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300話 - 普通の生活

 ベルをダンジョン80階層に連れて来た。

 一瞬で環境が変わった事にベルはかなり驚いていた。

 ちょっと悪乗りで試しにアイテムボックスから布を出して投げて燃やしてみた。


「最終的に人々をこの階層に挑めるようにするのか?さすがの私も無理があると思うが……」


『いや、さすがにそれはしなくていいんじゃないかな……。精々20階層くらいまででいいよ……』


 ……ベルでも少し引いていた。


 だがしかしそんな場合じゃない。

 家の中から大声でクラムが怒っている声が聞こえてきている。


『エステルー!それそっちじゃないの!』


『す、すみません!えっと……』


 とりあえず呼び鈴を鳴らしても聞こえなさそうなので家に入った。

 するとエステルがクラムに怒られながら必死に片付けていた……。


『えっとさ。お客さん連れてきたんだけど……』


「ベルさんを連れて来たんですね!まだ重要な話が終わってないんですから!少し待っててください!」


『エステルはそんなことより早くかたづけてッ!』


「は、はい!……クロムさぁ~ん……手伝ってくださいいいい……」


『…………』


 家は壮絶だった。

 まずテーブルや椅子がぶっ飛んでいる。

 そして床に置いてあるカーペットやクラムが作ったぬいぐるみもそこらへんに散らばっていた。


 まぁ何とか食器は無事みたいだな。

 ちゃんと丈夫な棚に入って壁とつながってるからね。

 これクラムの魔法で作った家だからな。


 あれ壊れてたらクラムめちゃくちゃ怒ってたぞ……。

 修復不可能だからな。

 まぁギリギリセーフか……。


 さてと。


『クラマとおばあちゃんも手伝……』


「……先お風呂に入ってくる」


「わ、我もそうするかの!一緒に行くのじゃクラマ!」テクテクテク……。


『…………』


 2人とも絶対逃げただろ……。

 はぁ……。


「何やら取り込んでいるようだ。私はまた後日でも……」


『いいの!ちょっと待ってて!』


「わ、わかった!」


 これ片付ける方が面倒だな。

 やっぱ1回全部収納するか。


『”アイテムボックス”あ~んど”アポート”ッ』

 シュシュシュシュシュシュシュシュンッ。


 まずアイテムボックスを水平に開く。

 そして転送門(ゲート)を家具の下とアイテムボックスの上に開く。


 するとあら不思議。

 これでおしまい。

 簡単な仕事だった。


 前は転送門(ゲート)を同時に開いたりサッと使うなんて出来なかったけどね。

 最近転移の練習ばかりしてたからこれくらい朝飯前だな。

 今は夕飯前だけどね。


『終わった。クラム、僕も手伝うから一回アイテムボックスから全部出そうか』


『パパすご~い!わかった~!ありがと~!』


「助かりました……」


『エステルははんせい!もうつくってるからごはんのじゅんびして!』


「は、はい!すぐ!」


 そうそう。

 エステルは反省。

 でも今回僕にも原因があるから片付けの方は手伝ってあげよっと。


「クロム殿の家はいつもこんなに賑やかなのか?」


『いつも……。う~ん。どうだろ?エステルはちょくちょくクラムに怒られてるね。割とドジっ子だからたまに食器とか壊すんだよ。それ以外はうちは基本皆のんびり屋さんだよ。まぁ普通じゃないかな』


