6 君の瞳にホールインワン
日曜日の正午過ぎ、寛と航それに千春と美穂の4人は駅前を歩いていた。
二日前の金曜日、4人で昼ご飯を食べているときに週末の予定の話になった。みんな予定が空いていたので、今日は4人で遊びに出かけようと約束していた。
なにかに気づいた様子の千春が前を歩く男女を指さした。
「あれって真央じゃない?」
寛が千春の指さした先に視線を向けると、そこにはクラスメートの水野真央が大柄な男と一緒に歩いていた。
寛は胸がドキッとした。誰にも言っていなかったが寛は真央のことが好きだった。
「水野さんの隣を歩いている人って生活指導の松本じゃない?」
美穂が皆に問いかける。
男の顔を見れば、たしかに生活指導の松本先生だった。松本先生はシャツにジーパンという恰好をしている。体育教師の松本先生は学校ではいつもジャージを着ているから気づかなかった。
真央と松本先生は仲良さそうに話しながら歩いている。いつもは眉間に皺を寄せている松本先生も今日は穏やかな顔をしていた。
二人の仲良さそうな様子に寛は胸騒ぎがした。
そんな寛の心の声を代弁するように美穂が言う。
「あれって先生と生徒のいけない関係ってヤツ?」
そんなことあるわけない。真央が松本先生と付き合っているだなんて。
千春が美穂の考えを否定する。
「真央が松本先生と付き合ってるわけないよ。きっと真央はたまたま松本先生と会って、話をしているだけじゃないかな」
たまたま会っただけにしては真央と松本先生の雰囲気は親しすぎた。千春もそれがわかっているから声に力がない。
美穂が瞳をらんらんと輝かせる。
「本当に二人が付き合っていないのか、たしかめてみましょうよ」
「たしかめるってどうやって?」
航が美穂に聞くと、美穂は口の端を吊り上げた。
「後をつけるに決まってるじゃない」
「でも真央を疑うのは気分がよくないなぁ」
千春が表情を曇らせる。
美穂は皆の顔を見回した。
「でも後をつけてたしかめないと、私たちはずっと水野さんを疑ったままになるのよ? そんな状態で明日、学校で水野さんと普通に会話ができるの? 水野さんが松本と付き合っていないことを確認してスッキリしましょうよ」
美穂は二人が付き合っていることを期待している。それは不快だったが、美穂の言葉は寛たちの痛いところをついていた。
明日、真央と学校で会っても、どんな顔をしたらいいかわからない。一番困るのは真央と親しい千春だろう。
真央と松本先生が仲良く話しているのは事実だ。しかしそれだけで二人が付き合っていると考えるのは、いくらなんでも飛躍しすぎている。
家が近所だとか、真央の親と松本先生が親しいとか、きっとなにか拍子抜けするような理由があるに違いない。
「そうだな。疑いを晴らそう」
航は真央を信じている。それは寛も千春も同じだった。
そんなわけで寛たちは真央の後をつけることにした。
話し声を聞かれて真央に尾行がバレるとまずいので、寛たちは無言で真央の後をつけた。
長く尾行する必要はなかった。真央は松本先生と一緒にマンションに入って行った。
航が顔色の悪い千春に恐る恐る尋ねる。
「ここって水野の家なのか?」
「真央の家じゃないね。でも、まだそうと決まったわけじゃないよ」
千春の声は動揺しているのか上ずっていた。
そんな千春に美穂は容赦ない。
「じゃあ水野さんと松本は二人でなにをしているのよ?」
「まだ二人っきりだと決まったわけじゃないし」
千春が小さな声で、もごもごと反論する。
どうすればいいのかわからず時間だけが流れた。
沈黙を破ったのは航だった。
「千春、水野に電話してみろよ。なにかわかるかもしれないぞ」
「そうだね。電話してみる」
千春が真央に電話をかける。航たちにも聞こえるように千春はスピーカーにした。
