298話 - 妻
「私の事を娶ってくれ!」
『ブフォッ……ゲッホゲッホ………はぁ!?!?』
「名案だろう!?それなら私の事を監視も出来る!それに私生活中もクロ殿が騙されぬよう私が協力しよう!私はずっと人を疑って生きてきたからもちろん独身なのだ!命は捨てないがクロ殿に差し出すならいいだろう?!」
なんでそうなった!
どんな曲解だよ!!
180度回って逆方向だろ!!!
『お前が独身だからなんだ!僕はお前に興味がないと言ってるだろ!!』
誰が好き好んで四六時中一緒に居たいと思うかッ!!
過労死するわッ!
「私はクロ殿のような御仁は好きだ!それに不老不死にも興味がない!最高じゃないか!これはもちろん本望だ!嘘じゃないぞ!」
『知らんッ!僕はお前みたいなやつ嫌いだッ!それに僕には婚約者が居るんだッ!』
真っすぐに気持ちを伝えてって言ったけどそうじゃないでしょ!
段階とかあるじゃんか!
ってかなんで僕そんなに好かれたんだ!?
どこで!?
ずっとめんどくさそうに話してただけでしょ!
「そうなのか……。では側室でもいいぞ?正室であることにこだわりはないのだ!どうだ!?私はクロ殿に惚れたのだ!私はもうクロ殿のような御仁と出会うことは一生無いと思うのだ!だから私と結婚してくれ!私は見た目は悪くないと自負している!」
『側室なんか要らん!僕は見た目に興味ない!ってか嫌だっつってんだろうがッ!僕の話を聞けよ!そういうとこだぞ!性格に難アリ過ぎるだろうがッ!』
「ふむ……。また何か間違えたのか。ではこの性格はなおす!見た目に興味がないことは同じだな!フェンリルでも構わんッ!そもそも結婚など遠の昔に諦めていたからな!一緒に生活が出来ることに憧れるのだ!」
間違いすぎだっての!
なんで信用するかしないかの話をしてるときに結婚って話になるんだよ!
あ、いや、こいつにとってはそれが名案だったのか……。
だからこそ絶対に合わないって!
結婚に対する価値観違いすぎるわッ!
『もうッ!とりあえず僕はお前のこと嫌いなんだって!わかってよっ!結婚なんか無理!絶対にないっていってんの!!』
「そんなに私が嫌いか?私は不器用かもしれんがクロ殿の事を私なりに精一杯考えているぞ?要望通り真っすぐに話すようにしたぞ?これの何がいけないのだ?」
『違うのっ!考えてくれてるのはわかってんの!会長の考え方が理解できないんだって!わからない人と一緒にいるの疲れるでしょ!?』
「そうか?私はこのような話をしたことがないから何もわからない。だがこれが新鮮で楽しいと思うのだがな?」
……ほらダメだ。
合わない……。
僕は家庭には安らぎを求めたいタイプだ……。
だから交渉決裂だっつってるだろッ!
って違う!
僕はそもそもこいつと結婚するつもりない!
交渉なんてするかッ!!
『お前が良くても僕は一緒に生活なんかできないっていってんの!ってか信用するしないの話してんのにぶっ飛ばして結婚の話すんなッ!』
「……では嫌いではないということか?」
だから今はまだ嫌いなんだって……。
ってか僕に嫌われることを狙って話してたんでしょ!?
僕がイライラする反応をみて僕の本質確かめてたって言ってただろ!
どストライクだよッ!
すっげー嫌いだッ!
演技だった……とか言われて割り切れるかっ!
だからどん底スタートなんだって……。
ダメだ。
ラチがあかない……。
『わかった!嫌いじゃない!いい人なのはわかるッ!でも結婚は諦めてくれッ!』
「……ふむ。では結婚を前提とした付き合いなら良いのか?クロ殿が疲れないよう努力をしよう!」
えぇ……。
なんでこいつこんな前向きなんだ……。
思わせぶりなことも言い訳もなにもしてないのに!
