の世界を基準にして話すなら、クロム殿はエステル殿と恋愛をして結ばれることが出来るなら幸せだ。側室など尚の事だ」


 やっぱそういう考えになるんだ。

 恋愛結婚が普通じゃないんだ……。

 この世界中世だもんな……。


「それにクロム殿なら私に迫る危機など容易に取っ払えるだろう?」


『容易とは言わないけど……。まぁ、狙われてるのが一般人ならなんとか……』


 ってかそもそもダンジョンの奥地とかエデンで暮らしてたら一般人が来ることもできないし……。


「だろうな。私は側室でいい。正室に興味もない。2人の関係を壊すこともない。エステル殿と仲睦まじい関係になることが希望だ。それに、金も地位も持っている。クロム殿の側室にはこの上ない条件だと思うのだが……」


 そうか……。

 ベルと僕との結婚の話が全く噛み合わなかったのはここか……。

 僕の考え方がこの世界ではおかしいんだ。

 むしろベルの方が普通の事を言ってるんだ……。


「えぇ。それに関しては本当にその通りだと思います……。失礼な言い方をすれば……。クロムさんがもし他の人を側室にする機会が訪れる未来があるなら、絶対にベルさんが良いです。むしろ私が納得できない人が側室になるより、ここでベルさんを側室に迎えていただく方が……」


 エステルは正直な子だ。

 嫌なことははっきりと嫌だって言うんだ。


 だから、僕が他の人を娶る事は嫌だって言ってたのは本当。

 でも、逆にベルならと思う気持ちも本当だってことだ……。


『……。頭ぐるぐるしてなんて言えばいいかわかんない……。ちょっと考えさせて……』


 要するにエステルは僕が他の人を側室に迎えることに賛成はしていない。

 でも、せざるを得ないときが来る、と思っている。

 エルンさんもエルノアさんもそう思っているってことだ。


 そうなるくらいなら、ベルが1番良いって判断をして話しているってことだよね。

 確かに……。


「考えるのはもちろん構わない。ただ、万が一地位や名誉を欲する側室等を迎えてみろ。自分が正室になる為に、正室を毒殺する等と言う話も珍しくはないぞ」


『毒殺ッ!?嘘だろ……』


「やはり……。物語で読んだことがありました。それも何度も。むしろ定番の展開ですね……」


 毒殺が定番かよ……。

 確かにそんな話、僕も聞いたことある……。


「私は多分普通の毒では死にはしないと思いますが……。治療もしていただけるでしょうし……。でも、そのような方と家族になるのは嫌です……」


『僕も嫌だよ……。ありえないでしょ……』


 なんで結婚後に嫁同士の毒殺物語見ないとダメなんだ!

 それなら僕は生涯独身を貫くわッ!


「それなら……。少々不器用なベルさんの方が安心できます……」


「私はそんなふざけたことはしない。家族の一員に迎えて貰えるだけで感激だ。それ以上の望みは無い」


 そんなことまで考えてなかったよ……。

 ってか普通は考えないでしょ。

 地球の普通なら……。


 でもこの世界で、今後何年も生きていくことを考えた時に意味のわからん貴族連中の政略結婚とかに巻き込まれたら最悪だ……。


 ……僕はエステルだけがいいのに。

 王とか貴族とかにもなりたくないのに……。


 でも、もし万が一……。

 この先、エデンの皆を守るのに貴族や王になることが必要だって言われたらどうしよう……。


 もう……。

 わかんないよ……。


「のぉ……?静かに聞いておったんじゃが……。少々口を挟んでええかのぉ?」


『たすけて……。おばあちゃん……』

この小説を読んでいただきありがとうございます!



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