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172話 - クラムの一夜城


 魔の森の獲れたてオークはとてもおいしかった。

 クラマとクラムは無言でかぶりついていた。


「久しぶりに食べると全然違うものですね……すごく美味しいです……」


『アイテムボックス劣化しないんだけどねぇ。気分的な問題もあるかなぁ。すっごい美味しい。あと最近節約にあんまりオーク食べてなかったからなぁ。これキングだし……』


「そうかもしれないですね。ずっとここのお肉をいただきたいです……おいしい……」


 そのまま塩ふって豪快に食べたんだけどご馳走の味がした。

 一緒に獣人大陸でとったオークを食べ比べたんだけどもう全く別物だった。


 ステーキ肉とすじ肉を食べ比べているのかと思う程。

 うまみも、柔らかさも、脂の乗りも全てが違った。

 これ食べると……正直王都の肉は食べたくなくなるかもしれない。


 クルード……ちっ。の街なんか論外だろう。

 そう言えば、おっさんが領主になってあの街変わったのかな?

 最近近場の街みてないな?

 帰りはポートルに寄ろっと。


 いい晩餐だった。

 ワインいっぱい飲んじゃった。


『いやぁ……それにしてもおいしかったなぁ……』


『ずっとここのおにくがいいな~』


「……帰りたくない」


 そこまで!?

 でもクラマがここの家族で一番食糧事情に苦しんでただろうしなぁ。

 新鮮さと匂いのダブルパンチだったもん。


『さって、じゃあそろそろ寝ようか。魔物は気にしなくても危機感知働くし適当に倒しとくよ。あ、シールド何かに付与すればその必要もないかな?』


『クラムがおうちつくっていい~?』


『ん?お家作るの?まぁ無人島みたいなものだし……』


 適当に野宿するつもりだったんだけど……

 でも、ここって獣人大陸から一番近いところだしな?


『ちょっとまってね?じゃあ適当に作るんじゃなくてここに簡易拠点作っちゃおうよ。ここポートルから1番近いし。多分毎回ここに上陸するでしょ?しっかり建てなくてもいいけど場所だけ決めよ?』


 まだ眠くて仕方ないって程でもないしね。

 風呂入って寝るか、くらいの感じ。

 あ、お風呂作りたいな?

 じゃあやっぱお家あった方がいいか。


「そうですね?この浜辺にはずっと来ることになりそうです。潮風などもありますし、お家を建てるなら少し内陸の方がいいですかね?」


『潮風の良さもあるしね?港作るつもりでいいんじゃない?素材は土だし劣化はしないでしょ』


「それもそうですね?本拠を作るわけでもないですし」


 浜辺の1番奥。

 海からは500m程離れている少し岩で段差が上がった場所に家を建てることにした。


『クラムここでいいよー。手伝う?』


『れんしゅうしたんだ~!みてて~?』


 練習?なんの?


『”ふぉーとれす~”ッ!!』


 ズダンズダンズダンズダンッ!!

 ババババババババババ!!

 ドンドンドンドンドン

 ズダダダダダダ………





『「「………………」」』





 嘘でしょ……。

 あれ、僕数区画ごとに四角の壁を作って家組み立てたんだけど……


 1発で家出来て行くんだけど……

 しかもこれ……


『家じゃん!王都の家じゃん!』


「えぇ……しかも細部まで同じですよ……」


「……ねぇね……すごい」


 家がものの数分で出来上がってしまった……。

 木造の部分は白色の柱の様なもの……石の素材かな。

 ほぼ木材以外の部分は詳細部まで家と同じだ。


 屋根は緑色で……ってえ!?


『え!?なんで!?これ地魔法だよ!?』


「パパにつくりかたおしえてもらったよ~?てつとかなんでも~」


 え……。


『あ。これ……鉱石作る魔法かけ合わせてやったの?』


「そうだよ~?おうちほとんどこれでつくれるよ~?」


 そうか……

 鉄作れるのに石系の素材は作れるか……


「本格的に……家買う必要あったんですかね……」


「……ない」


『ちがうの!土地!土地を買ったの!!』


『おうちがんばっておぼえたんだ~えへへ~すごい~?』


 すごすぎるでしょ……

 いつの間にこんな練習したんだよ……


「中も作っているのです?」


『なかのほうがむずかしかった~!でもべっどはないよ~?ふかふかはできないの~』


(ガチャ)


 木の代わりに少し重くなった石のドアを開けた。

 でも、むしろ高級感が出ただけだ……

 木のところをクラムのアレンジで綺麗な石の柱にしているが……


 ただ劣化しなくなっただけ。

 むしろこちらの家の方が高くつくのではなかろうか……


「家具まで……」


『うん~いしでつくったよ~?』


「……こっち……お風呂」


 なんだと!?