全力を賭して断ってるだろ!!
僕は何回こいつの事を振ればいいんだ……。
僕が真っすぐって言ったからかもしれないけどそういう意味じゃないって!
もう何も言えないって……。
全力で拒否する以外にどうすればいいんだよ……。
「応答がないと言う事は了承と言う事だな?」
『違うッ!勝手に話進めんな!理由なんてもういらない!僕はエステルだけでいいんだああああああッ』
あ……。
咄嗟に出ちゃった……。
「ふむ……。エステルとは冒険者B級の者か?冒険者登録を行いすぐさまB級に昇格。そこから一切依頼を受けていない謎の冒険者だ。注目していた。それがクロ殿の正室候補か。なるほど……。同名は冒険者には恐らく居ないな。まぁギルドに戻ってからちゃんと調べるが……」チラッ。
『あ、いや……』
「当たりのようだな。と、言う事はクラマ、ティアマト、がクロ殿の身内だな。クロ殿の本当の名はクロムではないのか?それともクラムの方か?双方スライムで魔物登録されていたと思うのだが……。いや、まだ他に登録していない魔物がいる可能性もあるか……ふむ……」チラッ。
僕らの情報全部知られてる……。
ってかエステル注目されてたのか……。
やばいな……。
もう話すの辞めよう……。
こいつのペースに乗せられちゃダメだ。
絶対要らん事言っちゃう。
『…………』
「クロム、が誠の名か……。視界が泳いでいるぞ?」
『それだけ深読みできるなら僕の気持ち察しろやッ!』
「業務的なことは慣れているんだがな。中々上手く行かないものだ。あっはっは!」
もう無理だ……。
僕のHPはのこり0だ……。
タスケテ……エステル……。
ボワンッ。
「ちょっとまってくださああああああああい!!」
「ん……?」
『え、エステル!?』
マジで来た!?
・
・
・
「クロムさんッ!結界をといてくださいいいいいッ!」ガンガンガンッ!
『え?あ、うん……。ってかそんな力で殴ったらこの結界簡単に割れるけど……』
どうやってエステルはここまで来たんだ?
あ、いや僕が40階層に魔石置いてたからそれ使ったのか……。
なんでこんなタイミングよく……。
ひょっとして以心伝心ッ!?
パリーンッ!
『エステルたすけてッ!もう、僕限界だ………』
ダッダッダッダッ。
「クロムさんッ!」
ガバッ。
え……?
なんで僕の胸倉掴むの……?
「色んな女性に撫でてもらってよかったですねえええ!クロムさああああん?」
がくんがくんがくんがくん……。
あ、頭が痛い……。
ただでさえ会長のと話で頭痛いのに揺さぶらないで……。
『な、何の、話です、か……?』
「3階層に向かう時の話ですうう!覚えてますよねええええ?」
『あ、あれ、は、その、方が、穏便に、です、ね……。それ、に半分、以上、男、だった………』
「いい訳ですかねぇえええ~?私は傷ついたんですうううう」
がくがくがくがくがくがく。
あ、やめて……。
体浮き出した……。
エステル力強いんだから……。
『す、すみ、ません……。次、からは、エステル、さんの、許可、制に、しま、すの、で………』
パッ。ドサッ。
『いでっ……』
パンパン。
「それならいいです。スッキリしました」
僕を助けに来てくれたんじゃなかったのか……。
僕にイライラして文句言いに来たんだね……。
「クロムさん、無事ですか?」
『無事?え、あ、うん……。精神的に参ってたけど……』
肉体的には今のエステルの揺さぶりが1番ダメージ入ったけど……。
「少し体を見せてください!」
『あ、大丈夫だよ?そこまでダメージ入ってないし、入ったとしても治せるし……』
「そういう問題じゃないんです!」
『あ、はい……』
そう言うとエステルは僕の体の毛をかき分けながら怪我の確認をしだした。
とりあえず今はされるがままで居よう。
会長は……。
あ、少し離れて様子見してるんだね。
今こっち入ってくるなよ!
