1 こんな毎日が、いつまでも続いたらいいね。
第一章 一日目
窓から射し込む薄い朝陽が、閉じた瞼をチカチカと照らす。
ベッドから身を起こした僕は側で眠りこけているスノウの肩を揺らした。
「起きてよスノウ、今日は大忙しなんだ。知ってるだろう?」
眉をしかめながらも、未だ静かな吐息を繰り返すスノウを、僕はさらにと強く揺する。
「ん……起きた、起きたって……今日、キミは……」
薄く開いた瞳で起きかけたスノウだったが、だらしのない事に、また枕へと沈んでいった。
「オムレツが出て来なかったら、僕たち家族はみんなに恨まれるんだぞ。あの乱暴者のグルタに羽交い締めにされるかも知れない」
パチリと開いたグレーの眼差しが、僕の瞳を映す位の目と鼻の先に起き上がった。「仕方がないな……」そう言ってスノウは、不服そうに目尻を垂らしながら、ハネた耳の上の髪を撫でつけた。
立ち上がった僕にピッタリと続くように、スノウもまたベッドから降りて、二人して大きな伸びをした。
相変わらずの仏頂面で、窓から注ぐ外の陽射しに目を細めたスノウは、白銀の毛髪を風に流しながら、伏せた瞳で村を見渡す。
「あぁ、また始まった」
そうボヤいて窓際に立ち、物憂げに視線を落とす少年の姿が光に照らし出される。
「お父さんたち、帰ってくるかな」そう僕が問うと、スノウは振り返った。
「来るんじゃないの、戦争が終わったんだから」
抑揚も無く帰って来た声。さらにスノウは続ける。
「でも不思議だよね。実体の無い霧の魔女にトドメを刺せたかなんて、誰にもわかりゃしないのに」
子どもながらにやさぐれた感じのあるスノウに、僕は目を回しながら話題を戻す。
「みんな二年前に徴兵されてから、一度も村に帰ってきて無いんだ、早く会いたいよ。お父さん僕たちのこと誰だか分かるかな」
僕の気苦労を知り薄く笑ったスノウは「変わりゃしないよ」と言いながら、髪を後ろで結んだ。
服を着替えた僕たちは居間に向かっていった。階段を降りていく途中から、スープの匂いとパチパチと鳴る炎の温かさに気が付いた。微笑みあった僕らは居間への扉を開ける。
僕とスノウはお母さんに朝の抱擁をする。その後に、いつもはパンとサラダだけの食卓に温かなスープが付いているのを嬉しそうに眺めた。
「おはよう。今日くらいは少し贅沢したって、誰も文句言わないわよね」
温かい湯気に包まれて、僕たちは神に感謝してから食事を食べ始める。
「こんな毎日が、いつまでも続いたらいいね」
目を擦りながら、お母さんは僕らにそう言った。
窓の近くで小鳥が鳴いて、朝の風が流れ込むと、温かな香りが部屋を満たしていった。