第二十三話
お待たせいたしました。
ようやく復帰出来そうです。
少々無理やり感が否めませんが。。。
楽しんでいただけたら幸いです。
人生は、どうしてこんなにもままならないんだろう。
目の前にある大切なものさえ守れず、手にしようとした途端にあっけなく消えていく。
僅かな時間の中を自分なりに生きてきたつもりだったけれど、結局何一つ、この手に掴むことさえ出来なかった。
「どっちも大切、だなんて……我侭だよな」
同情なんかじゃない、好きだ、って、とっさに言えなかった。
好き……?
自分は、あの人のことを、シューランのように好きだったのだろうか。
いや、好きだった、ではなく、好きだ、の間違いかもしれない。
そうでなくちゃ、この胸の中を荒ぶる感情に説明が付けられないかもしれないからだ。
「……は、あはは……俺ってなんて馬鹿なんだろ……っ」
失ってから、恋をしていたことに気がつくなんて。
「どうして欲しい、なんて言わなきゃ良かった……」
そこに自分の意思なんて無かった。
他人に自分の行動を求めるなんて、失礼にもほどがあるんだと、今になって気がつく。
それよりも先に――――自分がどうしたいのかを理解していなくちゃいけなかったのに。
「いかな、きゃ……っ!」
今ならまだ間に合うかもしれない。
自分の気持ちに、まだ整理が付いていないのは本当だ。
だけど。
「このままなんて、そんなの絶対だめだ」
後悔したくない。
また、大切な人を失いたくなんてない。
我侭でも、理不尽な気持ちだとしても。
何もしないまま諦めるなんてこと、出来るはずがなかった。
暗闇の中を注意しながらも最速で駆け抜けていく。
焦る気持ちと、自覚したばかりの気持ちを胸に抱きしめながら、どこにいるかも分からない天邪鬼な男の影を追っていた。
(何でか……なんて、そんなのわかんない。だけど、そんなのどうでもいいんだ)
この気持ちが、恋とか愛とか、そんな言葉で括れるようなものなんかじゃなくっても。
(ただ傍に……――――)
いられたら。
「う、わぁっ」
足元を遮るのは、先輩があらかじめ用意したであろうトラップの数々。
ネズミ捕りのような原始的なものもあれば、タイミングよく飛び出してくるお化け(のようなもの)など様々だ。
なんでこんなものを、と思うけれど、だからと言って侮ってはいけない。
原始的なものはそれなりに有効だからこそ、考え出されたものなのだから。
そうこう考えているうちに、油断すればすぐに引っかかってしまいそうになる。
そのせいで走るスピードな否応なしに減速することを免れないし、だからこそこの罠がある意味があるんだろうとも思う。
「そんなとこまで考えなくってもいいのに……よっ、と」
ぴょんとタイミング良く避けながらも、段々と慣れてきてスピードを上げていく。
一つもトラップが発動されていないけれど、なんとなく、こっちの方を彼が通ったような気がしていた。
「つかコレってもう肝試しの域を超えてんじゃね? って……ちょっ、あぶねっ!」
最早一つのアトラクションと化してきた障害物の多さに辟易しながらも、何だか楽しく感じてくるのは何故だろう。
もしも二人で一緒にココを通っていたのなら、文句を言う自分と、笑いながら軽々と諌めてくる先輩の姿が簡単に思い浮かぶ。
何だかんだいいながらも、一緒にいて楽しかったんだと今になってようやく自覚した。
「とりあえず、見つけたら文句の一つでも言ってやらないとな」
もう一度心にそう強く決めて、ようやく見えてきたゴールへと駆け抜けていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「センパイっ!」
寂しげに佇む鷹司先輩を見つけると、いてもたってもいられずに俺は叫んだ。
ゆっくりと振り向く先輩の瞳は、冷たい非難の色と怒りに染まっているように見えた。
だけどそんなことは俺には関係なんてない。
どれだけ嫌がられようと、罵倒されようと、自分のしたいことをするまで俺は引き下がることなんて出来なかった。
「……何しにきたの? キミの顔なんて、見たくなんてないんだけど」
「っ……!」
当然のように放たれる射抜くような冷たい視線と言葉。
だけどそれでも、俺は言わなくちゃだめなんだ。
グッと唇を噛み締め、いろんな思いが交差する心をなんとかなだめて先輩へと向き合う。
ゆっくりと呼吸を落ち着かせて、一度だけ確かめるように深呼吸をした。
「一言だけ、言わせてください」
懇願するように、だけど揺るがない決意を見せるように、そっと言葉と紡いだ。