「もしもし、真央? 今なにしてるの? 暇だったら私と遊ばない?」
「今ちょっと……はぁはぁ……運動してて……はぁはぁ……もう限界」
ベッドの軋む音が聞こえた。
千春が早口で真央に呼びかける。
「真央? なにしてるの? だいじょうぶなの?」
「はぁはぁ……ごめん、またね」
電話が切れた。千春は唖然とした顔でスマホを見つめる。
軋むベッドの上で真央と松本先生はなにをしているのか? 想像できる光景は一つしかなかった。
「これで確定ね」
美穂は口の端に笑みを浮かべている。この状況を楽しんでいるのは美穂だけだ。
「なんで松本なんかと」
寛は頭を抱えた。真央が松本先生に抱かれているところを想像すると吐き気がした。
そんな寛の動揺した様子に、美穂が目ざとく気づいた。
「あんた、もしかして水野さんのことが好きなの?」
航たちの視線が寛に集中する。しまった、と思った顔まで見られてしまった。もう言い逃れはできない。
「そうだよ。今の俺の気分は最悪なんだ。しばらく放っておいてくれ」
「寛、今は落ち込んでいる場合じゃないぞ」
航は寛に顔を上げさせると、皆の顔を見回した。
「先生と生徒が付き合っているのはまずい。もし学校にバレたら大変なことになるぞ」
「大変なことって具体的にどうなるの?」
千春が不安そうに胸の前で手を握る。
航は重い息を吐いた。
「先生はクビだな。生徒のほうは退学にはならなくても周りに変な目で見られるから、転校はさけられないと思う」
事態の重さに、寛と千春だけでなく美穂まで言葉を失った。
一番早く立ち直ったのは美穂だった。美穂は千春の肩を揺さぶった。
「千春は水野さんと仲がいいんでしょ? だったら水野さんに『先生と生徒が付き合うのはよくない』って、それとなく伝えてみたら?」
「そうだね。明日下校中に言ってみるよ」
千春は決意に満ちた目で両こぶしを握り締めた。
翌日の放課後、千春は下校中の真央に声をかけた。
「真央、一緒に帰ろうよ」
「いいよ」
真央は隣に並んだ千春に笑顔を向けた。
成功しますように。
千春は心の中で祈ると、真央の説得をはじめた。
「真央は『放課後は恋人』ってドラマは見たことある?」
「見たことあるよ。先生と生徒が恋に落ちるドラマでしょ?」
そう答えた真央の様子はいつもと変わりない。平然としている真央が、千春には知らない人に見えた。
千春は不安をごまかすように喋る。
「お母さんがアマゾンプライムでそのドラマを見ていたんだよね。先生と生徒が付き合ってることが学校にバレたらどうなるんだろうね?」
千春が真央の瞳をのぞき込むと、真央は考えるように視線を上に向けた。
「先生は懲戒免職だろうね。生徒のほうだって転校することになるんじゃない?」
真央は先生と生徒が付き合うと、それが大きな問題になることをちゃんと認識している。そのことが千春をさらに不安にした。
もし真央が問題の大きさを認識していなかったのなら、それを伝えればよかった。そうすれば真央は松本先生と別れてくれるかもしれなかった。
だが真央は、先生と生徒が付き合えば問題になることを知りながらも、松本先生と付き合っている。真央はそんなに松本先生のことが好きなのか。
「そうだよね。だから先生と付き合うなんてダメだよね?」
千春は願いを込めて、真央に言い聞かせるように言った。
しかし返ってきた真央の言葉は思いのほか軽かった。
「バレなきゃいいんじゃない? 禁断の恋のほうが燃え上がるし」
「燃え上がってんの?」
真央と松本先生の恋が燃え上がっているだって?
千春が食いつくように聞くと、真央は驚いた顔をした。
「聞きたいの?」
「お、教えてくれるの?」
まさかのろけ話をする気なのか? 先ほどバレなきゃだいじょうぶと自分で言ったばかりなのに、自分からバラしてしまうのか?
