第十六話
このーきなんの気 気になる気~……
間違えてません、わざとです…。
気になっちゃうんだよ、とにかくっ!!
何故かは分からないけど、シューランのこととかこれからのこととか考えてると、絶対に頭に過ぎっちゃうんだよどうしてかっ!
今どうしてるんだろうかとか、この間のこと気にしてるんじゃないかとか、また怒らせちまったなぁとかイロイロと!!
え? 誰のことかって? そりゃ……アイツの、こと……だよ。
「ってちょっと待てよ俺っ!?」
ほんの一瞬前まで考えていた自分の思考が恐ろしい。
ナニ乙女みたいなこと考えてんだよ俺!?
いやいやいやいや、そうじゃなくって、問題は気になってるとか思っちゃっていることだよっ。
でも、本当に……俺はどうしたいんだろう。
あと少し。
ほんのちょっと、何かを見つけることが出来れば、きちんとシューランに会えると思うんだ。
この間見てしまったシューランの姿。
認めたくない行為だったけれど、あれは間違いなく彼だった。
長い間ずっと求めて止まなかった。
記憶の中で美化してしまうことってあると思うんだけど、そんなものを一掃してしまうくらい綺麗で美しいままのシューラン。
その姿は驚くほど何も変わってなどいなかった。
透き通った銀の髪も、左右で色の違う二つの瞳も。
何年も前に見た、造りもののように整いすぎた顔立ちさえも、時が止まったようにあの日のままで。
けれどその表情だけは、見たことがないほど怖かった。
「シューランは、俺にどうして欲しいの……?」
こんなにも近くにいるのに、あちこちにその存在を思わせる痕跡があるのに。
自分の目の前に、現れてはくれない彼の人。
「俺が、シューランだけを、見ていないから……?」
どちらも気になってしまう、優柔不断な自分に嫌気が差してくる。
アイツのこともちゃんと見なくちゃって思っているのも本当だ。
だけど、自分にとって一番大切なのは――――?
「俺の……バカ」
どっちも欲しいなんて、何時の間にそんなに我侭になってしまったんだろうか。
「寂しいのが、嫌なだけのくせに……」
傍にいてくれるのなら、誰でもいいのかもしれないなんて、どれほど自分は傲慢な人間なんだろう。
「目に見えているものだけが全てじゃない」って、知っているくせに。
それなのに、こんなにも惑わされてしまう。
現実はいつだって待ってはくれなくて。
知らない間に自分は、何かを間違えてしまったのかもしれなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「凛!」
肝試しイベント当日。
集合場所で出席簿を取っていると、後ろから声を掛けられた。
「はい? ……ってなんだ、雅人じゃん」
辺りも薄っすらと暗くなり始め、周辺にはバラバラと人が集まり始めている。
振り返ると、悪友である九条雅人がこちらへとやって来た。
「なんだ、って……相変わらず冷たいな、俺の親友様は。最近俺に会えなくて拗ねてんのか?」
「ばっ! ナニ言ってんだよお前はっ! ンんな訳あるかっっ!!」
冗談はマジで止めてくれ。
後ろから殺気立った視線がビシバシ感じるなんて思うのは、俺の気のせいであって欲しいと切実に願うよ……。
「え~~…ツレないヤツだな、全く。俺がこんなにも愛してるって言うのに」
「………………」
コイツ、本気で、殺るしかない!
「ふーん……なんだか楽しそうだね、凛?」
「っっ!」
完全犯罪を頭の中で計画していたけれど、そんなものはあっという間に吹っ飛ぶくらいある意味怖い声を掛けられた。
(マズイ……いろんな意味でマズイぞこれは……)
雅人と副会長は仲が悪い。
いや、悪いという言葉は語弊かもしれない。
けれど、親しくもなければ良好な関係ではないことだけは確かだ。
その証拠に、さっきまでふざけていた雅人の空気が一変して険呑な雰囲気になっている。
「はいはいはい、雅人も性質の悪い冗談ばっか言ってないで、あっちの四柳院の方で受付してこいよ。俺はまだ仕事あるから、なっ」
俺はそう言って、グイと雅人の背を押して、四柳院の方へと追いやる。
渋々といった感じで誤魔化されてくれた雅人がいなくなると、今度は別の意味で危険な雰囲気が流れるのを感じた。
ある意味でドキドキと緊張してくるのが自分でも分かる。
(どうしよう、最近の俺はこんなのばっかりだ)
何でこんなにも意識してしまうのだろう。
ただ、気になる……それだけなのに。
「……凛?」
「…………」
ゆっくりと鷹司先輩の方を向くと、さっきの不機嫌さは何処へやら、優しく自分を見つめてくる瞳とぶつかった。
薄いグレーの瞳。
柔らかそうな、サラサラと揺れる薄茶の髪。
王子様の異名を持つ、バランスの取れた綺麗な顔立ち。
いつもアホなことばっか言うくせに、本当は誰よりも先を考えている不思議な人。
(……そうだ。本当は、バカなんかじゃ全然なくて、生徒会長と同じくらい賢い人、なんだよな)
この夏休み中に幾度と無く見てきた。
くだらないって思ったり、効率が悪いって思うことも多かったけれど、結果としていつだってそれが最善だったんだって何度も思った。
一緒に仕事をしなければ知りえなかった一面。
今日の段取りだって、自分はただ言われた通りのことを成すだけ。
スケジュールや必要なものなど、決めなければならない細かいことも全てこの人が自分でやったんだ。
自分はただ、指示されたことをこなしていくだけで、何も考えなくて良かったんだ。
(俺……見ているようで、何も見てなかったんだよな)
有能さを表すかのように、続々と人が集まってきている。
休み中なんて、連絡が滞ったりすることなんてザラにあるのに。
この人に掛かれば、そんな初歩的な問題なんて絶対に起こらない。
(忘れてたけど、生徒会長の次に人気あるんだよな、この人……)
何でそんな人が俺なんかに構ってくるんだろう? とまで考え始めていると、目の前にずいとその秀麗な顔を寄せられた。
「っ! な、なんですかっっ!」
「そんなに熱っぽい瞳で見つめられてたら、勘違いもするよ?」
「はぁっ!? 何言って……っ」
文句を言おうとしたけれど、軽くちゅっと唇に触れられる。
こんなとこで一体ナニを考えてるんだよコイツはっ!?
(って違うだろ俺っ! 怒るトコはソコじゃないだろーーーっっ!!)
半ば慣れてきてしまったこの行為に、何の疑問も持たない自分が恐ろしい。
もっとキモチワルイだとか、こんなことは止めて欲しいとか、言うべきことはたくさんあるはずなのに。
振り回されてばっかりで、冷静な判断なんて出来るはずが無かった。
「もう……始まります。早く行きましょう」
今の俺に言えるのは、それだけだった。