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第二十二話


 どれくらいの間、そうしていたのだろう。

 辺りを照らす光は星の瞬き以外他にはなく、暗闇に慣れた瞳でさえも互いの顔を近くで認識出来る程度だった。

 鷹司先輩はじっと自分を抱きしめたまま動こうとはしない。

 耳元をくすぐる吐息と、夜風を舞う音だけが周囲を支配していた。

 真紅の花びらがひらひらと踊り、まるで意思があるかのように自分と鷹司先輩の周りを舞っていた。

 突然フラッシュバックされた過去。

 どうして急に、あんなことを思い出せたのだろうか。

 ずっと会いたかったのに、ずっと知りたかったことが分かったのに、どうしてシューランよりも目の前のこの人が気になってしまっているんだろう。

 自分で自分の気持ちが、分からなくなっていた。


(本当に知りたいのは……この人?)


 そんな馬鹿な。

 確かに知りたいとは思ったけれど、自分にとっての一番はシューラン以外ありえないのに。


(どうして……俺、こんなにも……迷ってるんだよ)


 グラグラと揺れる自身の精神。

 シューランがヴァンパイアで、目の前のこの人もそれっぽいのなら、何処かで二人は繋がっているのは確かだ。

 英先輩も、四柳院も。

 姿形は当時と違っているけれど、人でない存在なら変えることも容易なことなのかもしれない。

 でも今はそのことよりも、不安げに自分を抱きしめる腕が気になって仕方がなかった。


「センパイ……? だいじょうぶ……ですか…?」


 自由な方の腕を回して、そっと優しくその背を撫でる。

 繋がれたままの手を伸ばして軽く触れ、僅かに震えるその手を暖めた。


(何だか……あの時みたいだ)


 思い出したばかりの記憶と現在(いま)が交差する。

 この状況が既視感(デジャヴュ)を生み出し、事実あったことだった。

 あの時と同じように、目の前のこの人は何かを迷うようにしている。


「俺に、どうして欲しいですか……?」

「……っ」


 半ば確信を持つように問いかけると、鷹司先輩はピクリと肩を震わせた。

 何かを恐れるように。

 何かを知っているかのように。


「僕にそんなことを言っていいの……?」

「え……」

「その身体が欲しい、その心が欲しいって言ったら、キミは僕に全部くれるの」

「…………何、を」


 言っているのか分からない、と告げる前にぐいと髪を引っ張られ、強引に上向かされた。

 痛みを感じているのは自分なのに、そうさせている鷹司先輩の方が何故か辛そうにこちらを見つめていた。


(どうしてそんな顔をしてるんだよ……?)


 教えて欲しい。

 自分を欲しがる気持ちも、その心の中で何を隠しているのかも。

 辛いならそう言ってくれればいいのに。

 今まで思ったりしたいこと全部、自分勝手にやってきたくせに。

 どうして今更そんな顔をするんだろう。


(そうだよ、俺なんかじゃなくてもいいじゃん。他にいっぱいハーレムの連中がいるんだから、そいつらだって構わないくせに……)


 そう自分に言い訳するけれど、本当は違うことくらい……もう分かっていた。

 補習の代わりと称して生徒会の手伝いをし始めた時から、この人がそういった人たちと遊んでいるところをほとんど見たことがない。

 夏休み中もいつも何処かへ姿を消すけれど、いつだってちゃんと仕事をしていた。

 自分はもう……この人のことを信頼しているくせに、意地っ張りな心がそれを認めたがらなかっただけだ。

 自分だけだと、言って欲しくて。


「どう……して?」

「何……?」

「センパイは、どうして俺なんかを欲しがるんですか……? 俺、センパイのことが分からない。けど、分からないことをそのままになんてしておきたくないし、センパイにしてあげられることがあるのなら、なるべくしてあげたいって思います。全部と言われてもどうすればいいのか分からないし、分からないからどうすれば良いのか分からないけど……でも、ちゃんと分かりたいって思います」

「リン……」

「俺、さっき言いましたよね? 『センパイのこと知りたい』って。だから、ちゃんと教えてください。寂しいなら寂しいって言ってください。特別に何かは出来なくても、傍にいることくらいなら出来ます」


 これが本当の気持ち。

 誤魔化したりしてちゃんと向き合って来なかった、本音。

 シューランのように何処か寂しげなこの人が、知りたいんだ。

 振り回されるだけじゃなくて。

 流されるんじゃなくて。

 本当のこの人を――――見たい。


「俺、今ならアンタのこと…………ちゃんと、見れると思うんです」

「…………っ」


 ――――僕自身を見て欲しい。

 以前、そう言っていたこの人。

 その時の自分は、シューランのことで頭がいっぱいで、それ以外のことなんて何も考えられなかった。

 だけど今なら違う。

 シューランはもちろん大切な存在だけど、この人のこともきちんと考えなくちゃいけないんだってことが……もう分かってしまったから。


「リンは……優しいね」

「……は?」


 不意に掴んでいた手を放し、解放される。

 ガクンと後ろに倒れそうになるけれど、寸でのところで耐え切った。

 相変わらず問いには答えてくれず、困ったような笑みを向けられるけれどどうすればいいのか分からない。

 戸惑うこちらには気にも止めず、制服のズボンのポケットから鍵を取り出した。


「な……んで」


 ソレを持っているんだ?

 そう問いかける前に、シャランと繋がれた枷を解いた。

 手首は自由になったけれど、心はそれに付いていけていない。

 立ち止まったまま鷹司先輩を見上げると、何処かを諦めるような微笑みを浮かべていた。


「僕はリン……キミが好きだと、言ったね」

「……はい」


 確かに、言われた。

 冗談だと思っていた言葉。

 からかわれているんだと思っていたその台詞。

 だからそれに対する答えを今、持ち合わせてなどいなかった。

 答えないことが分かっているように、鷹司先輩は何も追求してこない。

 それでいいのだと……ずっと甘えていた。


「けどね、僕は……」


 一瞬、低くなった声にドキリとする。


「同情で好かれるほど、落ちぶれてはいないんだよ」

「え……?」

「キミが哀れな化け物のために心を痛める必要なんか……何処にもないんだ」

「ちょっ……なに、言って」

「優しいキミが確かに好きだったけど……優しさは時に残酷なんだよ――――覚えておいて」

「……っ、センパイ!」


 じゃあ、と去って行く先輩は、まるで別人のように冷たく感じられた。

 さっきまで触れられていた箇所は、夜風に(さら)われて温度をなくしていく。

 それと同時に遠ざかる先輩を追いかけることは……出来なかった。


「もう……っ、意味が、わかんないよ……っ!」


 何もかもがぐちゃぐちゃで、分かることなんて何も無かった。

 知りたいと願った自分。

 教えてはくれない先輩。



 全てを知っているかのように咲き誇る桜は――――その心が離れていくかのように、真紅から薄紅色へと変わっていく。


「知りたいって願っちゃ……いけなかったのかよ…………っ!」


 シューラン!!

 昔も今も、上手く生きられない自分が……無性に腹立たしかった。







おかげ様でユニークアクセス数が6000人を突破いたしました!

本当にありがとうございます!!


これもひとえに、気長に待っていてくださる読者さまのおかげです!!


活動報告のほうでは現実での活動などを記載しておきますので、よろしかったら遊びに来てくださいね♪



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