 僕の力作!?


『おふろかんたんだったよ~?しかくにするだけだもん~!』


 浴場に駆け込むと僕が作ったものよりきれいな浴槽がそこにはあった。


『え……大理石……わざわざ海まで取りにいったのに……』


『パパもまほうでつくったほうがらくだったよ~?』


「クラムちゃん!ベッド持ってきたんですか!?」


『は!?』


 寝室に入るとクラムがいつの間にかいつもの場所に既にベッドをセットしていた。


『うん~!これつくれないの~!ませきはいっぱいあるよ~?つくったの~!これでんきのやつ~エステルおいてきて~?』


「は、はい……」


『いや……もう……制作関係は敵わんよクラムには……』


「……家……要らない」


「どこにでも住めるんじゃないでしょうか……」


『ちっちゃいおうちいっぱいつくってれんしゅうしたんだ~!つぎはべつのおうちつくろっと~』


『別のお家つくるの!?』


『まちのおうちいっぱいおぼえたよ~?』


 その後クラムに詳細を聞いた。


 間取りが完全に頭に入ればそれは作れる。

 ただ、建築のことがわかるわけではない。

 構造を1から考えるのは難しいらしい。


 でもそれはいっぱい家建てて真似したらできるからそのうちできると。

 クラム曰く簡単なことらしい。

 簡単って……。


 僕建築関係だけは本当にお手上げだったんだけど……。


『じゃあ、木以外の鉱石系の素材だったら覚えれば何でも作れるの?』


『ん~木でもたぶんつくれるよ~?』


『え!?それこそなんで!?』


『ほーじょーつかうよ~?でもまだむずかしいの~。もうちょっとれんしゅうする~』


 そこで豊穣がでてくるのか……

 すげぇなクラム……


 クラム曰く……

 普通に植物を育てるなら魔力と神パワー垂れ流しで出来るそう。

 真っすぐ伸ばしたり、植物の成長法則を変えることは一気に難易度が上がるそうだ。


 これがわかった経緯は……


 豊穣スモモが失敗してどうしても甘くしたかったらしい。

 あのすんげぇ渋い梅のようなやつね。


 成長段階で甘くしようとしてたんだって。

 全部甘くするつもりで張り切っている。

 今練習中だそうだ。


 それは是非ともやめて欲しい。

 あの渋いスモモで梅干し作れないかなって思ってたからさ。


 とりあえず、色々頑張っているうちに自分の好きな方に枝を曲げたりすることができると気付いたそうだ。


 そんなこんなでクラムの一夜城ができあがったのである。

 そして付与で僕のシールドを家に張った。


 さすがに魔の森湾岸部の魔物は全然はじけるから。


 しばらく使うだろうから魔力フルパワーで。

 もうすぐ回復するしね。


 あれ~なんかすごい快適だなぁ……


「……快適ですねぇ。空気感も含め王都の家よりこちらの方が落ち着くかもしれません」


「……うん……ぼくも……こっちの家が好き」


『わかる。すごい空気綺麗だし、人はいないし、ご飯は美味しいし。言うことなさすぎだろ……。絨毯とかベッドとかいっぱい買おうよ。多分クラムはこれからも色んな所に家つくるよ……』


『つくっていいの~?やった~!』


『みんなに相談してからだよ?あ、でも絨毯とか家具とかはもうクラムの好きに買っていいよ。エステルと行ってきな?』


『やった~!』


「やっと……お金の使い道が……」


『ダメだよ!これ家族の出費だから!全部みんなのところから出してね!!』


「はぁい……」


「……でも……ねぇねは……いつか全部作りそう」


『それはそうかも』


「そうですね……多分そうなります」


 たった一夜で魔の森の湾岸部はリゾート地に変貌を遂げたのであった。

この小説を読んでいただきありがとうございます!



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