 うちの家族のカースト1位はクラムだ。

 クラムを怒らせたら皆平謝りだ。


 ちなみに最下位はエステルだ。

 しょっちゅうクラムに怒られている。

 実はちょくちょくではない。


 実質、家のママは絶対にクラムだ。

 エステルではない。


 むしろエステルが1番末っ子ムーブしている。

 ライムにママって言われる訳ないって……。


 頼むぞ僕の婚約者……。

 まぁ僕はそれ見て和んでるからいいんだけどね。


「これが普通の生活か……」


『あ、いや、訂正。普通ではないかも……』


「そうか。だが、見ていて微笑ましいな」


 何か懐かしんでるのかな。

 遠い目をしてる。

 まぁこんな状況で聞く話じゃないな。


『まぁ椅子出すからとりあえず座って待ってなよ』


「いや、私も手伝おう。ずっと1人旅をしているからな。食事の準備は慣れたものだ」


『ほんと?まぁお客さんだけど当人がそういうなら……。あ、その前に、クラム~!』


『なに~?』


『ベル、ほら。気持ちよくわだかまり残さずご飯食べたいでしょ?』


「あぁ。そうだな。謝罪させて頂こう」


 ……会長も多分クラムに対してどうこう言ったの申し訳なく思ってるんだよね。

 僕もわだかまり残したくないしさっさと謝ってもらおう。

 ごめんなさいは大切!


 まぁ多分クラムは急に謝られて意味わからんと思うけどね。

 すまんクラム。

 僕達の和解の為に謝られてくれ……。


「……と言う訳だ。方便とは言え、関係の無いクラム殿を巻き込もうとしてすまなかった」ガバッ。


『パパなんでおこったの~?』


『クラムが好きな……うーん。例えばライム……いや、ライムは勝つな。えっと……。じゃあココちゃんに攻撃するって言われたらクラム怒るでしょ?』


『ぜったいダメ~!おこる~』


『クラムは強いから勝っちゃうだろうけど、そういうことを言うだけでも良くないよねって話だね。勝てる勝てないとかじゃないんだ。クラムに矛先を向けたことに対して怒ったんだよ』


『わかった~!クラムもいわないようにするね~!』


 子供の教育ってこういう日常が大切だよね。

 1つ1つわかりやすく説明してあげないとな。


「勉強になるな!私も金輪際言わないと誓おう!」


 ……。

 いや、お前は分かれよ……。

 216歳児は笑えんって……。


『でもクラムとしょうぶしてもかてないとおもうよ~?石なげただけでかっちゃうかなぁ~?』


 ってか多分石投げる方が危ないよ。

 ご飯の為の魔物とかたまに倒すけど手加減ミスると爆散するもん……。

 そういえば僕、スライム生の最後の方から一切外で魔物狩ってないな。


 これは調整きつそうだなぁ……。

 最近浅い階層の魔物倒そうと魔力手振ったら爆散しちゃうもん……。

 もっと弱いんだもんねぇ……。


 まぁそんな話は置いておいて。

 

 ベルは勝てると思って勝負挑んだんじゃないとは言ってたよね。

 家族を狙われるぞって僕の勉強も兼ねて言ってくれたんだろう。

 後は家族が巻き込まれると僕がキレるってところを見せようとしてくれたのかな?

 そんなのは分かってるんだ。


 だから僕はもうクラムに謝ってくれるだけでいい。

 それで割り切る!


