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271話 - 困るやつ。

「……ムさん!クロムさーん!起きてくださいー!」


 ガバッ!


『はっ!ごめん!寝過ぎた!』


「おはようございますクロムさん。話があります」


 え、話って何……?

 今はえっと……。

 昼の14時か。


 昨日は結局王様とかと深夜まで盛り上がって……。

 久しぶりの友達との宴会みたいになって明け方になって……。


 ってて。頭痛い……。

 結構お酒飲んじゃったなぁ。


 ”ウォーターエイド”。(キランッ)

 ん、スッキリした。


 朝までいたあの3人大丈夫なのかな……。

 クラマもまだ寝てるのかな?

 で、エステルがダンジョンに帰ってきたと……。

 ちょっと怒ってるよな……?


『えっと……。おかえりエステルさん。……エステルさんはなんで怒ってるんですかね?』


「昨日の夜にクロムさんにずっと電話をかけていたんです!おやすみのご挨拶をしたかったんです!」


『は、はい……。ありがとうございます?で、僕、なにか悪いことしましたか……?』


「で、って何ですか!電話が繋がらなかったんです!ずっと話し中ですよ!?私に秘密で誰と何してたんですかッ!」


 …………。


 秘密にしてないけども……。

 誰と何……って……


『いや、王様達と話してただけなんですけど……』


「朝までですか!?」


『あ、朝までですね……』


 エステルはムキになって朝まで電話を掛け続けていたらしい。

 僕はエステルに謝罪を続けた。


 話すことが沢山あったんだってとか……。

 急に電話かかってきたんだってとか……。


「朝までなら先にそう言ってください!」


『いや、だって急に電話かかってきたんだもん……』


「私だって話したいことがあったんですッ!」


『すみません……。次から善処したいと思います……』


 そんな話はこういう時にすべきではなかったんだろう。

 ボルテージが上がってしまった……。


『え、えっとですね。メールなら見れたと思うので次からは出来ればそちらにしていただければ……』


「声が聞きたかったんです!電話がよかったんです!」


『ありがとうございます?』


「ありがとうございますって何ですか!?クロムさんは適当に返事してますか!?」


『あ、そんなことないです。本当にすみませんでした……』


「そうじゃないんですうう!!」


 それからはずっとこれだ。

 だからもうダメだ。

 僕はギブアップだ。


 悪いことは悪いのだ!

 僕は全面的に降伏したいと思う。

 こういう時はエステルさんの電話を取れなかったことに対しての謝罪をすべきなんだ。


 なるほど。

 スマホを作るとこういうことになるのか……。


 留守電とかの機能作ってなかったなぁ。

 作っとかないと……。

 僕の前世では日常的に連絡取る人とかほとんど居なかったからなぁ。


 トットット……。


「……はぁあ。……ママ。うるさい」


「あ!おはようございますクラマくん!ごめんなさい!つい熱くなってしまいまして……」


『クラマくん!助けてくださいッ!!』


「……なにを?」


 ・

 ・

 ・


 で、エステルさんにやっとのこと昨日のことを説明する時間になったわけです。

 クラマを介して。


「それならそうと言ってくれればいいじゃないですか……」


『言う暇なかったじゃないですか……』


「でも、ちょっとくらいクロムさんからも私と話したいって言って欲しいですよ……」


 あ、そういうこと!?

 えっと……。


『僕もエステルが居なくて寂しかったよ?いつでも話したいと思ってるよ』


「そうですか、ふふ♪じゃあ大丈夫です♪」


「……なにが?」


 いや、普段割と思ってるよ?

 僕が1番思ってるんじゃないかな……。

 僕って寂しがりだと思うんだ。

 自覚してるんだよ。


 スライムの時ですら1人になるの寂しいなぁとか思ったりしてたもん。

 フェンリルになってからその辺の気持ちかなり増幅されてるんだ。


 家族の誰かいないとすごく寂しいもん。

 今もクラムの声聞きたいなって思うしさ。

 ただ、昨日はちょっと内容にボリュームありすぎたと言うかねぇ。


『じゃ、逆にエステルさんは昨日なにしてたんですか?』


 そんなこといったら僕もエステルに妬いてたんですけど!?

 昨日どこかのハイエルフの男の子の家に泊まってるんじゃないかとか考えちゃったんですけど!


「私は昨日はお母様とクロムさんの……なんでもないです!!」


『え……。なんで途中で話すの辞めるんですか……』


「やましいことはありませんからッ!」


『気になるでしょ!クロムさんの、何ですか!?』


「秘密なんです!クロムさんの事だからいいじゃないですか!」


 えぇ……。

 秘密ってありなんですか!?

 エステルこそ誰と……あ、いやそこはお母様、エルノアさんなのか。


『エルノアさんとの話だったら秘密にすることないじゃないですか!』


「ダメなんです!いつか話すので待っててください!」


 いつか話すって……。

 理不尽だ。


 うーーーーーーーん。

 いいや、聞いちゃえ!