「知りたいのなら教えるけど、観る前に展開を知ったら、おもしろくなくなるんじゃない?」
そこでようやく千春は、真央がドラマのことを話していることに気づいた。
「なんだ、ドラマの話か」
燃え上がってるのはドラマの先生と生徒の恋か。
真央が首を傾げる。
「さっきからずっとドラマの話をしてるじゃん。ドラマの展開は話さないほうがいいよね?」
そんなことはなかった。ドラマの展開は気になる。真央と松本先生の恋もドラマと同じ展開をたどるかもしれない。
「私はそのドラマの続きを観るつもりはないから教えて。先生と生徒はどうなるの?」
「キスして最後までしちゃったよ。それで生徒が妊娠して、産むか産まないかで悩むの」
衝撃的な展開に千春は頬をひきつらせた。
ドラマだからショッキングな展開にしているのだろうが、いくらなんでもやり過ぎだ。
「すごい展開だね。そんなこと普通はありえないよね」
「そうかな? ありえないこともないと思うけど」
「えっ、嘘でしょ!」
まさか真央は松本先生の子供を妊娠しているのか?
千春は真央のお腹を見た。真央のお腹はいつも通りで、膨らんだりはしていない。
妊娠初期だから、まだ膨らんでいないのか?
「真央、あんた先生の子供を妊娠しているの?」
「私は妊娠していないわよ! 世の中にはそういう人もいるんじゃないのかって話。今日の千春はボケすぎよ!」
けっきょく千春は、松本先生と別れるように真央を説得できなかった。
翌日の昼休み、寛たちは体育館の裏に集まっていた。
ここなら他の生徒が来ることもないので、聞かれたくない話もできる。
「ごめん。真央を説得するのは無理だったよ」
しょんぼりした顔で千春が昨日のことを報告する。
航は千春の肩を優しく叩いた。
「しかたないさ。千春はよくやったよ。しかし、どうすればいいんだろうな」
誰もいい方法が思い浮かばず無言になる。
寛は松本先生のことを思い浮かべた。
眉間に刻まれた深い皺。濃いヒゲ。脂ぎった肌。
ぽつりと本音が漏れた。
「水野は、あんなおっさんのどこを好きになったんだろう?」
千春が言いにくそうに口を開く。
「真央、前に『同級生に好きな人はいない』って言ってた。『年上の人がいい』って。あんなに年上の人が好みだとは私も思わなかったけど」
「てことは、水野は俺なんか眼中になかったわけか」
寛は、ふっと笑う。そこまではっきり言われると、かえってスッキリした。
「そうよ、おっさんよ!」
美穂が突然叫んだ。
耳元で叫ばれた寛は顔をしかめる。
「急にでかい声を出すなよ。人が来たらどうすんだ?」
美穂は人に聞かれないように声を落とした。
「水野さんが松本じゃない他の人を好きになればいいのよ。そうすれば松本と別れるでしょ?」
「他の人って誰だよ?」
聞き返した寛を美穂は指さした。
「あんたよ」
「俺? なんで俺なんだよ?」
「水野さんは松本みたいな、おっさんが好きなのよ。それならこっちも、おっさんで対抗しましょ。鈴木、あんたは老け顔でとても高校生には見えない。あんたなら松本から水野さんを略奪できるはずよ」
「けっこう失礼なことを言われた気がするんだけど、気のせいじゃないよな」
寛の抗議の声を無視して美穂は続ける。
「鈴木はおっさんの格好をして水野さんに告白するの。年齢だって本当は45歳ってことにしましょ」
「45歳になんかできるわけないだろ」
俺は15歳なんだぞ。45歳だと親父より年上じゃねぇか。
しかし航は可能性を見出した。
「いや『30年前に高校を中退したが、もう一度高校生をやってみようと思った』って言えば可能だぞ」
航の言葉に力を得て、美穂がさらに続ける。
「鈴木は水野さんのことが好きなんでしょ? 水野さんを松本に取られたままでいいの? あんたのほうがおっさんだと証明するのよ!」