「勝てないことは重々承知だ。私はそもそも死ぬつもりで……」


『なんで~?いきてたほうがたのしいよ~?』


「いや、私は生きていて楽しかったと思ったことは……」


『はいはいはい!ストップ!子供に何を話しとるんだ!この子5歳にもなってないんだぞ!』


「そ、そうだったのか!申し訳ない!!」


 あまり人と関わったことないって言ってたもんな。

 特に子供なんかと関わることないと思うもん。

 子供と話すことが真っすぐに話しをする1番の練習になるかもね。


 ってかベルって美人って言ってたけど結構見た目怖いしな……。

 それに無表情だし、子供逃げちゃうんじゃなかろうか……。


『へんなの~?でもあやまってくれたしいいよ~?なかなおりね~!ベルはごはんなにが好き~?』


「そうか。感謝する。私はボア肉が好みだ」


『わかった~!じゃあボアもってくる~!』ふわ~。


 クラムは案の定怒らなかった。

 僕が家族に対して過敏な事にはちゃんと自覚してるんだ。


 よし。これでイライラは終わり。

 ここから先はちゃんとベルと話をしよう。


「いい家族だな」


『そうだろ?自慢の家族だ。じゃあ話してるうちにご飯の方はもう出来そうだからちょっと待ってて。ご飯食べてから話そうか』


「うむ。心得た」


 その後は僕がパパっとアイテムボックスから家具を取り出して元の配置通りに並べた。

 アイテムボックス様様だな。


 それからはすぐに食事。

 クラマとおばあちゃんもお風呂から上がってきて和気あいあいとご飯を食べた。

 ベルは度々懐かしそうな顔をしながらゆっくりと食事を噛みしめていた。


 とかのんびりしてるうちにクラムも眠くなって来たらしくお風呂に入って寝るんだって。

 エステルもまだお風呂に入ってなかったから一緒に入ってくるって。

 クラマは既に座ったまま寝そうだ。


 2人で訓練頑張ってるんだって。

 僕に早く追いつくのが目標らしいよ。


『ベルもお風呂入ってきなよ。広いし入れるでしょ』


「いっしょに入る~?」


「そうですね?話をする前に一度さっぱりしてからにしましょ?」


「いや、私は……風呂は大丈夫だ」


 まぁこの世界お風呂入る文化とかないしね。

 ちなみに一般の人は井戸から汲んできた水で体を拭いているらしい。

 王都には一応公衆浴場もあるんだけど蒸し風呂だった。


 お風呂って概念が無いわけではないんだけど貴族の娯楽的なイメージが強いんだって。

 水は貴重だそうだ。


 この世界魔法もあるし水魔石もあるのにシャワーする文化すらないんだよ?

 変な話だと思わない?

 貴重なMP使ってそんなことしないんだろうなぁ。


『そうなの?まぁ無理強いはしないよ。なかなかお風呂入る機会とかなさそうだしね。慣れないよね』


「いや、そうではない。私にはそれなりに機会はあるぞ。会合では旅館などに宿泊することもあるのでな」


『じゃあなんで入らないの?気持ちいいじゃん』


「単純に装備の類を一切脱ぎ捨てて裸になることが恐怖なのだ。周りは全て敵だと思って生きてきたのでな。それに私は体に竜鱗が少し生えている。一見すると蜥蜴の鱗にも見えなくはないが悟られるわけにはいかんのだ」


 そっか……。

 確かにいつ狙われるかわからないと思って生活してきたならお風呂って結構恐怖か……。

 それに竜鱗生えてたりしたら商人とかが気付いたりもする物なのかもしれないな。


『うちに血も鱗も狙う人いないよ。たまにはのんびりしてくるといいさ』


「そうですよ。気持ちいいですよ?」


「いや、だが……」


『僕のこと信用してるんでしょ?行ってきなって。なんなら武器持って入ってもいいし』


「剣はクロム殿が折ってしまったから無い」


 ……そうだった。

 僕、5億の剣折っちゃったんだった……。


『……何か変わりの剣を見繕いたいと思います、すみません……』


「あれは私が悪いのだ。それに剣は私の武術を隠す為だけに使っていたのだ。戦闘には特に必要ない」


『いや、隠す為なら尚の事要るでしょ。僕が作る剣に5億の価値はないと思うけど……。まぁなんか見繕うよ……。ってか風呂!風呂の話してんの!5億の剣の話してないッ!』


「……わかった。入ろう!私も信用の証を見せなくてはな!」


 テクテクテクテク……。


 行ったか。


『はぁ……。お風呂入ってきてって言うだけで重~い……』


「それほど今まで気の抜けん生活をしてきたんじゃろ。我には少し気持ちがわかるのじゃ」


『いや、僕もわかるよ。クラムと2人の時は周り全部敵だと思ってたからね。元々人の事信用してないしね』


 ……ただ、それが100年単位。

 そりゃ性格も歪んじゃうよ……。

 僕と信用できないってレベルが違うもん。


 いや、もはや歪んでるんじゃないな。

 ベルにとって狙われて生きてるってのが普通なんだもん。


「我は長い間隠れて過ごして居ったが、ベルは人の中で過ごすことを選んだんじゃろ?心を伏せて自分の事を守っておるんじゃろうのぉ」


『そうだろうね。そのうちそれが当たり前になっちゃったんだろうね』


 ベルは家族の復讐と自分のような人を増やしたくないって理由で会長になったって言ってた。

 ただ、復讐は終わっている。


 だからベルの会長である理由の残りは自分のような人を増やしたくないってこと。

 相当酷い過去を歩んできたんだろうな。

 普通に生活させてあげたいなぁ……。

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