『じゃあどこにお泊りしたんですか!それは教えてください!』


「昨日ですか?私は孤児院にお母様とクラムちゃんと泊まりましたよ?」


『それなら大丈夫です!好きに過ごしてください!!』


「そうなんです?」


 まぁ別にエステルが男の子と過ごしてなかったならいいや。

 それしか気になってなかったし。


 家族と秘密の話なんてあるでしょ。

 ついつい気になってないことまで突っ込んでしまった。


「……ねぇ……パパ」


『はい!クラマくん!なんでしょうか!!』


 おっとごめん。

 白熱してしまった……。

 クラマくんがずっと白けた目でこっちを見ていた。


「……多分、みんなに電話したほうがいい」


『それはそうかも……。昨日王様から泣きながら電話かかってきたしな……』


「そうですね?おばあさまが朝から皆にスマホを配っていましたよ?皆そこでユーザー登録をしていたのでもう、電話かけられるんじゃないですかね?」


『そっか……。でも今日は僕ダンジョンの管理権限とって歩行訓練に……』


「先に電話ですよ?皆心配してますので」


『そうだね。じゃあそうしよっかな。今日は2人はゆっくりしてて?』


「この際クラムちゃんもおばあさまも待って皆で一緒に90階層へ行きましょ?明日には恐らく戻ってきます。私が連絡しておきますね?」

(ふぅ。墓穴を掘りました……。危なかったです……)


『あ、ごめんねエステル。助かるよ』


 ・

 ・

 ・


『あ、もしもしクロムですけど……。ココちゃん?元気?』


「クロムくん!心配してたんだよ!できるならもっと早く連絡してよ!」


『あ、いや出来なかったんだって……。ってかスマホ今届いたんだよね?』


「それでももっと早く連絡して!心配したんだもん!」


『す、すみません……』




『えーと。もしもしマリアさん?げん……』


「クロム様あああ!神は居なくなってしまわれたのかと……」


『い、いや。だから僕神じゃないって……。神は別にいるから……。新しく入ってきた孤児の子はどう?』


「ぐす。取り乱しました。孤児の2人は元気に……」




『もしもしエルンさん~。元気~?』


「してないよ!やることいっぱいだよっ!!冒険者デビューの話ってなにさ!?僕に先に話通してくれないかな!?あとクロム君はもう少し僕に細かく連絡を……」


『…………』




 みんな僕に言いたいことが溜まっていたようだ。

 ダメな上司ですみません……。

 報連相って大事だよね……。


 いや、絶対おかしいって!

 僕別に上司してるつもりじゃないんだけど!


 そこハイエルフと孤児たちの村だから!

 僕が王様とかじゃないの!

 みんな好きにやってっていったのに……ブツブツ。




『……えっと。もしもしエルノアさん?元気ですか?』


「はいはい。クロムさんですね♪私は元気ですが心配してましたよ?エステルがちょっと痩せてしまっていました……グス。これは責任を取っていただかなくてはなりませんね~」


『それについては本当にすみません……。責任ってなんですかね……』


「なんでしょうねぇ~?あ、そういえばエルンが戸籍管理の準備は終えていましたよ?ふふふ♪」


『えっと……。善処したいとは思っていますので……。ただ、僕ちょっと普通じゃないので、エステルさんにご迷惑をお掛けしても……』


「エステルは迷惑じゃないですよ?まぁ、クロムさんは少し個性的ですからね♪ごゆっくり考えてください、ふふふ♪」


 僕の事見て個性的って……。

 寛大すぎるでしょエステルママは。


 よし、話を逸らそう。

 まだ体、どうなるかわかんないしな……。


『それはそうと昨日エステルと何話してたんです?エステルに秘密って言われたんですけど……。秘密なら深追いはしないんですけどね。僕の名前が出てきたから気になって……。あ、言っちゃダメなことならいいですよ』


「あらあら♪クラムちゃんとクロムさんが作る料理を教えていただけですよ?エステルは料理が苦手ですからねぇ~」


『じゃ、別に秘密にすることないじゃん……』


 結局今日は1日みんなの話聞いてるだけで終わっちゃったな。

 まぁ起きてきたの昼過ぎだったし。

 でも、ハイエルフのみんなも孤児のみんなも元気そうで良かった。


 この世界って離れた人と連絡とる手段ないけどさ。

 取れるようになったらこうなるよね。

 出来るだけ細かく連絡取るようにしていこう。


 ・

 ・

 ・


【エステル視点】


 クロムさんが目覚めてスマホを作ってくれて思い出したんです。

 スマホには日時がしっかり記されていました。


 今日は6月の2週目。

 クロムさんとクラムちゃんの誕生日は6月末でした。

 時間がありません……。


 今日はずっと街の皆の様子を見ながら、2人の誕生日プレゼントにはどういうものがいいかを聞いていました。


 でもハイエルフには誕生日を祝う習慣なんてありません。


「肉でいいんじゃないのか?」

「木の実の盛り合わせでも作ったらどう?」


 食事関係はクロムさんとクラムちゃんに敵う気がしません。

 肉なんて誰でも獲れてしまいます。

 プレゼントに食事は向きませんね……。


「木彫りのアクセサリーでも作ってみるとか?」

「俺が細工教えてやろうか?エステルは不器用だからなぁ」


 クロムさんとクラムちゃん相手に木工や細工のプレゼントですか?