「そんなの証明したくねぇよ」
こんなときに、こいつはなにをふざけてるんだ。航もきっと怒っているに違いない。
そう思って航を見ると、航はいつになく真剣な目で寛を見ていた。
「寛、水野を助けられるのは、もうお前しかいない。おっさんになってくれないか?」
「あと何十年かしたら勝手になるよ」
寛は呆れた目で航を見つめた。
航までふざけているのか。真面目に聞いて損をした。
千春が寛の背中を焚きつけるように叩いた。
「変身ヒーローみたいでかっこいいじゃん。鈴木は女子高生を惑わせる悪い先生から、女子高生を助けるために、正義のおっさんに変身するんだよ」
「高校生がおっさんに変身って、変身っていうより呪いだろ」
航に続いて千春までふざけている。
これ以上ここで話し合っても意味がなさそうだ。真剣に考えているのは俺だけか。
寛はいらつく気持ちを抑えて、話し合いを終わらせようとした。
「もう少し様子を見ないか? 放っておいても自然に別れるかもしれないだろ」
「いや、俺は急いだほうがいいと思う」
そう言ったのは航だった。航は重い口調で続ける。
「あの二人は不用心だ。町中を二人で堂々と歩いて、松本のマンションに一緒に入って行ったんだぞ。近いうちに俺たち以外の学校関係者にもバレるかもしれない」
全員の胸に航の言葉が重くのしかかる。美穂の表情も今回ばかりは固かった。
みんなふざけていると思っていたが、真剣でなかったのは寛のほうだった。
「でも、俺がおっさんになって水野に告白するなんて、本気で言ってるのか?」
寛だって、真央と松本先生には別れて欲しいと思っている。
でもそのために自分がおっさんになって真央に告白するなんて、いくらなんでも無茶な要求だ。いくら真央がおっさん好きとはいえ、そんな告白が本当に成功するのか?
航はまっすぐに寛の瞳を見つめた。
「俺は本気だ。今の寛が水野に告白しても確実に振られるだろう。でも『寛がじつは45歳だった』ってことにして告白すれば、奇跡は起こるかもしれない」
航は苦しげな顔で寛に語りかける。
「無茶苦茶な告白だってことは、みんなわかってる。でも他の方法が思い浮かばないし、時間もないんだ。水野が転校してしまったら、水野に告白することもできなくなるぞ? お前が最後の希望なんだ。水野のことが好きなら、やってみないか?」
航の言葉は今度こそ寛の胸に響いた。
松本先生と付き合っていることが学校にバレたら、真央はみんなに変な目で見られたあげく転校することになる。そんな真央を寛は見たくなかった。
このままなにもせずに真央が転校してしまったら一生後悔するだろう。たとえ失敗したとしても挑戦したほうがマシだった。
「わかった。やるよ。やればいいんだろ」
寛はおっさんになる決意をした。
翌日の放課後、寛は教室で真央を待っていた。
寛しかいない教室に、ゴルフのスイングによる風切り音が響く。
父親から黙って借りたゴルフウェアに身を包み、手には同じく父親から黙って借りてきたゴルフのアイアンを握っていた。
教室でゴルフのスイングをしている高校生なんて、きっと日本中を探しても俺ぐらいだろう。
おっさんについて考えた末、寛がたどり着いたのがこれだった。おっさんと言えばゴルフだ。
教室のドアが開いて真央が教室に入ってくる。真央を教室に呼び出したのは千春だった。
真央は不審者を見るような目で寛を見た。
「鈴木なの? なにしてるの?」
「見てわからねぇのか。ゴルフの練習だよ」
「それがわからないから聞いてるの。なんで教室でゴルフの練習なんかしてるのよ?」
「この後、取引先と接待ゴルフなんだ」
接待ゴルフ。どうだ? 大人の響きだろ?