「俺は、同情なんかじゃなくて、今までアンタと一緒にいて楽しかった。だから、これからも一緒にいて欲しいと思ってる」
「…………っ!」
「俺には確かに、アンタとは別の人がずっと好きだったよ。それは今も……そうなのかもしれない。卑怯だって、ズルイって自分でも分かってるけど、だけどそれでも、その人と同じくらい、アンタのことも好きなんだ」
俺のしたいこと。
して欲しいこと。
それは誰が見ても理不尽で、我侭な言い分だってことは分かってる。
だけどそれでも。
「それが、俺の心からの本心なんだ」
嘘偽りの無い、気持ち。
どれだけ矛盾していることを言っているのか、そんなの誰に言われなくても分かってる。
本当は今だってシューランを諦めることなんて出来なくて。
だけど鷹司先輩を失うことも嫌で。
そんな到底叶うハズのない願いだって分かっているけれど。
だからと言って、簡単に選べるほどどちらも失うことの出来ない、大切な……想い。
「……クッ、ふふふ……」
唐突に笑い始める鷹司先輩に困惑の視線を向けるけれど、尚も止まることなく笑い続けている。
「……? 俺、なんかヘンなこと言ったっけ!?」
「クククッ……はっ、まいったね」
「はいッ!?」
「どうしてキミは……そんなにも、強いんだろうね」
「……言ってる意味が全然まったく分かりませんよ……」
なんでアンタはいっつもそうなんだ……と突っ込みを入れるけれど、いつものような雰囲気が流れて少し嬉しくなった。
止めても無駄なので放っておくと、やがて諦めたように笑い声が収まった。
「……おいで、僕の凛。キミに、愚かな男の話をしてあげよう」
不意に真剣な眼差しを向けられて、ゆっくりとその手を差し出された。
答えは返って来ていないけれど、その手が答えのような気がした。
俺はそっと腕を伸ばして、少しばかり緊張しながらその手を取った。
「うわっ」
グイと強引に引っ張られて、胸の中に抱き込まれる。
さっきまでの態度は一体なんだったのかと思うほど、回された腕は優しかった。
触れられる感触が、今までと違って思えるのは何でだろう。
意識した途端にドキドキしている俺のことなどお構いなしに、鷹司先輩はぎゅっと俺を抱きしめた。
「ちょっとだけ、貰ってもいいかな」
「へっ!? な、何を……、ですか」
「キミの中を流れる……その甘美な、血。」
「えっ、はいっ? えーっと……」
突然のことで思考が混乱しかけたけれど、先輩もヴァンパイアなのだから(と勝手に思っている)まぁ仕方がないかなとも思った。
「俺ので良いのなら……どうぞ?」
「良かった。それじゃあ……ちょっとだけ、チクッってするけど、我慢してね」
「はぁ……、っ、いたっ」
抱きしめられた腕に力がこもると同時に、首筋に針が刺さるような鋭い痛みが一瞬だけ走った。顔の辺りを先輩の髪が擽っているのを感じるので、俗に言う吸血行為がされているのだろう。
(……なんか恥ずかしい体制じゃね? もしかして……)
うわぁ~、誰にも見つかりたくねぇこんな現場……と一人妄想に耽っていたけれど、すぐに先輩はその行為を止めた。
「……もう、いいんですか?」
「ん、あぁ……大丈夫。痛くなかった?」
「それは、まぁ。って……ん!」
人が話しているのに舐めるなよっ!
あろうことか、噛み付いたその首筋に舌を這わそうとしてくる(というか既に舐められてる)先輩の頭を抑えようとするけれど、時折ゾクゾクとする感覚が慣れなくて腕に力が入らなかった。
「ちょっ、もう……止めろってばっ……」
「ふふっ、可愛いね、凛」
「可愛くなくていいから舐めるなっての…っ!」
「残念。もうちょっと、味わっていたかったのに」
全然悪びれもなく楽しげに笑われると、腹が立つけど呆れるほうが先に来るのは何故なんだ。
ガックシとうな垂れる俺を余所に、ちゅっともう一度だけ舐め取ると、先ほどよりも妖艶な笑みを浮かべて唇にも口付けを落とした。
「ん……っ」
「ごちそうさま。凛から元気を貰ったことだし、行こうか」
「は? 行くって……どこへ?」
「行けば分かるから。しっかり掴まっててね」
「えっ、ちょっ、うわっ」
その瞬間、強烈な浮遊感が身体を襲った。
思わず目をぎゅっと瞑ってその衝撃に耐えていると、やがてそれは収まり、地面に足が着くのを感じた。
そっと瞳を開けると、そこに広がっていたものに驚愕した。
「な……んで、ここ」
「さぁ、おいで。お茶でも飲みながら、話してあげるから」
相変わらずマイペースに進む先輩に引っ張られながら、その中へと入っていった。
「だって、ここは……」
そう。
そこは。
その場所は、いつかの宝物のような日々を過ごした――――シューランの館、だった。