 木工スキルすらなくした私が……?


「そういうのは気持ちよッ!気持ちで押せば何とかなるわ!ガウルなんて何でも喜んでくれるもの!」


「気持ちはもう伝えてるんですぅ!それにクロムさんもクラムちゃんもきっと何でも喜んでくれますもん……」


 リトさんのアドバイスはざっくりしすぎていてよくわかりませんでした……。

 気持ち……。

 気持ちは伝わっていますよね?


 最終的に、結局お母様にたどり着きました。

 今日はお母様が居る孤児院の部屋でお泊りをすることになったんですが……。


 そこには先にクラムちゃんが居ました。

 孤児の子とスライムさん達と遊んでいたようです。

 もういっそクラムちゃんにクロムさんの欲しいものを聞きましょう。


「クラムちゃん……。クロムさんは何が欲しいと思いますか?」


『パパ~?ん~。からだとまほう~?』


 それは私にはプレゼント出来ないですね……。

 魔法は頂いているくらいなので……。

 体は……。クロムさんの体……ポッ。


『あとおさけかなぁ~?』


「お酒ですか。それなら作り方を教えてもらえれば……」


『あ、クラムはスライムさんのおうちつくってくるね~』ピューッ。


 クラムちゃんは行ってしまいました。

 お酒、うーん。

 作れなくはないかもしれませんが間に合いませんよねぇ。


「本人に欲しいものを聞いてもいいと思いますよ?必要な物をプレゼントする、というのも大切です♪きっとクロムさんは自分の事にはとても無頓着なので聞かれたことも忘れてしまいますよ?」


「そうですね……。もういっそ本人に聞いてみましょうか……」


 ・

 ・

 ・


「クロムさん、クラマくん」


『なに?』「……ん?」


「クラムちゃんの好きな物ってなんです?」


『かわいい物かなぁ?』


「……あまいの」


「ですよねぇ~。はぁ……。ではちなみにクロムさんは何が欲しいですか?」


『え、僕?何が好き、じゃなくて欲しいか?ん~、家族を大切にできる気持ちかな。でも、たぶんアンの体のおかげですごくわかってきたんだよなぁ。じゃ、後はみんなが要れば何もいらないかな?』


「…………」ずーん……。


 え!?

 なんでエステル凹んでるの!?


 僕本当に欲しい物ないんだもん……。

 今だって、クラマとエステルと食卓囲んでるだけで幸せだし……。

 これは何か言ってあげたほうがいいのかな?


『魔王が出てきても瞬殺できる力?ステータス1億とかダメかな?』


「…………」ずずーん……。


「……パパ。そういうことじゃない」


 え、ちがうの?うーん。


『あ!時間は?今日みんなと連絡とってみて思ったんだ!やる事いっぱい過ぎて全然時間足りないんだもん!連絡も滞っちゃうしさ。ってか全然スローライフできないし。僕は家族とのんびり過ごす時間が1番欲しいなぁ……』


「ずーーーん……」


『ずーんって口で言った!?なんで!?何がダメなの!?』


「物品でお願いできないでしょうか……」


 これって何かの参考なのかな?

 物品なぁ。


『強いて言うなら全身鏡……』


「作れるんじゃないです?」


『あ、うん。えーっと……』


 鏡の材料はガラスと水銀。

 ってことは砂と銀だ。

 それを溶かす高温が必要になると……。


 じゃ、土魔法と火魔法混合だな。

 土の魔素と火の魔素を集めるイメージっと。


 ……形も具体的にっと。


 サイズは縦3m×横5m。

 僕の体が写るようにしたいね。

 そうすればハチでも使えるはずだ。

 楕円形がかっこいいかな?


『”クリエイト鏡”』ブンッ!


『出来たッ!万能創作すごいっ!イメージと魔素でめっちゃ楽に作れたッ!』


「パパ。すごいね……」


「そうですね………すごいですね………」


『うち鏡なかったからね!みんな買って来ればいいのになぁ。あとは、クラムに木工の縁付けてもらって周りを豪華に装飾で仕上げてもらえばかっこいい鏡になるかな?せっかく作ったから割れない場所に置いてくるね?おっと。僕が壁にぶつからないようにそーっとそーっと……』ソロソロ……。




「……ママ。パパ行ったよ?」


「クラマくーーーーん!話聞いてください~!!」


「……パパとねぇねの誕生日?僕もたくさんもらった。……でも2人にプレゼントは無理」


「そうなんですうううう。ふえええええ……」


「……パパ、何も欲しがらないから」


「家族と過ごす時間って何ですか!100点の回答ですか!?うれしいんですけどプレゼントできないですよおお……。クラムちゃんに何をあげるんですか!?大体のもの私より上手に作っちゃいますッ!困ります~!!」


「……1つだけ考えがある。パパが寝たらアテナ呼んで」


「アテナ様です?」


「あとばぁばにも連絡」


「は、はい!わかりました!」


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