真央は手を叩いて笑った。
「接待ゴルフって、あんた高校生でしょ。それに取引先って、なによ?」
寛は落ち着いた目で真央を見つめた。
「水野、じつは俺は45歳なんだ」
真央の笑いが止まり、ぽかんとした表情になる。
「どういうこと?」
「俺は30年前に高校を中退してるんだ。でも高校を卒業しておけばよかったと、ずっと後悔してた。だから45歳でもう一度、高校生になったんだ」
真央が頬を引きつらせて笑う。
「そ、そうなんだ。なんかすごい老け顔だなって思ってたけど、そういうことだったんだね」
真央は寛が45歳だと信じたようだ。寛は心の中で泣いた。
しかしこれなら告白は成功するかもしれない。
「そんなことより俺は水野に話があるんだ。じつは俺が笹山に頼んで、水野を教室に呼び出してもらったんだ。俺の話を聞いてくれるか?」
「なに? キャディーを探しているとか? 私、キャディーはしたことないよ」
真央は否定するように手を左右に振った。
こんなにもふざけた格好の寛から告白されるとは、さすがに思わなかったらしい。
寛は決心すると、静かに口を開いた。
「いや、俺はキャディーを探してはいない。俺の話っていうのは――」
寛が告白しようとしたとき、教室のドアが勢いよく開いた。
ドアを開けたのは鬼のような形相をした松本先生だった。
松本先生を見て真央は眉を吊り上げた。
「お父さん、おどかさないでよ!」
お父さん? 今、お父さんって言ったのか?
教室の中に、ずかずかと松本先生が入ってくる。
「学校でお父さんと呼ぶな。学校では先生と呼びなさい」
「そうだった。ごめんなさい、先生」
真央が素直に頭を下げると、松本先生の表情がやわらいだ。
寛はわけがわからず真央に説明を求めた。
「お父さんって、どういうことだ?」
「松本先生は私のお父さんなの」
「でも水野と松本って苗字が違うだろ」
松本先生が寛をにらむ。
「離婚してるんだよ。悪かったな」
真央は松本先生の娘だったのか。
寛は松本先生から真央に視線を移す。親子のわりに顔は似ていなかった。
「お母さんに似てよかったな」
うっかりこぼれた寛の本音を、松本先生は聞き逃さなかった。
「鈴木、俺に喧嘩を売っているのか?」
松本先生が寛に詰め寄ろうとしたので、寛は松本先生から距離をとった。ゴルフクラブだけでは心もとない。
話題を変えて松本先生の気をそらそう。ちょうど聞きたいこともあるし。
寛は急いで真央に話しかけた。
「先週の日曜日に、水野と先生が一緒にいるところを駅前で見たんだけど、なにしてたんだ?」
「先生の家に向かっていたんだよ。先生はもうすぐ引っ越しをするから、引っ越しの手伝いをしに行ってたの。えらいでしょ?」
真央が胸を張る。
「お前は荷物を運び始めて5分もしないうちに、疲れてベッドで休んでいただろうが。あれでバイト料をよこせとか、よく言えたもんだな」
松本先生の怒りが寛から真央に向く。
怒りの矛先を向けられた真央はまるで気にしていなかった。それどころか、おどけて舌を出して見せた。
千春が真央に電話をかけたとき、真央の息が切れていたのは荷物を運んで疲れていたからか。そしてあのとき聞こえたベッドの軋む音は、疲れた真央がベッドに倒れこむ音だったのか。
真央と松本先生がベッドの上で変なことをしていたと勘違いした自分が恥ずかしい。
真央は松本先生に向きなおった。
「先生はどうしてここに来たの? 娘が恋しくなっちゃった?」
「違う。渡り廊下を歩いていたら、教室でゴルフの練習をしているバカが見えたから注意しに来たんだ。水野、ずいぶん楽しそうにこのバカと話していたみたいだが、どういう関係なんだ?」
「私と鈴木の関係? 気になる?」
真央が寛を見て楽しそうに笑う。火に油を注ぐ顔をしていた。
「私の口からはとても言えないな。鈴木に聞いてみたら?」
松本先生が寛をにらむ。瞳に殺すと書いてあった。
「鈴木、まさかお前、俺の娘に……」
「ちょ、お父さん、落ち着いて下さい!」
「俺のことをお父さんと呼ぶな!」
寛は真央と付き合っていないことを松本先生に説明した。それは納得してもらえたのだが、教室でゴルフの練習をしていたことで、たっぷり一時間も情熱的な説教を受けてしまった。
翌日、寛は航たちからお見舞いの品として、ゴルフボールをプレゼントされた。