話がややこしくなるからな!
「怪我はないみたいですね。安心しました」
『あ、うん。本当に大丈夫だよ。ありがとう』
「では、本題ですね」スタッ。
『本題……?あ……』
テクテクテクテク。
エステルが会長の方に歩いて行く……。
「冒険者協会会長ベル・ペンドラゴンッ!そこに直りなさいッ!よくも無抵抗のクロムさんを……。私の愛する旦那様を……よくもよくもよくも散々攻撃してくれましたねッ!!」
『…………』
終わった……。
ブチ切れてる……。
よくもよくもよくもって言ってる……。
もう、僕知らない……。
ボワン。
テクテクテク……。
『すまぬクロム……。我には止められんかった……』
『あ、おばあちゃんも来たんだね』
うっわ~……。
おばあちゃん髪の毛ぼっさぼさじゃん……。
しかも念話だ。
エステルに聞かれないようにだな……。
ヒソヒソ話そっと……。
(なにがあったの……?)
(冒険者に撫でられておる時からエステルがずっとイライラしておったんじゃ……。”やっぱり私も行きます!”と言って聞かんのを我が羽交い絞めにしておったのじゃ……)
あぁ……。
僕見られてたんだった……。
すっかり忘れてた……。
おばあちゃんが必死に止めてくれたんだな……。
(で、じゃな……。そこの女子が無抵抗のクロムを切りつけだして……。そこからのエステルは酷いもんじゃった……)
(あぁ、そうなるか……)
もうその先、聞きたくない……。
ミスった……。
見られてること全然意識してなかったんだもん。
僕でも家族が攻撃されてたら我慢できないよ……。
前に冒険者と喧嘩したときは僕の方に攻撃が飛んできただけでみんな怒ってたし、むしろよく我慢してくれたくらいかも……。
(庇う訳じゃないけれど、一応会長にも理由があったみたいだけどね)
(理由も聞いておった。じゃが理由があっても3時間無抵抗の相手に殺すつもりで攻撃するのはやりすぎじゃろ……)
いや、それは本当に。
途中で何回も終わろうって声をかけても全無視だったしな。
あれはあれで僕のことを苛立たせて自分に殺意を向けさせようって考えてたんだと思うんだけどね……。
会長は色々とやりすぎなんだよ。
凡人には理解できんよ……。
(我も相当腹が立った。我はエステルを抑える方に意識を割かれておったからエステルよりはマシじゃろうがの。エステルは憤りを通り越しておったぞ……)
(はぁ……。そっか……。僕も僕でずっと耐えてたから悪いんだけどね……)
(本当にの……。クロムが怪我をする訳がないと何とか宥めておったんじゃ。3時間も……。クロムも他にやりようはあったじゃろ……。さっさと決着をつけんか……。家はエステルが暴れてぐちゃぐちゃじゃ……)
(ご迷惑をお掛けしてすみません……)
僕も相当会長にはイライラさせられたけどさ……。
見てるだけだったエステルの方がイライラしたってことだな……。
「……貴殿が冒険者ランクB級のエステルか?顔を合わせるのは初めてだな」
「私が妻のエステル・エル・エーデルフェルトですッ!あなたとの結婚なんて絶対に認めませんッ!!」
「そうか……」
おいーーー!
なんでフルネーム名乗ったあああああ!!
それに……。
(結婚の件ちゃんと聞いてるじゃんか……。最悪だ……)
でも僕ちゃんと断ってたもん……。
後ろめたいことはない!
僕はエステル一筋だ!
(もうそれで限界に達したのじゃ……。もちろんそれまでの話の内容にも相当イライラしておったしの……。何故あの女子は逐一クロムを弄ぶような話し方をするのかのぉ……。こちらから見ておるとクロムが散々馬鹿にされているように見えたぞ……)
いや、それは本当にそう。
僕的には攻撃されたことよりそっちの方にイライラしてるんだもん。
真剣に話を聞いてたらそれは演技だ、とか確認の為だ、みたいな……。
会長の言わんとしてることは分かるんだよ……。
でも、あんな話し方されたらまともに話聞けなくなるって。
僕って普段あまり感情的にはならない方だと思うけど、それでももう話すのウンザリだったもん。
(最終的に、もうエステルの事も我らの事も知られておるようじゃったからの。その話を聞いた瞬間、もう隠れる必要もないと言って転移魔石を異次元倉庫から取り出したのじゃ……。闘気を出して振りほどかれたぞ……)
(おばあちゃん……。本当にごめん……)
(いや、我はよいのじゃ……。我もかなり腹は立っておったし、自制しておっただけじゃからの。もう行けばええと思う気持ちも無きにしも非ずじゃったわぃ……)
おばあちゃんはいつも止める方に回ってくれるからな。
本当に大切にしよう……。
(それにクラムとクラマはおらんし……。クラムがおれば結界を張ってもらったんじゃが……)
(……いや、そうはならないと思う)
(……冷静に考えるとそうじゃの。我らだけでよかったのぉ)
クラムがいたら確実に悪乗りする。
あの子は割といたずらっ子だ。
もっと悪化してたはずだ。
”エステルいけいけ~”って聞こえてくるようだ。
ってかその前にクラムも怒ってるかな多分……。
クラマは……うん。殺す。
確実に仕留めに来る。
それも無言で。
あの子が怒ると一番やばい。
容赦ないもん。
よかったな会長。
お子2人が居なくて。
命拾いしたな……。
「当たり前ですッ!初めて人を殺めたいと思いました……。これほど怒りが沸いたのは初めてです……」
お子が居なくてもアウトだったらしい。
会長すまん。
また来世で会おう。
その時は少しくらい仲良くなれるよう努力してみるよ。
(やばいじゃん。二ヴルヘルムの件越えしちゃってるじゃん……)
(じゃろうのぉ……。序盤の戦闘についてもスマホの画面越しに見ておる分には相当酷かったぞ……。一方的に嬲られておるように見えた……。まぁクロムはそれでも平気だったんじゃろうがのぉ)
(まぁ……。僕は撫でられてるくらいの感覚だったんだけどねぇ。僕の体感と画面越しに見てるのじゃ全然違うか……)
(画面越しに見るのも考えものじゃの……)
「使徒の伴侶だ。見ていても不思議ではない、か。言い訳はしない。煮るなり焼くなり好きにするがいい」
言い訳しろやああああ!!
変な部分でさっぱりすんなよおおおお!
さすがに僕のことでエステルにそんなことさせたくないなぁ……。
僕が止めるか……。
「でも……」
「なんだ?」
「貴方はハイエルフを助けようとしてくれたのでしょう?」
「貴殿に秘密にすることはないだろう。そうだ。まだ何も動けていないがな」
ちゃんと話を聞いてたのは聞いてたんだな。
エステルにとって一番重要なところだったからな。
「それなら、決闘に格下げして差し上げます!クロムさんと結婚したいのなら私を倒しなさいッ!殺しはしませんッ!仕方なく、ですからね!」
『はッ!?待て待て待て待て!!僕は会長と結婚なんかしな……』
「クロムさんは黙っててくださいッ!」
『ハイッ!』
僕が口を挟んじゃいけないようだった……。
黙って見とこ……。
「それとこれと何の関係がある?私はきちんと裁きを受けるべきだ。それに決闘はしない。使徒の伴侶に勝てると思う程自惚れてはいない」
何故に自分からやられに行こうとするんだッ!
会長の考えてることがわからん……。
「関係あります。私がハイエルフなんですから……」
「な……。それは、誠か……?」
あらら。
言っちゃったか。
言おうと思ってたからフルネーム名乗ったんだな。
考え無しじゃなかったってことか。
まぁいいか。
どうせ言うつもりだったし。
ハイエルフの事はエステルの好きにすればいいさ。
この小説を読んでいただきありがとうございます!
モチベUPの為に評価、ブクマ、感想、レビュー等にぜひご協力をお願いいたします♪




